大地震を経験した寺院が取り組んだこととは|北海道法城寺 舛田那由他さん×黒田真吾さんインタビュー<前編>

 

災害発生時の、心のダメージに向き合うには

 
――その後、どういったことに取り組まれたのでしょうか?
 
舛田:地震発生後、18日まで地元の学校が臨時休校になりました。そこで、12時~16時までお寺の大広間を活用して託児所を開設しました。主に小学生ぐらいの児童が自由に過ごしてもらえる場です。ただ場所を開放するだけでなく、腕輪念珠の体験といったプログラムも実施しました。地震後の後片付けや復旧作業に追われる親御さんにとってはありがたかったようで、60人以上の子どもが集まる日もありました。
 
元北海道日本ハムファイターズで当時WBC野球日本代表の監督だった稲葉篤紀さんも来られ、サイン会やキャッチボールも実施。他には、地元のゆるキャラや、普段は札幌の繁華街で活動されているホストの方々も応援に来てくださいましたね。遊んだり、走り回ったりする子どもを見て、感動で涙を流すお母さんたちの姿が印象に残っています。
 

催しの様子(画像提供:舛田さん)

 
黒田:ご近所で被災した方々だけでなく、支援したい外部の皆さんにとっても拠り所になっていたんですね。大きな災害のとき、被災地の外から支援をしたいけれど受け入れてくれるのか分からない、支援先を見つけられない。という問題はよく起こっています。
 
しかし、ここでは舛田さんの想いや活動が、まずは日頃から繋がっている周りの人たちにきちんと伝わり、拡散・認知され、人や情報が集まるハブになっていたのでしょうね。ご近所付き合いや、SNSなどを活用した情報発信など日頃の積み重ねが奏功した例だと思います。
 
――子どもたちを対象にした催しを行われたのはどうしてでしょうか?
 
舛田:子どもの精神的なストレスをとても身近に感じていたからなんです。私には娘がいて、発生当時小学校1~2年生ぐらいでした。娘いわく「部屋の窓ガラスが割れて降ってきた」と発生直後を振り返っていましたが、実際は割れていません。
 
でも、本人は割れたと頑なに譲らなかったんです。起こってないことがあったかのように思い込んでいたんだと思います。その経験がトラウマとなって、地震発生後1年ぐらいは1人で夜のトイレといった暗い場所にも行けなくなりました。
 
――それだけ、精神的なショックが大きかったのですね。
 
舛田:大人ですら恐怖を感じましたから、子どもたちの恐怖は計り知れないものだったと思います。大きな地震が起こると、余震が多く発生しますよね。実際に、北海道胆振東部地震の際も余震が多発しました。つまり、余震の恐怖と毎日対峙することになるんです。
昼間も怖かったですが、これから寝ようとしたときに来る余震は特別恐怖でしたね。子どもたちはこれをすごく嫌がっていましたし、イライラの原因にもなっていました。
 
黒田:私にも同じくらいの子どもがいるので、他人事とは思えません。夜中3時に本震が襲っているので、夜寝ているときにまた来るのではと不安になる気持ちがよくわかります。同じく夜中に発生した2016年の熊本地震(本震)から1年後、「熊本市男女共同参画センターはあもにい」が熊本地震を経験した子育て中の女性を対象にしたアンケートを実施しています。
 
「小学3年生の子どもが2階の子ども部屋にひとりで行けなくなった。留守番もできなくなり、させるのも不安になった。5歳児は時々怖い夢を見るようでうなされたり、 夜泣きしたりするようになった。ひとりでトイレに行けなくなった。」
「夫が仕事上、家にいない事もあるので、また地震が起きた際小さい子2人をかかえて逃げられるのか不安。また、夫は地震が起きたらすぐ仕事に行かなければならないし、親も県外のため不安がある。」などの回答が見られ、地震後には子どもだけでなく、大人にも大きなストレスが生じていることがよく分かります。(*2)
 
――それだけ、家庭内では子どもたちもつらそうにしていたのかもしれませんね。
 
舛田:そうですね。その後、医師資格、臨床宗教師の資格を持った僧侶らで「メンタルケアグループ・ブリトー」を立ち上げました。その後、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのDPAT(災害派遣精神医療チーム)にお越しいただき、子どものための心理的応急処置をテーマに、講演会を実施しました。
 
主に地域のお母さんが講演会に参加し、発生直後の子どもたちの様子も報告してくださいました。なんともない人もいればずっと落ち込む人、騒ぎ立てて大変だったという声もありました。子どもたちのケアでは、共感が非常に大事だと言われていますが、個人差が激しいという難しさもありますね。
 
講演会では大きな学びや気づきがありましたが、専門的な言葉も多く、難しく感じる保護者の方もいらっしゃったようです。そこで、専門家監修の元で冊子を作りました。
 

「こころの応急処置」冊子の様子(画像提供:舛田さん)※クリックで拡大します

 
黒田:とても分かりやすくまとめられていますね。「災害時にいつもと違う自分になるのは普通のことです」という言葉に救われ、支えられた人も多かったのではないでしょうか。頼まれもせず、有志で自発的に作ったということに脱帽です。
 

老若男女が集うお寺だからこそ。法城寺で行われた活動

   

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掲載日: 2023.01.16

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