持続可能な医療へ

全6回にわたってお届けして来た、「常識のカベー医療の常識を問い直すー」

未来工学研究所 22世紀ライフエンスセンター主任研究員(※未来工学研究所は内閣府をはじめとする行政機関等の委託を受けて未来予測を行う研究所である。)小野直哉氏をお迎えして、医療の歴史や制度の成り立ちなど、普段病院や学校にいても聞くことのないようなお話が多く、今まで持ってきた「医療の常識」が少し覆されたように思います。

 

最終の第6回は、第1〜5の内容を受けて参加者が思った疑問や感想を交えながらお届けいたします。

 

 図2

 

<小野先生のお話の内容はこちら> 

 

◎第1回「お寺で「医療の常識」を問い直す。効率化と合理性の追求の果てに何があるのか」—常識のカベ講演録

◎第2回「今の「私」の健康と日本の歴史」—常識のカベ講演録

◎第3回「私たちの生活に結びつく医療。あなたの子どもに何を残すのか?」—常識のカベ講演録

◎第4回「『敗北の医療』の世紀の果てに……」—常識のカベ講演録

◎第5回「信号機から考える日本」—常識のカベ講演録

 


 

 

Q:今までの価値観で生きていくよりは、価値観を変えていくという方が面白いと思いますが、先生いかがでしょうか?

 

 

小野:

そうですね。数年前から巷で言われている「持続可能な医療」ですが、これは私が示す意味とは違います。

 

今、医療・健康政策関係の本の多くの提言で扱われている「持続可能な医療」は、今までの制度が持続するための医療です。または、欧米と同じ医療を日本で、今後、持続的に行っていくかという考えです。

 

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それを指導医の先生に質問したところ、「君は医療従事者じゃないんじゃないか」と言われました(笑)。

 

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しかし、環境問題は身近に感じず、遠い話しです。でも環境が汚染される、環境が破壊されることによって自分の健康に害をおよぼすということが実感されるといきなり自分ごととなって興味を持ちます。

 

 

例えば原発事故の問題です。ちなみに私は福島県いわき市出身です。環境と健康は表裏一体ですが、それは今の医学、医療システム、教育では教えられていません。従って、人の命を救うために資源をどれだけ投入されているかということに医療従事者の多くは、全く興味がありません。唯一興味があるのは人的資源が投入された時に、医療費的にいくらかかるからダメなどの医療経済的な興味がある程度です。それが現実です。

 

 

 

Q:税金が集まりづらくなる社会で、生産性のない人であったりとか、治らない病を持っている人に対して医療のあり方はどうしていったら良いのでしょうか?

 

 

小野:

先ほどいった50歳以上の方々をどう存在させるかということですね?

 

どう支えるかということではなくて、どう存在させるかということですね。その場合は、労働環境から変える必要があります。

 

60歳定年というのはありえない。

定年なんてない、やれるところまでやる雇用体系に変えなければならない。

 

医療では、必要なところには高度先進医療を使うべきですが、それの優先順位や選別が必要です。また、高度先進医療を使わなくても済む選択を増やす必要があります。

キューバの例ですが、彼らは経済的に困り、近代西洋医学しかなかった国に伝統医学など様々なものを取り入れ、医療レベルを維持した経緯があります。

 

日本もキューバから学ぶとか。今までのやり方を変えて、コストがかからないことをできる限りやる努力が必要です。あとは生産性のない人や治らない病気の人たちのポスト(居場所)を作り出すことです。

 

 

図1 

 

 

Q:医療費が40兆円と言われましたよね。どういうことに使われているんでしたっけ?

 

 

小野:

まず、40兆円の6割が65歳以上に使われています。さらにその65歳以上のだいたい7割から8割ぐらいのお金が亡くなるまでの1週間の間に使われています。

 

 

Q:今、尊厳死の問題がいろいろ言われていますけれども、私も友達と話しあうことがあるんですけれども、ドクターもあまり医療費のことを考えずにすぐにデスピレーター(人工呼吸器)を付けようとしたりするんですけれども、国は何か施策をしようとしているのでしょうか?

