西本願寺・日曜講演「シルクロードからの贈り物—植物から生まれる日本の色—」

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鮮やかな赤い色の「紅色」、桜の花の「桜色」、若葉の新緑の色の「萌黄色」など日本で見られる四季の植物や鳥、動物などから由来する日本独自の色は1,000色以上あると言われています。

そして、日本語には色彩を使ったことわざ・慣用句も多く見られます。「青は藍より出でて藍より青し」「紅一点」などはもしかしたら、一度は聞いたことがあるかもしれません。
 
「『色』と『彩』には違いがあるんですよ」
 
そう教えてくださるのは、染色の魅力や歴史を語ってくださった染色家・「染司よしおか」六代目の吉岡更紗さん。染色家として、自然界に存在するものから染色をされておられます。
今回は、「シルクロードからの贈り物—植物から生まれる日本の色—」をテーマに、2019年7月21日に京都・西本願寺において開催された日曜講演の様子をお伝えします!
 
 

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染色家・「染司よしおか」六代目

吉岡更紗師

アパレルデザイン会社勤務を経て、愛媛県西予市野村町シルク博物館にて養蚕、製糸、撚糸、染色、製織を学ぶ。2008年生家である「染司よしおか」 戻り、自然界に存在する植物で染色、織を中心に制作を行なっている。

 
 
染司よしおかは、江戸の終わりに創業され、植物を使って染色をされています。会場には、吉岡さんが実際に染色をされる際に使用される、植物を展示をしてくださっていました。
染司よしおかでは、僧侶が身に着ける、お衣やお袈裟を植物で染めて作られています。

 

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お袈裟はもともと糞掃衣(フンゾウエ)と言われており、いろんな人からボロ切れやいらなくなった布を集めて、パッチワークのようにして一つの生地にしていったと言われています。それが現在のお袈裟までつながり、様々な生地や色を用いて、現代でも僧侶の法衣とされています。
 
正倉院にも多くのお袈裟が残っており、染司よしおかでは、聖武天皇がお持ちであった、お袈裟の1つをモチーフに、同じ技法で染め復元されたとのことです。
 
 
—「色」「彩」について

「実際、『いろ』という漢字を『色』と想像されると思うんですが、どちらかというと本来のこの漢字の意味は男女を表す形に由来します。
そして、この『彩』いろどり、さい、と呼ばれるこの漢字は、木の上に木の実がある様子を表していて、それで『いろどり』をつくるというのが本来の意味合いみたいですね。実際に染色するときは、木の実のような植物を使いますので、『彩』の方がより『いろ』を表現している気がしますね」

 

 

—絹の発見物語……
 
染色において、絹は非常によく使われる素材で、その理由としては、植物染料は非常に絹と相性が良いようです。絹のような動物性の繊維はタンパク質が非常に多く含まれているので、光沢もあり、すごく綺麗に発色するとのことでした。

 

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絹は4000年以上前に中国で発見され、日本まで伝わっているようです。吉岡さんは、絹糸の始まりについて面白いお話をしてくださいました。
 
 
中国に黄帝(こうてい)が伝説的な皇帝がいらしたそうです。黄帝は土木や農業など、生活に関する様々なことを整備された方でもありました。黄帝のお妃であった、嫘祖(るいそ)はある日、山へ入った時に白い繭を見つけて、それをちょっと持って帰って見たりしていると、たまたまお湯の中にぽちゃんっ!と落としてしまいました。嫘祖(るいそ)が、その繭をお湯から拾い上げたら、光沢のあるすごく細い線がスルスルと出てきたといわれています。(諸説あり)
 
 
絹糸といえば、白いものをイメージしますが、もともとはもう少しくすんだ色だったようです。繭をつくる蚕は元々、山の中で暮らしています。蚕がさなぎの状態で休んでいると鳥に食べられたり、攻撃されたりするので、もともとは茶色や葉っぱに近い緑の色をしていて外敵から身を守っていました。
 
しかし、人間が絹を発見して、自分たちの染色をするにはなるべく白い色の方が良いということで、なるべく白い糸をはく繭を集めて、交配して、家の中で飼うようになったとのことでした。
 
そして、絹・織物・染色の歴史で欠かせないのが、「シルクロード」です。
そこでは色々なものが交易されてきました。その主なものが絹だったようで、「シルクロード」と名前がついたと言われています。当時、絹は非常に貴重なもので、金と同じぐらいの価値で取引をされたと言われています。

 

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『魏志倭人伝』という中国で日本について書かれた書物には、当時の男性の着ているものが、麻や木の皮で作られており、稲作をして、ご飯を食べている。そして、蚕を育てて、糸を作っていた。
との記載があり、すでに養蚕の技術が日本へ伝わっていたことが伺えます。
 
また、飛鳥時代になると聖徳太子が冠位十二階をつくり、十二段階に分けた人たちが着る服の色を決め、五色(青・赤・黄・白・黒)に紫を足して、一番高い方は濃い紫、次に高い方は薄い紫、その次が濃い青……といったように分けていました。
 
「朝廷に勤務する多くの方が12色の色を使い分けて、衣服として着用していたことが伺えます。そう考えると、当時から、すでに絹に染色をしたりする、絹織物が発達していたとも考えられます。もちろん、一部の朝廷の人だったとは思いますが……」
 
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また、講演会の後半では、空引機(そらびきばた)という織機を使い、1日で1センチくらいのペースで錦を織っていき、「四騎獅子狩文錦(ししししかりもんきん)」という織物を製作した映像も見せていただきました。
 
他にも東大寺の大仏が建立された710年に勤められた法要の際に、関わられたインドの僧(菩提僊那ぼたいせんな)のお話、紅色を出すための紅花を摘みに行かれること、そして、今は七夕と一般的になった行事は実はもともとは、織物に関する儀式<棚機(たなばた)>であったようです。
 

 
科学的に作られた色が増えてきているなかで、古代から伝わる自然物を使った染色方法や織の技法には、永い時間をかけて紡がれてきた歴史や知恵の集積が詰め込まれているように思いました。

 

 
 
<日曜講演って??>
 
さまざまな分野で活躍されている方々のお話をうかがう講演会です。
ワークショップや落語会(日曜講演deおてらくご)の回もあります!
どなたでも気軽に参加することが出来ます。<申込不要・参加無料>

西本願寺総会所(聞法会館1階)10:30(約70分)
 
<今後の日曜講演の予定>
お西さん(西本願寺
 
●8月18日(日)千之丞と狂言の世界をのぞいてみよう~お話とワークショップ~
大蔵流狂言師 茂山千之丞(しげやませんのじょう)師 

日本でいちばん古い「お笑い」ってどんなもの?室町時代から続く狂言は見てもやっても面白いところがいっぱい!おっきな声で笑ってみたり、いろんな真似をしてみたり、みんなで歌をうたったり、子供たちからお年寄りまで誰でも参加できて楽しめる古くて楽しい狂言の世界を一緒に体験してみよう!
※足袋か靴下をご持参ください。
 
●9月 1日(日)通訳ガイドが伝える 京都案内の極意
通訳案内士 杉原利朗 (すぎはらとしろう)師

京都への観光客は近年ますます増え、特に文化背景の違う外国人に伝える時には工夫が必要です。私が47歳で一念発起、通訳案内士(ガイド)になった経緯も含め、もっと京都を楽しむ方法から一生の思い出深い訪日になるためのおもてなしの紹介まで、とっておきの”京都案内の極意”をお伝えいたします。
※講演後、講師主催の有料ツアー有り
 
 
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掲載日: 2019.08.12

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