これからの仏教ウェブメディアに求められるものとは?|彼岸寺 日下さんインタビュー<後編>
他力本願ネットが彼岸寺から学ぶべきこと
グチコレの様子
――彼岸寺さんから見て、他力本願ネットはどのようなメディアに映っていましたか?
日下:他力本願ネットは、宗派公式サイトというだけあって、オフィシャルな印象はあったと思います。掲載内容も本願寺派の寺院や僧侶に特化しているところが強みですよね。
特に、メリシャカのイベントでグチコレさんにも参加してもらった時は、いよいよ新しい波が来たなとワクワクしたものです。我々彼岸寺との違いは、グチコレやデスカフェといった、ウェブだけにとどまらず、リアルの空間でもご活動されていたところですよね。また、それが他力本願ネットの素晴らしさでもあると思います。実際に現場に出て、人々と関わろうとする姿勢を学ばせていただきましたね。
――ありがとうございます。今後、彼岸寺や他力本願ネットを始め、仏教ウェブメディアがもっと発展するには、どういったことが必要だと思われますか?
日下:難しいですよね。コスパよく読めるような短い文章が求められる一方、そうすると内容が薄くなってしまう。そのバランスが大切だと思うのですが、刻一刻と変化するインターネットのニーズにすべて合わせていくのは難しいのではないでしょうか。
彼岸寺での人気記事「仏さまのハンドサイン」(クリックで記事へリンク)
――彼岸寺さんではどんな内容の記事が人気でしたか?
日下:これまでで一番人気だったのは「仏さまのハンドサイン」という記事でした。記事を公開した当時、Twitter上で「○○のハンドサイン」というものが流行っていて、その流行に乗る形で仏さまの印相を取り上げたんです。イラストなどもあってわかりやすかったのか、多くの方に読んでいただきました。
他には、「お坊さんは結婚して良いのか」とか「頭を剃らなくて良いのか」、「税金を払わなくても良いのか」といった、素朴な疑問に答えるコンテンツが人気でした。
こうした結果を見ると、仏教の中身よりも流行しているネタや僧侶のプライベートに興味を持たれ
ていることが分かります。一方で、硬派な内容は今一つ閲覧数が伸びず、仏教のみ教えを伝える難しさも感じます。
でも、ただ世間のニーズだけに合わせるという姿勢は、僧侶として疑問に感じる部分もあり、改めて問い直す必要があるのではないでしょうか。
――世間のニーズに対応する必要がある一方で、伝えるべきものは伝える必要もありますよね。
日下:そうですね。分かりやすい情報や楽しい情報も必要ですが、たとえ難しくても宗教として発信すべき内容は必ずありますね。もともと仏教の情報はニッチなので、今後はより硬派な情報も取り扱っても良いのかもしれません。
例えば、仏教の研究者に仏教研究の最前線を書いてもらう、なんていかがでしょうか。そうしたコンテンツも読み応えが有るかもしれません。そして、そうした情報をライト層にも上手く届けられれば良いですね。実は、彼岸寺でもそのようなことができないだろうか、と検討しているのですが、専門的な内容を書いていただくには費用面の課題も有り、まだまだ構想段階です。
――日下さんご自身は、彼岸寺を通してどんなことをしてみたいですか?
日下:彼岸寺を通して新たな活動を推し進める僧侶の方々をもっと応援していきたいと思っています。残念なことに、僧侶が新たなことを試みると批判されがちなんですよね。でも、僧侶の方々も自身の承認欲求ではなく、仏教をもっと知ってもらいたいという想いがあるからご活動されているはずです。
彼岸寺をさまざまな方と一緒に運営して気づいたのは、みなさん仏教がお好きで、それを活動の軸にされていることですね。自分の身を立てるために活動されていた方はほとんど居なかったと思います。彼岸寺がこれだけ長く続けられたのも、メンバーそれぞれが仏教を大切に思っていたからではないでしょうか。
現代は、伝統的な活動だけをやっていてもなかなか注目されにくい時代です。だからこそ、それぞれの特技や趣味を活かした伝道を試みる僧侶を応援していきたいですね。
――最後に、メッセージをお願いします。
日下:落語や節談説教といった活動が示すとおり、我々の世代よりもずっと前から僧侶の方々はできるだけ分かりやすく仏教を伝えようとされていたんだと思います。そして、現代でも漫才法話といった形で、伝わるように工夫されていますよね。
一方で、仏教のみ教えは一言で語れない難しさがあるのも事実です。回りくどい表現でしか伝わらないこともあります。でも、そこから目を背けることなく伝えようとする姿に、僧侶の生き様が見いだされていくのかもしれません。
――ありがとうございました。
編集後記
今回は、彼岸寺代表の日下さんにインタビューしました。20年もの間、インターネットで仏教を伝え続けてこられた彼岸寺。SNSの台頭や動画媒体の進出と、日々変化するインターネットの状況に応じて、変えるべきところは変え、変えないところは変えずに発信を続けてこられたことが分かります。しかし、長続きの秘訣はそうした取捨選択ではなく、スタッフの方々の「仏教が好き」という気持ちではないでしょうか。
彼岸寺も他力本願ネットも、文章という手法で仏教をお伝えしていますが、「諸行無常」の教えの通り、その手法もいずれは変化を余儀なくされるでしょう。しかし、それは決して終わりを意味するものではなく、新たな伝え方の始まりであるかもしれません。
そこに、仏教に対する想いがある限り。
日下さん、ありがとうございました。