「超高齢社会」どう対応?合葬墓から始まった画期的なシステム|NPO法人りすシステム

松島 如戒さん

NPO法人 りすシステム相談役 松島如戒さん

 

65歳以上の人口が全人口の27%を超え、「超高齢社会」と呼ばれるようになった現代日本。また、核家族化の進行などによって人と人の繋がりが希薄となり、「無縁社会」とも呼ばれるようになりました。その中で、自身の命の終え方について考える、いわゆる「終活」がブームとなっています。このブームが沸き起こる前から、日本人の死生観を先取りし、画期的なシステムを構築された方がいらっしゃいます。
 
NPO法人 りすシステム相談役の松島如戒(まつしま にょかい)さんは、血縁を超えて入ることのできる合葬墓や、療養看護や最期の看取り、葬儀といった老後や死後の手続きを請け負う、生前契約のシステムを構築されました。「生前契約のパイオニア」とも評されるりすシステムさん。その立ち上げの経緯と内容について松島さんに伺いました。
 
りすシステム立ち上げの経緯
 
ーーりすシステムの立ち上げの経緯はどのようなものだったのでしょうか?
 
松島:1988年頃、バブル崩壊前後。地縁、血縁が失われつつあるなかで、大都会の中での村、お墓を中心とした地域コミュニティーをつくりたいと考えていました。
東洋大学の元学長である磯村英一氏が、これからの時代は家族で墓を守っていくのは難しいと提言されたことをきっかけとして、合葬墓「もやいの碑」をつくったんです。これは現在は全国に数千あるとされる合葬墓の先駆けとなるものです。
その後、故人が亡くなったあと、火葬や納骨を代行するところもやってほしいという要望があり、支援の内容も多様化していきました。
 
かつては老後の生活支援を家族や親族が担っていました。ですが現代は家族機能が減退しているため、家族に代わるものがないと生きていくことが難しいですよね。そこで、契約という形で第三者の法人に託そうというものが、いま「りすシステム」が行なっている「生前契約」です。
 
ーー「りすシステム」の「りす」とはどういう意味なのでしょうか?
 
松島:「りすシステム」のりす(Liss)はLiving support service(生活支援サービス)の略です。
契約を請け負うためには、法人格がないといけないんです。
いまはNPOとしてやっていますが、当時は法律上、会社組織にするしかありませんでした。そこで、1993年に「株式会社巣鴨平和霊苑」としてスタートし、その後「株式会社りすシステム」へと名前を変えたという経緯があります。(2000年11月にNPO法人へ移行)
設立当初は葬儀や納骨の話など、死後のサポートを中心に活動していました。そのうち、手術の同意や、高齢者施設に入るための保証人になってほしいといった要望が多様化し、それらに応えるべく事業を拡大させてきました。現在では、累計で6000契約ほどあります。
 
りすシステムの事業内容と利用者の声

生前契約の仕組み

生前契約の仕組み(りすシステム公式サイトより)

 

続けて、りすシステムさんの業務内容について伺いました。
 
りすシステムさんの代表的な事業である生前契約は「生前事務委任契約」と「死後事務委任契約」に大別されます。生前事務委任契約の内容例は
・身元引受け保証や緊急連絡先の受託
・医療上の判断の支援
・就職の身元引受保証
といった法律行為に依る支援から、通院や外出、旅行の付き添いといった日常生活にかかわる支援まで多岐にわたります。また、認知症等で本人の判断力が低下した際の任意後見契約の受託も引受けています。
 
そして、死後事務委任契約では本人が死亡した後に発生する業務を行います。ご遺体の搬送から葬儀、火葬、そして納骨という一連の流れとそれに伴う手続きや遺品整理といった業務が代表例です。それだけでなく、葬儀はどのように執り行うか?宗教儀礼は行うのか行わないのか?柩に入れたいもの(副葬品)はあるか?といった本人が生前に希望した内容に沿うように、死亡後の手続きを進めています。
 
 
このような事業内容に対し、利用者の反応はどうでしょうか。
 
自宅で1人暮らしをされている78歳の男性は、深夜に自宅の階段から転落し、病院に搬送されました。その時にりすシステムのスタッフが病院に駆けつけ、診察に付き添ったところ「運ばれた病院に、すぐ来てもらって安心しました。」とお礼のお声を頂いたそうです。
また、早期退職で年金が少なく、老後資金の不安からリバースモーゲージ*1を利用した75歳の女性は、保証人をりすシステムが請け負うことで、時間はかかったものの契約を行うことができたそうです。女性は「今後、相続人のいない高齢者が増えると思います。そういった高齢者と銀行双方にとって、りすのような存在はなくてはならないものだと思います」と話します。
 
利用者の声からも、「生前事務委任契約」と「任意後見契約」や「死後事務委任契約」が高く評価され、世間から必要とされていることが分かります。
 
 
*1「高齢者が居住する住宅や土地などの不動産を担保として、一括または年金の形で定期的に銀行から融資を受け取り、受けた融資は利用者の死亡時等に担保不動産を処分し、元利一括で返済する仕組み」のこと。
 
インタビューに応じる松島さんと芳賀さん

インタビューに応じるりすシステム相談役の松島 如戒さん(右)と同企画室長の芳賀みゆきさん(左)
 
今後の展開と寺院に対しての期待
 
最後に、今後の展開とわれわれ僧侶や寺院に対する期待を伺いました。りすシステムさんは、全国各地に事務所を展開されていることもあり、「寄付のみでの運営は厳しい」といいます。今後は他団体とのフランチャイズ契約を結び、ノウハウの継承も考えておられるようです。
 
われわれ寺院が参画する(フランチャイズ契約を結ぶ)ことはできるのでしょうか。尋ねたところ、今の段階では寺院に生前事務委任契約や死後事務委任契約を任せるのは難しいのではとのことでした。
しかしその一方で、「お寺にも江戸時代に回帰して生活支援を是非やってほしい。檀家さんの日常的なケアをお寺がトータルでサポートしてほしい」としたうえで、「そうした活動を僧侶がチャレンジするのは良いこと」と話されました。
 
ーーー
 
多岐にわたる業務内容からも、誰かの家族を肩代わりするというのは非常に労力が必要であることが窺えます。超高齢社会、無縁社会に対応する形で「契約家族」というシステムを考えられ、それを長きにわたって運用されているりすシステムさん。その努力は計り知れないものでしょう。利用者さんの声を聞くと、そのニーズの高さも無視できません。
松島さんの仰る、お寺の生活支援の実現には覚悟をもって検討しなければなりません。

 
 
●Interviewee’s profile
 

 

松島 如戒(まつしま にょかい)
1937年 京城生まれ。
1988年 東京・巣鴨に高野山真言宗功徳院東京別院、すがも平和霊苑を建立
1990年 血縁を超えて入る合葬墓もやいの碑を建立し、もやいの会を設立
1993年 任意後見・生前契約受託機関りすシステムを設立
2000年 契約監視機関NPO日本生前契約等決済機構を設立。同年、りすシステムもNPO認証を受ける
2009年 NPO地球に恩返しの森づくり推進機構を設立
著書:『死ぬ前に決めておくことー葬儀・お墓と生前契約』(岩波アクティブ新書)、『サイバーストーンーインターネット上の「墓」革命』(毎日コミュニケーションズ)など
   

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掲載日: 2019.11.06

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