わがままな私と、わがままな他者が尊重しあって生きていく。わがままプロジェクトの取りくみ

 

生きづらさを抱えた人に小野さんが届ける「わがまま」という生き方。でも、本当に「わがまま」に生きることは、思っていたより難しそう……。

 

そもそも「わがまま」ってどういうこと?「わがまま」な自分のままで、他の人とどう関わっていけば良いの?

 

小野さんの「わがまま」観をさらに深く、そしてわがままプロジェクトの今後についてもお聞きした。

 

 

第1回 人の視線を気にしていた女性が、自分の生き方を見つけるまで。彼女が始めた「わがまま」なプロジェクトとは?

第2回  生きづらさを抱えた子どもだった私は、そんな子どものための第三の場所をつくった

 

 

ゲストハウス2

 

 

自己中心的であることと、「わがまま」であることの違い

 

 

 

――自分の本当に思っていること、したいことに光を当てるという小野さんの姿勢や、プロジェクトのコンセプト、すごく素晴らしいなと思います。同時に、自分だけではなく、他者との関わり方にも強く関心を注いでいらっしゃるのかなと前回のお話で感じました。

 

自分が「わがまま」であることと、他者を尊重することの両立についてもう少しお聞きしたいです。

 

小野:まず、自己中心的であることと、「わがまま」であることには私のなかで明確に違いがあるんです。

 

自己中心的であるっていうのは、他者を自分の領域に引き込むというか、とにかく自分を見てほしい、自分の言う通りにしてほしいっていうことだと思うんです。自分の思いと他者の思いが両立していないんですよね。

 

一方、「わがまま」っていうのは、「私はこうしたい」っていうことと「君はそうしたいんだね」「あの子はああしたいんだね」ってこととが両立する状態だと思います。

 

自己中心的な世界は閉じていて狭いのに比べて、自分の思いも他者の思いも認められる「わがまま」のあり方というのは、世界が広がっていくんじゃないかなと感じています。他者への関心を持てている状態というか。

 

――なるほど。どちらかが我慢するのではなくて。

 

小野:はい。私、合氣道をやっているんですけど、この私の「わがまま」観って、合氣道の思想に重なる部分がすごく多いんです。

 

合氣道では「相手をこうしてやろう」と思って動くのではなくて、相手がどんな風に動こうとするのかを読んで、「ああ、あなたはそう動きたいんですね」ということを感じられて初めて手が出せるんです。

 

――それで相手を倒せる……というか、勝敗がつくんですか?

 

小野:倒せるんですよ。不思議ですよね。

 

 

室内飾り

 

 

「こうしてやる!」っていうパワーとパワーの押し合いって、どんな状況でもそうですけど、全然スムーズにいきませんよね。

 

人間関係でもそうです。双方が自分の思いを持ちがなら、相手の思いにも眼差しを注ぎあって初めてスムーズな関係が生まれます。

 

――わがままな自分と、わがままな他者とのスムーズな関係。

 

小野:どちらかに我慢が偏る関係は、長続きもしないと思います。

 

 

 

自分の軸を持つため、自信を持つためには何をしたら良いの?

 

 

 

――「わがまま」であることにおいて、自分に自信を持つことや自分の軸を持つことが大事なのはわかります。しかし、どうしてもそこまでたどり着けないという方も多いんじゃないかなと思います。小野さんご自身はノートに気持ちや考えを書き続けたと仰っていましたが、もう少し具体的に、自信の持ち方や、自分の軸の探し方について教えていただきたいです。

 

小野:本当に些細なことだけど、ちっちゃなこともきちんと自分で選択していくことだと思います。

 

例えば、私は今日赤い服を着るのか、青い服を着るのか。「今日は発表会で気分をあ

げたいから、赤!」とか「今日は空がとても綺麗だから、青!」とかって、どうでも

良いような小さな選択でも自分が選んだという実感を持つこと。

 

 

今の情報化社会において、情報を選択しないという選択もあると思います。日常的に

SNSで人のいいことがたくさん流れてくると思うんですけど、それを自分の環境と照

らし合わせて、焦ったり凹んだりするなら徹底的に排除する!それも大事なことだと

思うんです。

 

 

そうやって自分で選ぶ経験を積み重ねていくと、軸みたいなものが自然と見えてくると思います。ブレない軸をつくろうとか、そのためにはこうするべきっていうハウツーがあれば楽なんでしょうけど、たぶん軸とか自信とかってつくるんじゃなくて自然とできていくものじゃないかな。

 

 

――すごい。

 

 

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小野:夫にはいつも「考えすぎ!」って言われます。笑 でも私みたいに人の視線が気になる性格だと、意識して自分で選ぶっていうのも大切じゃないかなと思うんですけどね。些細な自分を知るっていうか。

 

――自分を知るっていうのは本当に大切な営みだと思います。

 

さっき、青空が綺麗なのを見て今日は青い服を選ぶ、という例えを出していただきましたけど、何かを決断するときに、周囲への眼差しがあるという状態はすごく良いですよね。前回お話いただいた「自分と他者との間(ma)、距離感を尊重する」ことに繋がっていく気がします。

 

小野:わー!そうですね!確かに。

 

 

 

デザイン

 

 

 

「こうしなきゃ」や「普通は〇〇」に振り回される日もあるけれど

 

 

 

小野:私、「普通は」っていう言葉がすごく引っかかるんです。私の親もよく言うんですけど。「普通はそうやろ?」とか「普通はそうじゃない」とか。で、時々私も言っちゃうことがあります。

 

――根深い感覚ですよね。みんながこうしてるから私も、という選び方は慣れてしまうと本当に楽です。自分で思考する必要がない。先ほどお話いただいた「自分で選んでいく」こととは違うあり方ですね。

 

小野:そうなんですよね。この「普通は」に従って生きていくとなんだか深みのない、ペラペラの人生になってしまいそうです。だから、きちんと自分で考えて選んで、その選択に責任を持って……って生きていこうと思っていたんです、ずっと。でも、私、子どもを産んだらなんと「普通は」思考になっちゃったんですよ!

