全国の高校生が社会課題と向き合う。龍谷アドバンスト・プロジェクト(RAP)が目指すもの
学校は子どもたちが学びを深めて行く場所。
では、その「学び」とは一体どんなものなのでしょうか?
2018年夏、全国各地の龍谷総合学園の高校生たちはいつも自分たちが通っている高校を飛び出し、京都・龍谷大学で2泊3日の龍谷アドバンスト・プロジェクト(RAP(ラップ))で学びを深めました。
2009年より始まった本企画・RAPは、龍谷総合学園の生徒たちが京都・龍谷大学に集まり、現在は仏教・経営・法学という3つのテーマに分かれ、自分たちが取り組みたい課題や疑問を調査し、プレゼンする企画です。
龍谷アドバンスト・プロジェクト(RAP(ラップ))
今年の参加は、全21校、27チーム、計83名の生徒が参加されました。高校生たちは自分たちが気になったテーマを持ち寄り、大学の図書館を利用したり、現役の大学生や院生にアドバイスを受けながら、10分間のプレゼン資料を作成しました。今回は最終日に京都・龍谷大学大宮キャンパスで行われた、プレゼンの様子をお伝えします。
高校生たちが選んだテーマとは……??
「マナー問題の原因とは……?」双葉高等学校
「異常気象と温暖化」武蔵野大学附属千代田高等学院
「偏見のない社会へ」北陸高等学校
「発達障がい・自閉症について」敬愛高等学校
「ITの発展と私たち」神戸国際高等学校
「なぜ家族内殺人はおきてしまうのか」武蔵野女子学院高等学校
「なぜ自殺をしてはいけないのか?」東九州龍谷高等学校
「差別・偏見をなくすためにできること」龍谷大学付属平安高等学校
「被爆の悲しみと生きるー自校史に学ぶー」崇徳高等学校
(仏教グループより 発表順に記載)
(龍谷大学大宮学舎本館講堂での閉会式の様子)
女の子同士、手を繋いで歩くことに違和感はありませんが、男子同士で手を繋いでいたらどうでしょうか?
そんな疑問からプレゼンをスタートしたのは、「偏見のない社会へ」をテーマとし、北陸高等学校の生徒たち。
LGBT※に関して、バンクーバーオリンピックから始まった、Pride houseや新入生への受け入れに関する、お茶の水女子大学の新たな取り組みについて紹介してくださいました。
日本の人口の約8%がLGBTという調査結果。その8%は実は、AB型の人の割合とほぼ同じということ。また、北陸高校の校内で独自のアンケート調査を実施し、LGBTをどれくらいの人が知っているかも報告されました。
最後の提言として、LGBTの課題にとどまらず、みんなが平等に生きていくには?ということを考えていました。
LGBTやジェンダーについて巷ではよく議論をされるようになりましたが、その問題だけにとどまらずに一人ひとりの存在が重要なんだ、ということを仏教の「一切衆生悉有仏性『涅槃経』」「一切の生きとし生けるものは、幸せであれ。『ブッダのことば スッタニパータ』」という言葉より、一人ひとりの存在が重要であり、平等を受け入れていくことを話してくれました。しかし、その平等が実現しないのはなぜか?
平等にするということは頭ではわかっていても、なかなか実現できないのがこの世の中。
だからこそ、共感や探究心、コミュニケーションをもつことが大切なんだと発表してくださいました。いろんな個性があることを理解する。男女の性差、能力、身体の大きさということではなく、一人ひとりを認めていくという視点をもつことの大切さを、調査を通して学ばれたようでした。
※LGBTQ、 LGBTsと表記される場合もあります。
北陸高校の生徒さん3人へのインタビュー、奥田深優さん、ベロワマリヤさん、遠山美帆さん
(このテーマにしようと思ったきっかけはありますか?)
「私の友達が高校生女の子同士で手を繋いで歩いているのを見て、女の子同士だったらいいけど、男の子同士だったら気持ち悪くない?という意見に私は違和感を感じたことです」とベロワマリヤさんは話してくれました。
(実際に大学を利用していかがですか?)
「大学のイメージが変わりました。仏教校と聞いていたので、固いイメージがありましたが、実際来てみると、明るくて教授も身近に感じました」
(仏教を学んで感じたことをありますか?)
「『見方を変えれば世界が変わる』というテーマでやってきたのですが、元々、仏教を個別のものと考えていたのですが、自分の身近なことと関連していることに気がついて、全く新しい視点ができたように思います」
一人ひとりを認めあえる世界を伝えてくれた、北陸高等学校のみなさんの発表に改めて、考えさせられるものがありました。
物事を「固定的」に見てしまうのが、私たち人間のありようではないでしょうか?女性だから、男性だから、いい大学を出てるから、背が高いから……
気がつかないうちに、色眼鏡を通してでしか、物事を考えられなくなっているように思います。そんな日常のあり方に一石を投じてくれる、プレゼンでした。
画面ではなく、僕たちの声でプレゼンを聞いてほしい!
そんな風に、プレゼンを始めてくれた東九州龍谷高等学校の皆さん。
今回のテーマは心の問題だから、画面上の文字よりも自分たちの気持ちを重要視していたので、そっちに集中して欲しかった。と語ってくれました。
今年の4月に起こった少女の自殺から問題提起を深め、それぞれの考えをプレゼンしてくれました。子どもたちが残した遺言書や京都自死・自殺相談センター(sotto)の副代表である、霍野さんと直接会い、相談センターのことや自死自殺の現状を聴き取り、報告されていました。
また、当事者と他者という2つの視点から課題を考え直したり、様々な視点があることを話してくださいました。
東九州龍谷高等学校の3人へ岩丸桜咲さん、新田真心さん、東陽晃龍さんにインタビュー
(取り組んで見ていかがでしたか?)
