僧職図鑑15―麻田弘潤(あさだこうじゅん)―《前編》

2004年、新潟県中越地震が起きました。麻田さんは震災を機に、お住まいのお寺を開放し、さまざまなイベントやワークショップを主催するようになりました。斬新なアイディアの数々と、これからのお寺の役割についてお話しをお聞きしました。

 

 

― 麻田さんの活動について教えてください。

 

いろんなことをやっています。自坊の極楽寺では、年に一度「極楽パンチ」というイベントを開催しています。それと「消しゴムはんこ」が得意で、消しゴムはんこと仏教をコラボさせた「諸行無常ズ」というユニットを結成して、全国各地のお寺で消しゴムはんこ法話ワークショップを開いています。最近では原発問題に感心があって、柏崎刈羽原発の運転差し止め訴訟の原告もやっています。
他にも単発でイベントを主催しています。

 

― お坊さんとして活動されながら、さまざまな活動を掛け持ちされているのですね。

 

そうですね。自分でも色々な事をやっていると思います。極楽パンチを始めてから、お寺の世界以外の付き合いがすごく増えていって、そのご縁の中で色々な展開が生まれていきています。

 

― その「極楽パンチ」はどんなイベントですか?

 

「極楽パンチ」は、新潟県中越地震の復興イベントとして、エコをテーマに2006年以降毎年続けているイベントです。

当時はライフラインが使えず、日常生活が困難な状態でした。そんな中、市のゴミの焼却場も使えなくなり、広場に大量のゴミの山が出来てしまいました。そのような光景を目の当たりにしたことで、僕らは普段見えないけれども多くのゴミを出し続けていたことに気付かされました。

僕らは震災からの復興を目指すにあたって、ただ単に元に戻すだけでなくて、こういった気付きを大切にしたいと思いました。それで、極楽パンチのテーマを「エコ」に設定して、循環型の社会をめざすために、一日を通してゴミを出さないようにしたり、電気を使わないライブなど、今までとはちょっと違う生き方に変われるようなイベントにしようとチャレンジしています。

 

—具体的にはどんな内容ですか?

極楽パンチでは昼間は本堂前の広場で「エコマーケット(フリーマーケット)」、夜は本堂で「キャンドル×バルーンナイトライブ」を開催しています。

「エコマーケット」では、エコをテーマにした手づくり品や、飲食の出店があります。飲食はすべてリユース(再利用)食器が使用されていて、これを使うとイベント中のゴミがほとんど出ません。毎年たくさんの出店(65店)があって、本当に賑やかになります。

「キャンドル×バルーンナイトライブ」は、お寺の使用済みろうそくをリメイクしたキャンドルとバルーンアートで本堂内を飾り、電気の無い照明でミュージシャンによるライブをおこなっています。

キャンドルは蝋燭作家である「Hand made candle TAiMU馬場一樹」さん、バルーンアートはバルーンアーティストの「細貝里枝(Daisy Balloon)」さんに製作をお願いしています。

今まで出演したミュージシャンは、U-zhaanさん、坂本美雨さん、おおはた雄一さん、七尾旅人さん、OKIさん、一十三十一さんなど、本当に素敵な方ばかりです。

お坊さんのミュージシャンでは、三浦明利さん、やなせななさん、今回はシンガーソングライターでお坊さんの二階堂和美さんにお越しいただきました。

また地元出身のミュージシャンからもご出演いただいています。

 

― 驚いたのは、「極楽パンチ」の主催者側にお寺の関係者がほとんどいないということです。

 

「極楽パンチ」の開催にあたっては、地元の有志が集まって計画を練ります。コア・メンバーに僧侶はいません。また当日関わってくれるメンバーにも、ほとんどお寺関係の人はいません。東京や大阪など遠方から駆けつけてくれる方もいらっしゃいます。

そのメンバーでそれぞれ担当を決めて、色々と計画を練っていきます。その時に各担当が絶対にやってみたいという事に関しては、大枠を外していない限り全面的に任せてしまいます。あまりお寺側の論理でルールを作らないようにして、それぞれのアイディアを活かそうと思っているからです。

 

― 「極楽パンチ」の認知度は上がっていますか?

