被災地の声「何もないね」

(70代、女性)

震災前に自宅が建っていた地域には、あまり足を運ばない。

 ただ、津波被害に遭った自分の家の跡地に残っている庭石は、今でも見ることができるのだそうだ。

きっと、その庭石を見ると、さまざまなことが思い出されるのではないかと訊ねてみると、一言「何もないね」との答えだった。

ただ、生前にご主人と二人で、玄関先に綺麗な石を並べたこと。

何年もかけて梅酒を作ったこと。

 梅酒を保存するために、ご主人に作ってもらった大きな物置。

 そうしたものが全部流されてしまったのだそうだ。

「何もないね」と言われた言葉の奥には、大事な思い出を、思い返す縁(よすが)もないのだというお気持ちが込められていたのではないだろうか。

(安部智海)

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