お線香の知られざる力 日本人の意外な宗教心|日本香堂 小仲正克氏インタビュー<前編>
■小仲 正克(こなか まさよし)氏 プロフィール
1990年 3月 立教大学 経済学部 経営学科卒業
同年 4月 三菱銀行入行
1995年 10月 東京三菱銀行(本店営業推進部)退行し、
株式会社日本香堂入社
以後、研究室、R&D事業部
1998年 6月 取締役 新市場開発本部長
1999年 4月 常務取締役
2000年 6月 代表取締役社長
2011年 4月 株式会社日本香堂ホールディングス設立 専務取締役 就任
2015年 4月 代表取締役社長
【趣味:水泳・ランニング・読書・音楽鑑賞】
ーー最初に、御社の事業内容について、自己紹介も含めてお聞かせください
小仲 正克氏(以下:小仲):大学でマーケティングや経営学を学び、銀行に入行して支店と本店の営業推進を担当しました。その後、父が会長を務める日本香堂に入社し、研究開発や営業を経験し、2000年より18年間、日本香堂の社長を務めました。
弊社はお線香については後発だったので、店頭に置いていただくために苦労したのですが、「青雲」や「毎日香」のコマーシャルなどを展開することでシェアを伸ばしてきました。かつては業界内でのシェアアップが成長と同義でしたが、2000年をピークにお線香の需要が伸び悩んできました。
当たり前のようにお線香を使っていただける時代ではなくなってきたので、まずは使っていただくためのご提案が必要になったのです。そこで、志をおなじくする方々と同じ舟にのって、共に広げていく姿勢が大事だと考え、他社と一緒に市場を拡大していく取り組みを始めました。具体的には「喪中見舞い」や「母の日参り」のご提案などです。
「母の日参り」は、郵便、花業界、和菓子業界など10社以上とタイアップし、新たな習慣をプロモーションしました。花業界において、1年間の売り上げの半分が母の日といわれています。実は母の日にお参りをする方も、ここ10年増えているのです。
昨今、人々の思いは、遠い先祖への思いから、身近な個人への思いにシフトしてきているように思います。お彼岸よりも、母の日の方が、亡くなったお母さんへの思いが強かったりするのです。母の日は、ゴールデンウィークで人が動く時期でもあるので、今後は鉄道業界と連携するなど、更なる可能性を感じています。ただ、我々企業だけでは広がりに限界がありますので、お寺さんのご理解を得ながら少しずつ習慣を根付かせていきたいと考えています。
青雲CMカット
2019母の日参りポスター
ーー「母の日参り」とは興味深いチャレンジですね。香りは仏事にも欠かせない要素だと思いますが、どのような関連性があるのでしょうか?
小仲:仏事等で用いられる線香、焼香は熱の力で上昇気流を生じさせ、それに伴い煙と香りを拡散させます。葬儀や法要の参列者は、お焼香がないと参加した気がしないのではないでしょうか。お墓参りのときでも、あの香りがないと物足りなさを感じる人もおられます。もともとは清める、という意味で香りを用いていたと思いますが、参列する側の没入感を高める、という効用も大きいと思います。
葬儀の質をはかるうえで、使用しているお焼香の香りの良さが一つの指標になると私は考えています。厳かな雰囲気をつくる重要な要素なのです。