「苦悩の中で見えてきたこと」 ー「おでんの会」 参加者、田中さんへのインタビューー

「苦悩の中で見えてきたこと」京都自死・自殺相談センターSotto主催「おでんの会」にて。参加者、田中竜司さんへのインタビュー。

 

 自死にまつわる苦悩を抱えた方を支援するNPO、京都自死・自殺相談センターSotto。今回は、相談センターが定期的に開催している居場所づくり行事「おでんの会」に参加させていただき、参加者のひとり田中竜司さんにお話を伺った。田中さんは東京大学法学部と同大学院を卒業後、フリーの研究者として活動されている。しかし、様々な逆境をきっかけに死にたい思いと精神疾患(統合失調症)を抱え、入院されていた時期もあった。投薬による改善が見られない中で、様々な外国語を学ぶことによって脳を活性化させる「語学リハビリ」という方法論にたどり着いたという。苦悩を抱えつつ、試行錯誤を重ねる中で、見えてきたものとは…?これまであまり公開されてこなかった、苦悩の当事者の生の声を聞いた。

 

田中さん(加工)02

「おでんの会」での発表の様子

 

―田中さんが死にたいと思われたきっかけを教えてください。

 死にたいと思ったことは二度あります。まず、子供の頃、父親による家庭内暴力を受けていました。いっそ消えてなくなりたいと思いましたが、母親が支えてくれたので、なんとか首をくくらずに済んだんです。

 二度目は母がガンにかかってしまい、一生懸命看病したのですが、助からず死んでしまったときです。そのときは、相続税のことで税務署が来たりと慌ただしかったですし、ちょうど私が大学院を出て就職に失敗したタイミングも重なり絶望しました。「お前はダメなやつだから、根性直して革命闘争に参加せよ。」などの幻聴も始まりました。

―そのような状況にどのように対処されたんですか。

 親族に強くすすめられ、精神科に入院しました。母の看病をしていたときに、ガン患者の精神的ケアをするために精神医学の本を読んだことがあったので、そもそも精神医学に懐疑的で気が進まなかったのですが…。入院して、さらに懐疑的になりました。

―入院中の心境はいかがでしたか?

 私にとって入院生活は医師の言う通りに振る舞うあやつり人形のような日々で、クオリティ・オブ・ライフ(人生の質)が破壊されていると感じました。一日も早く退院したい、というのがモチベーションでした。何か助かるための取り組みをしないといけない、という現実的な必要性に迫られたんです。

―どのような取り組みをされたのですか?

 そもそも精神疾患は大脳の病気ですから、頭を使うリハビリをやろうと思いました。私は文系だったので、語学を始めることにしました。言語の情報を脳細胞に通すことが集中力アップにつながるんです。

田中さん(加工)01

―その選択はご自分でなされたんですか?それとも指導者がいたのですか?

 私の文系の経験、それと直感・嗅覚で選択しました。結果として大当たりだったと思います。

―病院内に同様の取り組みをする人はいましたか?

 周りにはいませんでしたし、視線もひややかでしたが、10年続ける中で少しずつ理解者が増えてきました。医師はそれでも依然として消極的でしたが。

―なぜ10年間も継続できたんですか?何か確信があったのでしょうか?

 療養生活はヒマなので、語学しかすることがないですから、やめる理由もなかったんです。もちろん棒暗記では長続きしませんが、その言語の特徴に着眼してメカニズムを理解するよう努めました。それと、私は水泳の飛び込み競技をすることがあるのですが、踏切のときの姿勢に集中力が要るスポーツなんです。リハビリを始めてそちらの方にも応用できて良い結果が出たので、リハビリの効果に自信がもてました。

 精神科病院の作業療法では、折紙や切絵などしかやらせてもらえないのが現状です。私が取組んだ、語学によるリハビリは、今や語学書のレファレンス・サービス(参考調査業務)にも及ぶものに成長してきたので、「継続は力なり」だなとつくづく感じています。

―精神疾患を抱えた方が、田中さんのように自分に合ったリハビリ方法を見つけるにはどうしたらいいのでしょうか?

 各々が興味関心をもっているものに取り組むべきですね。スポーツにしても団体競技が苦手な人もいますし、個人の適性に合わせて見つけていくしかないと思います。私には指導者はいなかったので手探りで見つけましたが、教科書どおりにやらない方が上手くいきますね。マニュアル通りというのは、思考停止を意味するので、自分で方法論を見つけていくことが大事だと思います。

―死にたい思いを抱えた方にメッセージをください。

 メッセージですか…難しいですね。私が助かったのは、運がよかったからだと思います。首の皮一枚つながったというか…。精神科の病棟内でも自殺者は多いですし、入院していれば必ずしも安心というわけでもありません。私にとっては死ぬまで退院できない、というのが最悪の状況でしたから、退院してそれを避ける事ができただけでもよかった。

 人生は悪いことばかり続くかというと、何十年スパンで考えれば、なんとか助かることもあるんですね。言うなれば徳川家康のような生き方です。今川家に人質に取られた不遇の人生でしたが、運が向いてくるのを辛抱強くまっていた。信長のように直線的に出世できなくても、家康のようにチャンスを待つことが大事だと思います。自分の力ではなく、幸運に助けられて、いままでこれました。いまは死ななくてよかったと思います。

※本インタビューは個人の感想です。

2016.7/25 更新

   

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掲載日: 2016.07.25

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