回復への道のり。引きこもりから抜け出すための生活とは?

NPO法人こころのはな。不登校・引きこもり支援、子ども食堂、子どもの居場所、DVシェルターなどの活動を通じて、居場所を見つけられずにいる人々の一時避難所の役割を果たしてきた。
 
今回は、こころのはなにおける支援のあり方について、不登校・引きこもり支援を担当する山科 達規(やましな たつのり)さんにお話をうかがいます。
 
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第1回 「不登校・引きこもり・貧困・DV…お寺にあるNPO法人が続けてきた支援のかたち」
 
不登校や引きこもりから抜け出すって、どういうこと?
 
ーーこころのはなを訪れた不登校や引きこもりの方々は、ここに寄宿したり通所したりしながら少しずつ回復されていくのですよね。この支援のゴールというか、目指すところはなんなのでしょうか?
 
山科:ここに来られる方々に最初にクリアしていただきたいのは、長年陥っていた悪循環から抜け出すことです。これはもう家族では止めようがないことが多く、私たちのような第三者が支援者として介入することが必要です。悪循環から抜け出す最初の一歩が一番エネルギーを必要としますが、そこが踏み出せればあとはもう自然と好転していきます。まずは、昼夜逆転している生活リズムを整えることが必要です。
 
ーー寄宿生活の最初は、朝起きて、昼間活動し、夜は寝ることに慣れてもらう、と前回もお話いただきましたね。
 
山科:はい。そのほかにも、カラーヨーガを通して自分の気持ちを色に例えることでコミュニケーションをはかったり、呼吸法を覚えたりして、自律神経を整えることにも力を入れています。前回もお話した通り、ほかにも蕎麦打ちなどのプログラムなんかもあるのですが、そういったプログラムのなかで、小さな成功体験を積み重ねていってほしいと思っているんです。
 
実は、私自身も不登校と引きこもりの経験があるのですが、当時は、何かに取り組むとき、どうしても高いところに目標を見てしまって、それで失敗してドーンと落ちてしまい、さらに落ち込むということを繰り返していました。
 
支援に関わった方のなかにも、ものすごくトントン拍子に回復を見せて一気に就職までできてしまったものの、少し辛いことにぶつかってしまったときに、以前よりさらに落ち込んでしまって戻ってこられない、という方がいます。
 
だから、小さなハードル、達成しやすい目標をたくさん設定して、ひとつひとつクリアしていくことが大切なんです。そして、クリアできたときは「できた!」と自分を褒める、誰かに褒めてもらうことで、自己肯定感を回復していきます。
 

ーーまずは肯定的な気持ちを持つことですね。
 
山科:はい。それが、ここに来ていただいた方に最初にしてもらうことです。3〜4日はそのようにして自信回復と、私たちとの信頼関係構築につとめます。一緒にプログラムをしたり、庭掃除をしたり、寝食をともにして、必要なら病院にも連れていって、とにかく信頼関係を築きます。それからですね、相談支援などに入っていくのは。
 
相談支援では、「今の自分はどんな感じですか?」「過去の自分はどんな感じでしたか?」「家族関係はどうでしたか?」などの質問を通して、自分を客観視するように促します。ちょっとしたワークや、気持ちを文字に書き出すなんてことも行います。
 
自分にとっては、どのような方法で人間関係を構築するのが向いているのか、また自分はどのようなところに生きづらさを感じているのか、そういったことを客観視、言語化していくお手伝いですね。
 
ある男性の、引きこもりから抜け出すまでの道のり
 
ーー具体的にはどのような方がどのようなステップを経て回復されていったのか、例をお聞かせいただけますか?千差万別だとは思いますが。
 
山科:去年ここに滞在した20代男性の例をご紹介します。彼は10代なかば頃から引きこもっていて、ここへはお母さんに連れられてきました。お母さんは「ドコモショップへ行こう」と誘って彼を連れ出したそうです。でも、着いてみたらドコモショップなんかどこにもないですからね、当然ですが彼は車から出ようとしませんでした。
 
なので、車のなかにいる彼と話し合いをしました。まずは「ちょっと施設見学をしてみない?」ということで、とりあえず車から出てきてもらいました。一応ためしに滞在してみようという話にはなったのですが、なにしろ不安でしょうから、まずは家族部屋でお母さんと一緒に寝起きしてもらうことになりました。
 
そして3日後、お母さんが帰らないといけない日に、彼に確認したのは「今のままの自分から抜け出したい、変わりたい」という気持ちがあるかどうかです。変わりたいという彼の意思を確認できたので、一緒にお母さんを見送って、その後結局4か月の滞在となりました。
 
ーー4か月ですか。けっこう長く感じますが、そのあいだは何をして過ごされたんですか?
 
