むちゃくちゃ急な階段があるグループホームのお話

高齢者施設。そこは、徹底したバリアフリーの環境、消毒液の独特なにおい……。我々が日常を過ごす空間とはちょっと違いますよね。
そんな高齢者施設の常識を根底から覆すグループホームが大阪府の池田市にあります。その名も「むつみ庵」。同市にある浄土真宗寺院の如来寺さんが母体となって運営する同施設、そこは「施設」というよりはもはや「家」。とてつもなく急な階段だってあります。
 
介護に向いているとは言えない施設で、なぜグループホームを運営されているのでしょうか?そして、そこで過ごす入居者さんやスタッフの日々とはーー。
 
今回の僧シャル見聞録では、そんな「むつみ庵」の日髙 明(ひだか あきら)さんにお話を伺いました。全3回にわたってインタビューの内容をお届けします。第1回ではむつみ庵の設立経緯や施設の特徴についてお話しいただきました。
 
むつみ庵の入り口。昔ながらの佇まいが漂う。
 
お寺のコミュニティからうまれたグループホーム
 
ーーむつみ庵さんは、どのような施設なのでしょうか?
 
日髙 明さん(以下、日髙):認知症高齢者のためのグループホームです。2003(平成15年)に開設しましたので、もう17年目ですね。池田市のグループホームの中でも、1番目か2番目に古いです。
ご覧の通り、元々は古民家です。かつてここに住んでおられたご夫婦が亡くなって、空き家となった古民家をどうしようかと、そのご夫婦の娘である谷口さんが如来寺に相談されました。
そこで、現在の理事長である釈徹宗先生のお母様のアイデアでグループホームを立ち上げることとなったんです。ちょうど、グループホームの制度が出来た頃でもありました。お母様は2018年12月に亡くなられましたが、社会の情勢に鋭いお方だったと聞いております。その後、NPO法人として設立し釈先生が理事長、谷口さんが実務面を担当するホーム長となり、運営が始まりました。
その他のスタッフも、釈先生がご住職のお寺である如来寺のご門徒の方々のツテで集まっていただいたので、立ち上げにあたってはお寺のネットワークを活用させていただきましたね。
 
ーースタッフの方々はもともと介護のご経験がお有りだったのでしょうか?
 
日髙:いいえ、谷口さんもそのほかのスタッフの方も、ケアマネージャーさん以外は介護に関して全くの初心者でした。当時は資格も厳しく求められてはいませんでしたので、興味のある方が集まられたのだと思います。私も2007年に應典院の秋田住職を通じて釈先生にご紹介いただき、こちらで働かせて頂いています。介護の経験は無く、資格も勤務を始めてから取得しました。
 
インタビューに応じる日髙 明さん
 
ーーとなると、立ち上げるのは大変だったのでは…?
 
日髙:そうですね。ゼロからの立ち上げで、しかも古民家を活用したグループホームという前例がほとんどありませんでした。なので、当時はグループホームを監督していた大阪府庁へ何度も通い、アドバイスを頂きながら立ち上げ準備を進めました。
 
ーーー
 
「里家」での日々を送るリハビリ生活
 
ーーなんといいますか、本当に「家」ですね。こちらへ立ち入る時も、「失礼します」じゃなくて「おじゃまします」と言ってしまいました(笑)。
 
日髙:家の空気感はありますよね(笑)。むつみ庵のコンセプトのひとつに「里家(さといえ)」というものがあります。利用者の方にとって、本当の家では無いけども自分の家と思ってもらいたいと願っています。
 
ーー古民家をグループホームに活用して、どのような特徴がありますか?
 
日髙:まず、古民家の特徴として段差がすごく多いですよね。一般的な介護施設はバリアフリーが基本ですが、ここは段差がたくさんあります。段差には転倒のリスクがありますが、一方で生活上の身体動作の能力を落としにくい効果が期待できます。平らな床に慣れてしまうと、足の動かし方がその環境にフィットしてしまい、注意を払わなくなるのですが、段差があるとそこに注意を払うので生活上のリハビリが出来ますよね。
 
ーー階段もすごく急ですよね。
 
日髙:そうですね。6名の方が夜は2階で寝ておられますが、階段が非常に急なので毎朝毎晩、ハァハァと言いながら登り降りしています。中には階段が怖いとおっしゃられる方もおられますね。ですが、階段での転倒事故はこれまで一度もなく、やはり急な階段があることで注意を払いますし、恐怖感を覚えることで体が引き締まるようです。
 
若者でもしんどい階段
 
ーー他に特徴はありますでしょうか?
 
日髙:他には、床や家の質感をなるべく残しているところでしょうか。例えば照明も自動で点灯するものではなく、従来の紐式を残していますし、洗面所の蛇口も昔ながらのひねるタイプです。トイレや浴室も介護をしやすいように改修こそしていますが、そこまで大きくは造り変えていません。
 
ーー確かに、ひねる動作はリハビリにつながるかもしれませんね。
 
日髙:そうですね。なので、古民家を活用する最大の良さは身体機能の維持ではないでしょうか。生活空間が慣れ親しんだものであることも大きいですよね。大抵、日本の古民家はどこも似たような造りになっていると思います。居間があって、仏間があって、縁側や襖、障子があって……。こうした造りが利用する方にも安心感を与えているのではないでしょうか。入居者さんも、自分の家ではなくとも誰かのお家であることは認識されているようです。「ここは誰それのおばあちゃんの家だ」という感じで。
 
「日常」を維持する大変さ
 
ーーにおいも普通の家と同じですね。施設の独特なにおいはしませんが、においに関しては何か工夫されているのでしょうか?
 
日髙:確かに、一般的な施設ですと消毒液のにおいがしますが、ここでは慣れ親しんだ木材や畳のにおいに包まれていますね。工夫は特にしておらず、日々の掃除のみですね。ただし、手間は非常にかかります。認知症の方がトイレではない場所で排泄をされると、畳や木材に染み込むこともあるので、繰り返し掃除をして元の状態に戻しています。
 
ーーそれは大変なご苦労をされているのですね。ですが、そうして日常の風景を維持することで、利用者の方も安心して過ごせるのだと思います。
 
日髙:ありがとうございます。また、縁側に広がる庭も一役買っていて、庭で家庭菜園を入居者の方と一緒に行ったり、散歩が好きな方は庭で自由に歩いていただいています。土を触るといった自然に触れる動作も身体機能の維持に効果があるようです。
 
縁側から庭園を望む
 
少し不便でもなつかしい古民家の中で過ごしていただくことによって、入居者の方の身体機能と日常を守るグループホーム。それは古くて新しい介護の形なのかもしれません。
そして、現在まで大きな事故がないことの背景には、スタッフの方々による日々の丁寧な見守りがあるからではないでしょうか?
次回は、そんなむつみ庵で働くスタッフのことを中心にお話を伺います。(続く)

 
むつみ庵についてはこちら(公式ホームページ)もご覧ください。
 
<インタビューの続きを読む>
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掲載日: 2020.09.16