プレゼンはめっちゃ緊張しました!!手がすごい震えました!
テーマは扱ってみて難しかった。同じ解決策で、全員が助かるわけではない。それぞれにあったやり方がある。全部違う。
答えが1つというよりは、いくつもあるけど、その中で考えた案は「寄り添う」ということでした。
取り組む前は、なんで、自殺するんやろー?とか、なんでやろー?と思うことしかできなかった。話しかけようとか関わるとかもどうなんやろうー?と思っていた。けど、取り組んでみて、その心がわかった気がしました。心が広くなった気がしました!それに、寄り添う、ということも知りました。
(この3日間の感想は?)
いつも学校で仲の良い友達なんですが、ここまでしっかり話したことは初めてでした。それが楽しかった!
授業でも議論したり、話したりすることはあるけど、いつもは人数が多くてなかなか自分の意見をしっかり言うことができなかった。けど、このRAPの3日間、3人で本当にいろんなことを話し合ったし、考えられた。
自主性の育みがもたらすこと
では、参加校の先生はどのような思いを持たれていたのでしょうか?北陸高等学校の葉柴先生はこんなことを話してくださいました。
——自主的にみんなやれるようになったと思いますね。このRAPに参加する前と後では、自発的に動くようになったり、生徒たちの顔つきや物事に取り組む姿勢が大きく違っているように感じています。また北陸高等学校に関しては、3年生の参加が多く、大学入試の年ということもあり、入試に取り組む姿勢も大きく変わっているように思います。
また、仏教的な視点を先生たちに教えてもらうことを前提としてこのRAPに臨んでもらいました。宗教的な見解や、仏教的な見解をしっかり学んでくれたように思います。
——サポーターとした参加した大学院生・安川真由さん
自分の言いたいことを伝えるのは本当に難しいです。高校生たちを見ていて、まるで自分を見ているような気持ちになりました。
それに、高校生と一緒に考えたりすることによって改めて大事なことは何なのか?ということを再確認できたように思います。
私も大学院の修士1回生として、仏教の研究をしているのですが、研究しているとどうしても行き詰まったりすることがあります。けど、高校生たちが目の前で楽しそうに調査したり、議論している姿を見ていたら、楽しむ感覚を自分が忘れていたなぁ、と思いました。楽しむことの感覚を思い起こしてくれる本当にいい時間でした。
なぜ、いま仏教が必要なのか?
——仏教の講師を担当された野呂靖先生のお話
事前講義で「如実智見(にょじつちけん)」、物事をありのままを見ていく。通常の凝り固まったものを多角的に見ていくことを話しました。
物事を多角的に見ることを全体の課題としていました。大きな課題なので、各チームはどんなテーマを選んでもよかったんです。
環境問題、社会福祉、平和、殺人などの大きな社会的な課題に自分たちで選んで取り組んで、いずれも仏教や宗教がどのようにしていけばいいのか。
まず、どの問題にもまず、「人」というものが関わっていることを改めて、認識する。そのうえで、その問題をどのようにしていけばよいかを考える。極めて重要な宗教的な課題を自分たちなりに深めてくれていました。
社会的な問題の背景とその解決策を考えていくには、宗教や仏教の知恵というものが極めて重要であるということに気がついてもらえたように思います。
それと、RAPを通して自分の考えを主張する、ということもしてもらいました。どんなくだらないと思う意見でも、どんな意見でも重要なんだ、と言う感覚が大切なんです。
その意見自体が重要なんだ、という教育を受けてこなかったと思います。どこかでええこと言わなあかんとか、くだらないこと言ったらダメって思っているところがあるんじゃないでしょうか。
けど、本当は当たり前の意見でも、どんなにくだらなくても、あなたが考えていることに、言うことに意味があるんだと思っています。同じ言葉でも、この人が言うことに意味がある、あなたが言うことに意味があるんだ、というように伝えていくことが必要だと思います。
今回は、みんなが自分はこう考えている!とプレゼンしてくれた。厳密に言ったらツッコミどころがある、けど、しっかり考えてもらうのは大事な経験だったと思いますね。
一人ひとりの考えが尊重される、自信を持って意見を言えるのはいいですよね。そこに関われたのは、よかったですね。
どこかのチームで「みんな分かり合えることが大事や」と言うてたけど、途中から「実際に危害を加えられたら、分かり合えないことも出てくるのでは?」とさらなる、課題に気がついていった。みんな分かり合えない、ということをどう捉えていくのか、それを課題にして気がついたこともあるのかもしれません。一つの答えを導き出すのではなく、一つの疑問や課題からさらなる疑問や課題の発見につながることはとても重要なことです。
それが出てくるのは自分で考えていたからだと思います。
結果としてプレゼンにしてもらうんだけど、そのプロセスが大事で、何を悩んで、何を考えて、どう思考を巡らせていくのかが大切ですね。
このRAPを通して一つの課題から、さらに新しい課題や疑問が見つかったのではないでしょうか?自分の意見を言ったり、自分で考えていくこのプロセスが大切だと思っています。
「自分で考える」ということの重要性は問われることは多くありますが、実際にどうしたら「自分で考える」という状態になるのでしょうか?今回、きっと高校生たちは、大学の教授や大学生やいろんな人たちから実践を交えて経験したことでしょう。
いろんな人からヒントをもらいつつ「自分で考える」ということは育まれていくのだろうと感じました。
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龍谷総合学園