生きづらさを抱えた子どもだった私は、そんな子どものための第三の場所をつくった
少女時代のモヤモヤ、大学時代の苦しみ、社会人時代の違和感を少しずつ消化しながら、わがままプロジェクトという取り組みを始めることに決めた小野さん。
日本の公教育とは全く違う方針のフリースクール事業を中心としたプロジェクト。避けては通れない資金の話、運営で大切にしていること、理想とする教育のことについてお聞きした。
第1回 人目を気にしていた女性が、自分の生き方を見つけるまで。彼女が始めた「わがまま」なプロジェクトとは?
第3回 わがままな私と、わがままな他者が尊重しあって生きていく。わがままプロジェクトの取りくみ
収入の柱を複数持っておくと、やりたいことに集中できる
――フリースクールを立ち上げて運営するにあたって、資金面はどのようにやりくりされたのか、お聞きしても良いですか?
小野:資金面はあまり苦労してないんですよ。住みびらきをすることで場所代も抑えられているし、あとはデザインの受注と、英語教室には助けてもらいましたね。昔から英語が好きでしたし、アメリカにも住んでいたので英語教室を開いたのですが、需要がある!と感じた通り、たくさんの方に来てもらえました。
――今持っている資源や技術をフル活用したんですね。
小野:そうですね、徹底的にあるものを利用して。新しいことを始めるとき、そういう別の収入の柱を1本2本持っておくと良いですね。おかげでフリースクール事業では、利益とかそういうことを考えすぎずにやりたいことができました。
――なるほど。NPOさんとか、お寺さんとかでも何かをしようと思うときに、資金面でハードルの高さを感じておられる方が多いような気がして、伺ってみました。協力してくださるスタッフが必要だというときも、ボランティアの方はもちろんありがたいのですが、お金をお支払いしない代わりにお願いできることも限られてきたりとか……難しいですよね。
小野:それはありますね。私も、これまではボランティアの方とか、ご好意で手伝ってくださる方々に恵まれてやってこられたんですけど、これからはお給料をお渡ししてその分の責任も自覚してもらえるよう仕組みを作っていきたいです。
わがままプロジェクトにフルコミットしているのは私一人です。なので、私が倒れちゃうとプロジェクト自体が倒れてしまうので、今後はそのへんの課題も解決していきたいと思っています。
「前ならえ!」の日本の教育からはみ出た子ども
――わがままプロジェクトにはいろんな取り組みが含まれていますが、なかでも教育系の分野に力を入れておられるように見えます。絵画教室や英語教室、フリースクール間{ま}もそうですよね。これには何か理由がおありなんですか?
小野:ずっと日本の教育に疑問を感じていました。「みんながこうしているから私もこうじゃなきゃいけない」っていう空気がどうしてもわからなくて。私自身もそういう学校生活には馴染めなかったので、けっこう反抗的な生徒だったと思います。
それがずっと自分のなかにしこりとして残っていました。さらに、大人になってから、不登校の子や障がいのある子との出会いもあって、この子たちやかつての私がのびのびと自分の学びたいことを学んで、やりたいことをやって生きていけるのだろうか……って考え続けたことが、教育分野に意識が向き始めた理由ですかね。
――日本の社会にありがちな慣習にも馴染めなかったと前回のインタビューでお話いただきました。その根底には教育の段階からの問題というか、課題があるのかもしれないですね。
小野:絵画教室をしていてもこれは感じることなんです。もっと周りの視線から解放されて、自分のなかの「こうじゃなきゃいけない」を外して、自由になれたら良いのにって。もちろん大学時代の私自身にも言えることですけど。
――確かに、日本の学校の美術の時間って、学校にもよるのかもしれないですけれど、あんまり創造的な時間だったような気がしないかも。
小野:そうですね。私、美術の時間に忘れられない思い出があって。粘土で立体を作る課題だったんですけど、私は熊の立体を作ろうとしたんですけど、体も顔も全部真っ平らにしたんです。その上から筆で熊の表情を描き込みたかったんですね。でも、先生に見せたら「ちがう!!」って言われて潰されました。
――ええ……それはひどいです。
小野:すごくショックでした。そんなことしてるから先生の授業はつまんないんだよ!!って。笑
この授業に限らず、学生時代からずっと「先生たちもっとこうすれば良いのに、ああすれば面白いのに」って思っていました。
――そういう若い時の違和感を、大人になっても捨てずに、社会に問うていくってすごいことですよね。
小野:社会に還元していくとか、貢献しようとかってよりも、まず自分を知りたいっていう思いが根源にあるんです。
自分が思っていることや、自分らしさを探求するなかで社会と接点を持っていくというのが私にとって一番良いってわかったので。そこにいろんな人が「それ面白いね」って言いながら集まってくれて。
――さきほど日本の教育の「こうじゃなきゃいけない」という空気に馴染めなかったというお話がありましたが、他にも違和感を持つ部分はありますか?
小野:公教育でも家庭教育でも言えることなのかもしれませんが……、すごく子どもと大人の関係が縦で固定されているのは気になります。横の関係ではなく縦の関係がとても強固に築かれるんですよね。
会社での年功序列みたいな空気もそうだし、先生と生徒、親と子……。縦の関係が悪いというよりも、横の関係性があまりに築かれていないというのが引っかかってるんです。
――確かにそうですね。子ども時代に教え込まれた関係性が、社会人になっても引き継がれていってしまうという感じでしょうか。小野さんは、この教育がどういう風に変われば良いと思って今の活動をされているんですか?
