葬儀は“つながり”の結節点|自治医科大学教授 田中大介さんインタビュー<後編>

 

ライフデザインに寄り添う宗教者

 
――寺院・僧侶と地域や専門職との連携のあり方に、どのような可能性がありますか?
 
田中:私が所属している自治医科大学はへき地医療に特化した大学であり、へき地では高齢単身世帯が増えています。そして、アドバンス・ケア・プランニング(ACP、人生会議)に象徴されるように、死ぬ前からいろんな専門職と事前に話し合っておくことが推奨されています。このような人生設計・ライフデザインを考える際に、宗教者が関わるべきだと思います。実際に、病院で宗教者を求めているという声を聞くことはあります。
 
もちろん、病院にお坊さんがいるなんて何事か、と感じる方との折り合いをつける必要もありますが。宗教者はひとりの職能者として役割を発揮し、医療と宗教の協働の中で人々に貢献できると思います。たとえば看取りのプロセスで僧侶の方々の話を聞き、また自らの話を聞いてもらうだけでも、安らかな死を迎える支えになるに違いありません。緩和ケアなどの現場でもう少し宗教と医療が協働するような動きが広がれば良いな、と思っています。単一の職業(職能)では果たすことができないけれども、さまざまな専門性を持つ人間と組織が緩やかに手を取り合って、「大丈夫、あなたが逝くときもそばにいますよ」という安心感を与えられるようなセーフティネットを築くことが、今後の課題であると考えています。
 
――ご自身の死生観を教えてください。
 
田中:私自身が死ぬときは「死にゆくときも一人ではなく、皆で共にいる」ということを感じることができて、自分自身も感謝を伝えられるような最期を迎えたいと思います。
誰かを見送る際にも、人の死を「なかったことにしたくない」と思いますし、死んでからも関係性が続いてほしいと願っています。
 
――今後の展望をお聞かせください。
 
田中:現代の死、葬儀、葬制について、定点観測的に変化を追っていきたいです。
宗教人類学と宗教は切っても切り離せないものですから、もっと宗教との関わりも増やし、「宗教と宗教者が果たす役割」を考えていくことも、ひとつの大きな課題としてとらえています。
 
――本日はありがとうございました。
 

プロフィール

 

 

田中大介(たなか・だいすけ)さん
 
1972年生。金沢大学卒業後、三菱商事株式会社入社。6年間の勤務を経て東京大学大学院総合文化研究科に入学し、修士課程および博士課程を修了して博士学位取得。2020年度より自治医科大学医学部教授に就任して現在に至る。人類学を専門分野として、各地で葬儀に関する調査を実施。著書に『葬儀業のエスノグラフィ』(東京大学出版会)など。
   

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掲載日: 2023.01.10

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