 

 

 

子どもと

 

 

 

――先日ご出産なさったんですよね。お子さんを持ってから、自分で選ぶことが難しくなったということですか?

 

小野:そうなんです。子どもに関することを決めるとき、ものすごい不安と恐怖を感じるようになって。今までは自分が素敵だと思うことや、良いと思うことをどんどん選んで実行してきたのに、急に赤ちゃんのことになるとみんなの「普通」が知りたくなるんです。

 

私自身が自分の目で我が子を見ていて、この子にはこれが良いんじゃないかと思ったことでも、ネットで「2ヵ月 赤ちゃん 遊び」とか検索して「あ、これ一般的にはダメなのかも……」と思って辞めちゃったり。

 

それでネットで推奨されていることを必死でこなしたりして……すごく疲れるんですよ。

 

――それはつらいですね。

 

小野:赤ちゃんが泣いてなかったら、夫は横で漫画とか読んでるんですね。それを見た私が「もっとちゃんと見てあげてよー!!」って言ったんです。そしたら夫は「泣いてないんだから良いじゃん、ちょっと落ち着いて」って。はっと気づいたらもう私、すごく息も浅くていつも焦ってて。全然周りが見えなくなってたんですよね。それってもしかしたら赤ちゃんにとっても息苦しい状態だったのかなって思います。

 

――うんうん。今は少し落ち着かれたんですか?

 

小野:はい。ひとつずつ解決して、徐々に落ち着きました。

 

ある人に「子育てには自分の悪い癖が出る」って言われたんです。私の悪い癖を思い出してみると、人と比べてしまう……とかね。本当にそうだなって思いました。改めて自分を見直せる機会になっています。

 

――それは今後のわがままプロジェクトにも生かされてくる視点かもしれないですね。

 

 

 

わがままプロジェクトのこれから

 

 

 

――わがままプロジェクトは小野さんのご出産で一時休止とのことですが、今後について展望はありますか?

 

小野:以前と全く同じ形での始動はしないと思います。

今は、子育てしながらも、地域と人と繋がれるまちライブラリー」という活動をしています。

どんな活動にせよ、その時の私がしたいこと、できることを面白いかたちでやりたいなと。

 

ずっと協力してくれたり、参加してくれていたみんなにも、「好きにしたら良いよ!応援するから!」って言ってもらっているのでお言葉に甘えようかなって思います。

 

――ちょっと考えていること、を少しお伺いすることはできますか?

 

小野:ぜひぜひ! 私、フリーハグをやってみたいと思ってるんですよ!

 

――街中で通りすがりの人とハグをするってやつですか?

 

小野:それです! 子どもを連れて、子連れ狼みたいに。(笑)

 

 

 

ゲストハウス

 

 

 

これまで、学校や会社や家庭での人間関係に悩む人たちの姿を見てきて、人と人との間には、言葉ではなかなか伝えきれない気持ちがあるなって感じていました。

 

例えば「自分はダメなやつだ……」と思っている人にどれだけ「あなたは素敵だよ!」って言葉を尽くしても、その人の心に届かないことってたくさんありますよね。ハグって、そこを越えていける可能性があるような気がするんです。

 

――それは素敵ですね!

 

小野:子育てをしていても、触れ合うことで伝わるものがあるって実感します。

 

赤ちゃんが、わんわん泣いているときに「はいはい、おっぱいねー」ってすぐにおっぱいをあげても泣き止まないときがあるんですよ。そのときに、この子はまずは抱きしめてほしかったのかもしれないって思って、ぎゅーって抱きしめてからおっぱいをあげると、ごくごく飲んでくれたんです。日常のなかで抱きしめるっていうことの大切さを教えてもらったので、次の取り組みに生かしていけたらなと。

 

――コミュニケーションは言葉だけでするものじゃないですもんね。小野さんの、そしてわがままプロジェクトのこれからが、ますます楽しみになってきました。

 

 

 

子どもと3

 

 

 

 

 

自分で選んだ人生を、自分のための人生を歩む。当たり前のようでいて、多くの人にとって難しいこの命題に、「わがまま」というフレーズで軽やかに挑んでいく小野さん。彼女はWebサイトに、いつかみんながわがままに生きられる世界が実現できたら、「わがまま」という言葉はこの世の中から消えてなくなる、と記している。インタビューを終えた今、そんな日を夢見て、まずは明日の服を選んでみようと思っている。

 

 

第1回 人の視線を気にしていた女性が、自分の生き方を見つけるまで。彼女が始めた「わがまま」なプロジェクトとは?

第2回 生きづらさを抱えた子どもだった私は、そんな子どものための第三の場所をつくった

 

 

   

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掲載日: 2019.03.28

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