 

何年も続けているうちに認知度はかなり上がってきました。来場者も年々増え続けています。昼間は世代を問わず多くの方が来てくださいます。夜はほとんどが若い方です。

認知度を上げるためにお寺側からの発信も、お寺の新聞やご門徒さんだけに向けたものだけでなく、テレビやラジオ、情報誌などのメディアにも積極的に顔を出すようにしています。フライヤーも可愛いものを作って色々なお店に置いてもらっています。

そうすることで今までお寺にお参りした事のない若い世代もたくさん来てくれるようになり、メディアを通して自分のお寺の活動を知ったご門徒さんも来てくれるようになりました。

 

—今までお参りした事のない人にとってお寺でのイベントに参加する事に抵抗はないのでしょうか?

抵抗はないみたいです。逆にイベントに参加し続けてくれている方が、「たまには本堂に入ってお参りしろ」と、その方の友人(ご門徒さん)を連れてきてくださったことがあるなど、そんなに皆さん違和感を感じずにご参加いただいているようです。

今年は中越地震から10年経つという事で、今回初めて本堂でおつとめ(読経)しました。これまで宗教色はあまり出しませんでしたが、毎年「お寺なんだから追悼のお参りをしたらどうか」という声もいただいていたので、節目の今回は少しお寺らしいこともやってみました。

 

― 「消しゴムはんこ」の活動について教えてください。

 

「消しゴムはんこ」は文字通り、消しゴム板をカッターや彫刻刀で彫っていって、はんこにしたものを言います。僕は消しゴムはんこを初めて8年経ちますが、きっかけは極楽パンチの中で、無地のバッグにはんこを捺し、オリジナルエコバッグを作るというワークショップをスタッフと考えまして、僕がはんこ担当になったのが始まりでした。そうしたらすっかりハマってしまって(笑)

その後だんだん上達して、イベントに出店したり図書館でワークショップを開いたりするようになりました。

そして東日本大震災による津波の被災地で、消しゴムはんこを使ったボランティアをさせていただきました。オーダメイドではんこを作ったり、ワークショップで教えたりという内容です。その時に知り合った消しゴムはんこ作家の津久井智子さんと「諸行無常ズ」を結成して、全国のお寺で消しゴムはんこ法話ワークショップを開催しています。

 

 

 

― 「消しゴムはんこ」の魅力ってどんなところにありますか?

僕にとっての消しゴムはんこの魅力は彫って捺すだけでなく、コミュニケーションツールとして、とても優れているところなんです。

仮設住宅でオーダメイドではんこを彫っていた時に、たんたんと手を動かしながら住民の方とおしゃべりしてたんです。でもお互いに消しゴムに集中しているから、話にそんなに集中していない(笑)そのまま何人か集まりながら、気負いのないユルい話が続きました。そうしたらある方が周りの方も今まで聞いた事のないような被災時のお話をしてくださったんです。

「衣を着た僧侶の姿になり、悩みをお話し下さいと面と向かった時に、はたしてこのような話をお聞きする事が出来ただろうか」と考えた時に、消しゴムはんこの持つ楽しさ(彫る・捺す)以外の魅力(コミュニケーション力)に気付きました。
仏教にもコミュニケーションは必要なので、それならば既存の法話よりも「消しゴムはんこ」のコミュニケーションを通した法話の方が、少なくとも僕にとってはやりやすいのではないかと思いました。

仏教の法話ではお坊さんが一方的にお話しをすることが多いですが、消しゴムはんこ法話はコミュニケーションを重視します。消しゴムはんこを通して仏教が生活や場に穏やかに根付いていけばと思っています。