宿坊運営は大変?その労力と可能性を考える|宿坊研究会 堀内克彦さんにインタビュー②

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2000年から現在にいたるまで、宿坊について研究をされているほーりーさんこと堀内克彦さん。前回記事では、「宿坊とは何ぞや」という問いにお答えいただきました。一言に宿坊といっても、座禅や写経ができたり、山岳修行やお遍路巡りができたりとお寺によって様々なプログラムがあるそうです。それぞれのお寺がそれぞれの個性を活かした運営をされているとも言えますね。
では、これから新たに宿坊をやってみたい!というお寺はどんな手順を踏めば良いのでしょうか?また、どのような運営をすれば宿坊として成り立つのでしょうか?
第2回目となる今回は、宿坊の立ち上げや、運営といった裏側について、いろいろとお尋ねしました。

 
image1宿坊開設にむけた改築の様子(写真提供:堀内さん)
 
宿坊運営のコツとは?
 
ーー色々なお寺で宿坊が運営されているようですが、宿坊を始めやすい環境というのはあるのでしょうか?
 
堀内:特に海外の人が増えてきたので、より宿坊が注目されていて、その運営もお寺だけで行わず、企業とタイアップしながら宗教部分はお坊さん、宿泊は企業といった組み合わせも増えていますね。
 
ーーお寺の人だけで運営する宿坊もあるのでしょうか?
 
堀内:過疎地域だとお寺の方だけでやっているところが多いですね。ただ都心部は企業と一緒の方が多いです。大阪にある浄土真宗大谷派の南御堂では先日(2019年秋頃)、山門と一体型のホテルが登場しました。
 
ーーうまくいっている宿坊の共通点は何かありますか?
 
堀内:やっぱり、うまくいっているところは情報発信がうまいです。あと、口コミが(人気が)広がっている部分もあるので、住職の人柄やちょっと変わった体験プログラムも注目が集まりますね。一方で、どこのお寺でもやっている「鉄板」は朝のお勤めです。
 
全体で見ると、宿坊の数は増えていますが、昔ながらの宿坊が閉じているところもあります。宿坊のブームにうまく乗っかっているところと取り残されているところがありますね。
 
ーー取り残されている原因は何でしょうか?
 
堀内:いわゆる、昔ながらの宿坊はお寺に団体で参拝する信者さん向けに作られています。なので、部屋自体が大きく作られますよね。すると、どうしても個人対応が難しくなるのが一つの要因ではないでしょうか。そこをリフォームしている場所もあるし、お金をかけられず、経営が苦しくなってしまう宿坊もあります。
 
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地域によって事情は様々
 
ーー地域ごとに向き不向きはあるのでしょうか?
 
堀内:宿坊は色々な地域で開かれています。一つは過疎地域。過疎地域での宿坊をいくつか紹介いたしますと、青森県の大間で宿坊されている普賢院(ふげんいん)さんや熊本の南阿蘇村で浄土真宗大谷派の了廣寺(りょうこうじ)さんが宿坊をやっていますね。あとは、鳥取県では光澤寺(こうたくじ)さんが宿坊を運営していて、話題になっていますよね。特に地方の、人口減少で苦しんでいるお寺にとっては一つの解決策になるのではないでしょうか。
 
ーー宿坊を作る地域のことも考えないといけませんよね。
 
堀内:そうですね。特に、京都は環境的に特殊です。「観光公害」という言葉が最近では話題となりましたが、京都市は他地域よりも住民との間でトラブルが起きないように、宿坊に限らず宿泊施設の開業は抑制気味です。
 
民泊は宿泊施設の開設ハードルを下げることが目的にありましたが、このような事情もあって当初の予測ほどには広がりませんでした。
 
ーー京都は特殊な事情があるのですね。
 
一方で、地方だと宿坊に興味を持っている行政もあります。
山口県の北西端、向津具(むかつく)半島の二尊院(真言宗)が宿坊を開設中で、私も定期的に相談を受けています。
そこは、山口県のビジネスコンテストにエントリーして準グランプリを受賞したんです。このように、地方だと期待されるところも多いですね。
 
また、奈良県は宿泊施設不足が課題になっています。去年の新聞で、関西圏で一番観光客が増えているが、滞在時間が一番短いと報道されていました。多くの方は4〜5時間しかいない、大仏見て帰ってしまうそうです。7割が大阪、2割が京都に泊まりますが、宿泊しないとお金が落ちないんですよね。
 
image4朝のお勤めの様子(写真提供:堀内さん)
 
大変な宿坊運営、その先に大きな可能性
 
ーー浄土真宗の宿坊でこういうのがあれば良いというプログラムはありますか?
 