山科:彼が自動車免許を取りたいとのことだったので、少し離れた場所にある教習所に通うことにしました。最初は一緒について行っていたのですが、しばらくしてからは一人で電動自転車や電車で通うようになりました。順調に課程を進めていたのですが、ある日教官に怒られたようで、それからは教習所へ行く頻度が下がってきました。
 
ある日のこと、滞在2か月をすぎたころです。教習所へ行くのにも使っていた電動自転車で、家まで帰ってしまわれたんです。自転車で帰るにはずいぶん遠いので、途中で充電も切れたようでした。私たちは帰りが遅いことに気づいてすぐご両親に連絡をしたところ、しばらくしてから駐車場に隠れていましたという連絡をご両親からいただきました。
 
ご両親はすぐに彼をここへ送ってきました。私個人は「帰りたいなら、たまには帰ってもいいのでは」と思うのですが、親御さんたちの中にはどうしても一回帰ってしまったらもう二度と我が子は外に出られなくなるのではないかと心配される方がとても多いんです。
 
ーー気持ちはわかります。
 
山科:彼は結局あと2か月をここで過ごし、生活のリズムは整い、体力もどんどんついていきました。ここを出て行ったあとも、何度か顔を見せてくれたんですが、そのときに自動車免許が無事取得できたことも報告してくれました。現在は、週5泊まり込みのカフェレストランで働いておられます。日焼けもして、とてもたくましい印象になっていましたよ。
 
焦らず、ゆっくり、時間をかけて
 
ーーほかにはどんな方がおられましたか?
 
山科:一番年下の方だと中学2年生。偏差値の高い学校に入ったものの、ちょっとしたことで勉強についていけなくなって、そこから不登校になったようです。高学歴の人の引きこもりってけっこう多いんです。回復してからも、もとの学校には通いたくないし、地元の学校もいやだということで、教育委員会にはたらきかけて、違う学区の学校に通う子やフリースクールを選択する子もいます。フリースクールにも行けなくなった、という子もいました。その子は無事に回復して、もとのフリースクールに通えるようになりましたが。
 
ーー寄宿ではなく通所を選択される方もおられるのですか?
 
山科:はい。通所の方にも、寄宿の方とほとんど同じメニューを受けていただくことができます。なかには、子どもが好きだからということで、子ども食堂を手伝ってくださる通所者さんもおられました。
 
その方は本当に小さなステップをゆっくり積み重ねながら、時間をかけて変化していかれました。何年も……たとえば15年引きこもっていた方が、急に2〜3か月で回復するなんて無理ですよね。2〜3年かけてちょっとずつ、というのが普通です。
 
そのあいだ、本当につかず離れず、自分が好きなようにこの場所、こころのはなを使っていってもらえたらと思っています。
 

ーーここを出て行くタイミングというのは、なにかありますか?
 
山科:ここは補助金をいただいて運営しています。引きこもりだと、最初の4〜5週間は補助金を使って低価格で滞在していただけるんですけど、補助金額を越えると一気に利用者の負担額が増えてしまうんです。そういう意味で、お金の都合で期間を決める方もおられますし、本当に前向きになれたら出て行くという方もおられます。
 
ーーー
 
本当の回復は、想像以上に難しいのかもしれません。それでも、最初に一歩を踏み出さなければ変化は訪れない。次回は、引きこもってきた人たちの最初の一歩に何度も立ち会ってきた山科さんご自身の引きこもり経験についてもお話をうかがいます。
 
<インタビューのつづきはこちら>
第3回 「自分のままで、変化する。長い階段をゆっくり登るように引きこもりから回復した話」

掲載日: 2020.08.08