小野:私が理想としているのはデモクラティックスクールです。
デモクラティックスクール、子どもを尊重する子ども主体の教育
小野:公教育などに馴染めない子どものための第三の場所が※デモクラティックスクール(別名:サドベリースクール)なんですが、ここでは子どもが主体の居場所作りがなされていて、わがままプロジェクトのフリースクール{ま}でも取り入れています。
でもデモクラティックスクールといってもスクールによって、都会のど真ん中にあれば森の中のような場所もあるし、家庭的だったり学校みたいに大きかったり……環境
は様々ですが、どのスクールも子どもの熱を消すことなく、大人が100%信頼して見
守っています。子ども自身がどういう教育を受けるか彼ら自身で決めることができる
のが特徴です。
運営も子どもたち、先生を選ぶのも子どもたち、イベントの企画運営も全て子どもたちがやります。もちろん相応の責任を負うことも求められますが。私はこの教育のあり方がすごく素敵だなと思ったんです。
※デモクラティックスクール(別名:サドベリースクール)
参照:NO IDEA! 〜究極の自由と責任をこどもたちに与えたとんでもない教育〜
――本当に素敵ですね。
小野:この国では、子どもたちにいろいろ教えなきゃいけないっていう視点ですよね。でも、彼らはすごく無限のエネルギーや可能性を持っています。それをどのように引き出してあげるかっていうのが大切なんじゃないかなと。
――子どもにあれこれ教え込むのではなく、彼らが秘めている可能性を引き出す。
小野:はい。その方が子どもたちが自由になれるような気がします。
――教育についての理論は他にもたくさんありますよね。そのなかでもデモクラティックスクールを選んだ理由ってありますか?
小野:デモクラティックスクールが一番、大人と子どもの関わり方が自然だと感じたからです。子どもの意思をすごく尊重していますし。
子どもは一人ひとり別の人間です。性格も違えば、学びたいことも違う。それを尊重しているのが素敵だなと思いました。
でも、実はシュタイナー教育にも興味があって、一般向けの公開講座を受けたりして勉強しているところなんです。シュタイナー教育は、身体と心と頭がバランスよく調和すること、自分の意思で人生を歩むことができることを目指します。発達段階に応じたプログラムが細かく決まっているのが、デモクラティックスクールとの大きな違いです。生まれたその時から、その時にあったものが用意されているような感じです。
授業は芸術的アプローチがすごく多いので、芸術教育とも言われています。踊りや絵を描くことが日常です。そうしてしっかりと自己肯定感を高め、自立した自由な子どもを社会に送り出すのです。
――わがままプロジェクトのフリースクールでシュタイナー教育を取り入れようとは思わなかったんですか?
小野:シュタイナー教育は小さいころから受けられたらすごくいいものなんだろうなと思うのですが、私の作った居場所にやってくるのは中学生や高校生が多いし、小学生でも高学年の子が多いので、ちょっと合わないなと。
すでに絵を描くことや人前で表現することが恥ずかしいですから。それに、自分らしくいることの勇気をくじかれている子が多いので、そのままでいいんだよって背中を押してあげられる場所が必要だったんです。
フリースクール{ま}に来てくれる子どもたちが、自分のしたいことをのびのびと学べるように応援してあげられるよう、デモクラティックスクールを参考にして場所作りをしました。
フリースクール{ま}の「ま」って、Wagamamaのmaだっていうことは前回お話したと思うんですけど。自分と他者との間(ま)がより良く調和していくためにはどうしたら良いかを学べる場所でもあってほしいと思っています。自分がしたいと思うことを知り、相手がしたいと思うことを知って、お互いに尊重し合うにはどんな風にバランスを取れば良いのかということを。
――他にもフリースクール{ま}で独自にやっていることはありますか?
小野:教育方針として、というわけではないのですが、子どもたちにいろんな機会をつくってあげられたらとは思っています。
一軒家のなかの一室を宿泊スペースとして空けてあるんですけど、そこに外国の友だちが泊まりに来たりとかすると、子どもたちと交流してもらうようにしています。文化交流もできるし、良いですよね。視野が広がれば、生き方は一つじゃない!と思え
るじゃないですか。これって人生観ですごく大事なことなんですよね。
私が全てを決めるというよりは、いろんな人が関わってくれるなかで自然と進んでいくものをなんとなくまとめる感じでいます。
生きづらさを抱えた子どもが、いま日本でどれだけいるのだろうか。ニュースやメディアで明らかになるよりももっとたくさんの苦しみや戸惑いがあるのだろう。小野さんの理想とするような居場所が、一人でも多くの子どもたちのそばにあればいいと願わずにはいられない。
次回は、「わがまま」であるということと、他者を尊重することの関係について、そしてわがままプロジェクトの今後についてお話をうかがう。
第1回 人目を気にしていた女性が、自分の生き方を見つけるまで。彼女が始めた「わがまま」なプロジェクトとは?
第3回 わがままな私と、わがままな他者が尊重しあって生きていく。わがままプロジェクトの取りくみ