堀内:朝のお勤めで、正信偈を一緒にお勤めすることも、あるとないのでは全然違う。単にお勤めの様子を見るだけでは退屈に感じてしまうと思います。初めてだと違うかもしれないが、体験することに大きな意味があるので、一緒に声を出してお勤めしましょうと促すのがいいのかもしれません。
 
浄土真宗の作法、特にお焼香。「手を額の前に持ってきません」という説明だけだと、初心者は形だけを追うようになります。なので、「1回目は額の前に持ってきましょう、2回目は持ってこずにやってみて下さい」と、両方体験してもらった上で、浄土真宗は何故このような作法なのか、と違いを感じてもらうほうが、教えの本質は伝わりやすくなるのではないでしょうか。お焼香を一つの慣習として片付けず、丁寧な説明をすることで全体的な満足感は上がると思います。
 
ーー宿坊をするデメリットは?
 
堀内:デメリットは24時間人がお寺に人が出入りすることでしょうか。住職はやりたいけど坊守*1はやりたくない、というケースはあります。あと、門徒さんとの調整は難しいようです。「俺たちのお寺に知らない人がくる」と反対される方もいらっしゃるとか。
設備が傷むのも、もちろんあります。ですが使わないと傷む場合もあるので、放置されるなら使う方が良いと思います。人が集まることで、文化財としても守られやすくなりますよね。
また、宗教法人に対しても税金が発生します。事業に関しての課税はよく知られていますが、お寺を宿泊として使う場合、固定資産税も発生します。このあたりは、専門家と相談が必要でしょう。
 
*1 坊守・・・浄土真宗の寺院において、住職を補佐し、教化の任に当たる者のこと。住職の配偶者であることが多い。
 
ーー宿坊を始めるにあたってアドバイスはありますか?
 
堀内:大変なことは沢山あります。建物の新築や改装をするならば、もちろん経費も発生します。宿坊で食事も提供するならば、食品衛生法の取り扱いも必要ですよね。
そして、体験プログラムも、お寺の日常やお勤め、法話などを用意して、当寺の宿坊ではこういうことができると情報を発信しておくことが大切です。
設立から運営までには大変な道のりがありますが、これからどんどんお寺が無くなる状況下においては、宿坊は一つの存続モデルになる、そして新しい仏教の伝え方にもなる。宿坊は一つの良いチャレンジでしょう。
 
 
インタビューでは、宿坊の運営や設立について非常に詳しく教えていただきました。宿坊を設立するには、都市部や地方、また行政や地域の反応といった周辺環境の見極めが必要不可欠でしょう。また、門徒の方々や坊守の理解も必要です。さらに、税金や法律といったハードルも存在します。
しかし、宿坊を利用する方が増えれば増えるほど寺院の経営は安定するでしょうし、何より体験プログラムを通じた伝道を行うことができます。
宿坊の実現までには大変な労力がかかり、その運営も大変です。ですがその分大きな可能性を秘めています。今後の寺院存続モデルの一つとして、さらなる検討の価値があるのではないでしょうか。
 
宿坊、ひいては寺院について非常に鋭い分析をされている堀内さん。次回は、堀内さんに仏教や寺院の持つ価値について、僧侶のあるべき姿についてお尋ねします。(近日中に公開予定です)

 
Profile

 

宿坊研究会 堀内克彦(ほーりー)
「人生を変える寺社巡り」がテーマの寺社旅研究家。株式会社寺社旅・代表取締役社長。
宿坊研究会(https://shukuken.com/)を運営し、参加者1000人を越える寺社旅サークルの主宰や複数企業の顧問、仏前結婚式盛り上げ企画、お寺の漫画図書館、寺社好き男女の縁結び企画「寺社コン」などをプロデュース。
宿坊研究会はAll Aboutの「スーパーおすすめサイト大賞」で審査員特別賞を受賞。日蓮宗のお寺活用アイディアコンペでは、様々な寺社を活性化させた実績を買われて審査員を務める。また西本願寺・東本願寺・増上寺・池上本門寺などの各宗派本山、北海道から九州までのお寺や様々な企業、団体などでも講演を実施。寺院コンサルタントとしても活動中。
著書に『宿坊に泊まる(小学館)』『お寺に泊まろう(ブックマン社)』『こころ美しく京のお寺で修行体験(淡交社)』『恋に効く! えんむすびお守りと名所(山と溪谷社)』など。