 

 

小野:

一応、積極的治療は高齢者にはしない建前にはなっています。しかし、医療現場ではそれができない根強い要素が二つあります。

 

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Q:そういうことを医療従事者に教育されているんでしょうか?

 

 

小野:

私の知る限りでは、意識の高い人たちが自分たちで研究会を行っているという感じです。教育や制度に落とされてしっかり教えているということは聞いたことがありません。

 

 

 

Q:公衆衛生学のトーマス・マキューンが書いた日本でまだ翻訳されていない本はどのような内容でしょうか?

 

 

 

小野:

シーツを綺麗に洗って、トイレ掃除をして、日当たりの良い部屋に患者を置いて、栄養を摂取させて、患者の治癒力を高める。また、上下水道を整備して、手洗いやうがいを励行し、感染症を防ぐ。

 

そのような環境を整えると免疫力が落ちないし、感染症は予防できるので、病気にならない。健康が維持できる。病気人が減る。治療よりも環境を整えることで、人間の寿命は伸びる。医療技術の進歩が人間の寿命を伸ばすのに寄与したのは、そんなに大したことではないとトーマス・マキューンは言っています。これは欧米では常識です。

 

 

 

 

Q:私たの専門は医療や介護でもなくて建築なんですが、地域の高齢者が在宅で生きていけるような社会が必要だと思いますがどう思われますか?

 

 

 

 

小野:

システム化されない制度が重要だと考えます。昔なら隣組です。今の言葉ではコミュニティーになります。

 

それら可視化されないシステムがもともと人間関係や地域にはありました。いくら目に見えるシステムをつくっても、そこから落ちるものは絶対にあります。その落ちたものをどう拾い上げていくかが非常に重要です。

 

それはどう顔が見える関係を築いていくかということしかないと考えます。日常から隣人や地域の人々とコミュニケーションを密にしていくかです。顔が見えないからシステム化するしかないんです。洛西ニュータウン、千里ニュータウン、多摩ニュータウンなど、ニュータウン系はこれから益々高齢化しますので、その問題は大きくなってきます。

 

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ファシリテーター:

小野先生、有り難うございました。

 

京都大学の広井良典先生がいわれていることなんですけれども、今まで日本は右肩上がりできたけれども、今は定常化に入っていると、しかしこれは初めてではなくて過去にもあったと、農耕文化期に定常化になった時に何が起こったかというと枢軸時代といって物から心に移行した時期があった。ギリシャであればソクラテスやプラトン、アリストテレスが出てきて、中国であれば孔子や孟子などが出てきた時代があった。

 

コンビニがホットステーションみたいにしようとしてるんですが、コンビニよりも神社仏閣の方が多いので、そういった神社仏閣を核としたコミュニティーを再構築できないかということを考えられて実行しようとされています。なので、この「常識のカベ」もお寺でさせていただいています。

 

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小野直哉氏講演より)

 


 

◎第1回「お寺で「医療の常識」を問い直す。効率化と合理性の追求の果てに何があるのか」—常識のカベ講演録

◎第2回「今の「私」の健康と日本の歴史」—常識のカベ講演録

◎第3回「私たちの生活に結びつく医療。あなたの子どもに何を残すのか?」—常識のカベ講演録

◎第4回「『敗北の医療』の世紀の果てに……」—常識のカベ講演録

◎第5回「信号機から考える日本」—常識のカベ講演録

 


 

お寺で学ぶ講座「常識のカベ」とは・・・

2017年3月1日より連続講座として始まった本企画。

講座の中で、各種の専門家をお招きして、提言をいただきそれを踏まえて、対話を行い、参加者ひとりひとりの「常識」を問い直し、学ぶ場を提供しています。

時代を越えてあり続けるお寺で、今のあり方をじっくりと見つめなおす時間を。

詳細はこちら→常識のカベfacebookページ

 

2018.7/30 更新