生前整理と特殊清掃、明暗分かれる2つの仕事|鈴木健司さんインタビュー②
今回は、生前整理や特殊清掃について、美鈴環境サービスの鈴木さんのインタビューをご紹介します。
害虫駆除や遺品整理、生前整理と様々な事業を展開する鈴木さん。前の記事では害虫駆除についてお話をしていただきました。害虫駆除の取り組みをされている中で、遺品整理のニーズの高まりに気づかれたのがきっかけでした。鈴木さんが取り組んでおられる生前整理と遺品整理、そして今なお社会問題として浮き彫りになる孤立死の現場についてうかがいました。
鈴木さんへのインタビューは全3回にわたってお届けしています。第一回、第三回はこちらをご覧ください。
民間業者が出来ることと出来ないこと
ーー害虫駆除から遺品整理の仕事もされるようになったのはきっかけがあるのですか?
鈴木:そうですね。メディアの情報から需要が高まって来るだろうなと思いました。滋賀県では遺品整理を大々的に掲げているところはまだないと知ったので、10年くらいたったら、名前を売れるようにしようと、先行して看板をあげようとなったのです。
ところが思っていた以上に需要の高まるスピードが速く、お問い合わせも京都を中心に増えました。
ーーサービスを始められたのは5年くらい前からですか?
鈴木:大々的に看板をあげたのはそれぐらいですね。それまでもやっていました。
ただ、片付けというのはルールがありまして、ゴミを運ぶのに許可が必要なのです。勝手に運んじゃダメなんですよね。いくら便利屋と看板をあげていても、収集運搬の許可を持っていないと出来ない仕事なのです。
ーー何かそういった資格や許可が必要ということでしょうか?
鈴木:そうですね。家財の不用品運搬は、ゴミ回収業者がする仕事なんですよ。それも仕事として片付けをしていくうちに勉強してきたことなんですけどね。市によってルールも違います。滋賀県ですと大津市のルール、草津市のルールといった具合にあるわけですね。市のルールに従って行わないといけないことも学びました。
ーー資格取るのは難しかったりするのですか?
鈴木:運搬の資格になりますが、一般家庭から出たゴミというのは一般廃棄物となります。この許可は取れないのです。ゴミの日にパッカー車で回って来られる方おられますよね?もともとこれは行政の仕事なんです。ところが行政だけではとてもじゃないけど間に合わないので、行政が認めた業者さんにお願いされているのです。
最近は遺品整理士認定協会さんでは、遺品整理品専門の運搬許可を取得できるように少しずつ活動しておられますが、これが基本のルールなのです。
許可がなくても、当社ができる仕事もあります。それは家の中の分別や仕分けの作業です。
住んでおられる方の代わりであったり、一緒にお片付けを行います。特に想いの詰まっているものの整理であったり、想い出から思い切って決別する整理を行います。「これ、もういいわ」と思い出から離れる。そういう場でもあるんですよね。何もかも残すわけではないです。本当は残したいけども、つらいのもあると思うんですよ。
ーー具体的にはどういったことでしょうか?
鈴木:例えば息子さんがお亡くなりになられて、学習机を残したままの場合、最初は捨てるなんてことが考えられなくても、突然見るのが辛くなる日が訪れます。
生前整理の時にできる愛
他には、お母さんのものを捨てられない、趣味や作品とかそういうものは捨てられない。それをゴミに出してしまうのはどうも辛くてできない。ではそれをどうやって処理するのか。例えば、住職の方に出張供養を依頼するという方法が有ります。
ご依頼人お立ち会いのもと供養後に処理することで、物だけではなく気持ちの整理もついたとのお声を頂いております。
ーーそういった行為や儀式をされたり、お願いしたりされてるとは思ってもみませんでした。
鈴木:供養して頂くと、やっぱり踏ん切りはつきますよね。片付けってそこなんですよ。スカッとすると、生きる活力がみなぎって来るというか湧いてくるじゃないですか。だから僕は生前整理であってほしいんですよ。遺品整理だと本人はいないですから。
ーーなるほど。そこで遺品整理と生前整理の違いが出てくるんですね。遺品整理は、ご本人が亡くなられた後に、つまりご本人がいないところでご家族がされる。生前整理だと、ご本人やご家族と一緒に話しながら整理をしていける。
鈴木:そうですね。生前整理をすることで、心に余裕が出来、想い出づくりや旅行、趣味などに気持ちが向かいます。いいことしかないと思います。悪いことは起こらないと思います。
悪いことが起こるとすると、見られたくないものを見られてしまう。特にこれからはデジタル系のトラブルは多いでしょうね。
ーーデータは永遠に残りますよね。
鈴木:パソコンの中から見てはいけないデータが出てきたりとかするんです。
僕は一番簡単な「写真」から整理します。僕はアルバムから自分の棺桶に入れて欲しい写真を選んだんです。すると、昔の思い出が出てくる蘇ってくるのです。当時の色んなことを想い出すわけですよね。これは生前整理でしか、出来ないことだと思います。写真の整理が終わると、次は残したいものですね。
ーー例えばどういうものですか?
鈴木:例えば、生きてる間だったら、子どもが小さい時にくれたプレゼントとか残したいですよね。そういうものは残しておいて、「これは無くなったら棺に入れてね」と、エンディングノートに書くんです。
あとは、もし高価なものなどあれば、査定に出して換金するという方法も有りますが何でもかんでも貴金属や骨董を査定に出すのではなくて、時計なら息子に残す、宝石なら娘に残すなど、次の世代へ残してゆくことが望ましいと私は思っています。
現代では「形見」の文化って無くなってきていると感じます。例えば、家紋のついた袱紗などは受け継いでいかれますが、古銭や切手はお金になるから売る、という行為は、正直僕はあんまりやって欲しくないと思っています。何か1つでも受け継いで欲しいと。
ーー生前整理って、そういう風にお話をうかがうと重要だと思います。実際には遺品整理と生前整理はどちらの方が多いですか?
鈴木:やっぱり遺品整理の方が多いですね。でも6:4くらいですよ。ただそのうち、逆転するんじゃないかと思っています。高齢者が増えて、戸建てからマンションや施設に入る時など。徐々に生前整理が増えてきています。世の中も「生前整理しておいた方がいいよ」と発信していますし。
お金に対してこれから厳しくなるので、遺品整理の費用がどれだけかかるのか知っておく必要があると思っています。100歳までお金が足りるのか?といったように。
ーーちなみに量にもよるんですけど、遺品整理と生前整理でかかる経費の違いはありますか?
鈴木:それは生前整理の方が少ないですよ。
遺品整理はほとんどのものが必要でなくなり廃棄されるものが多くなりますが、
生前整理は生活するのに必要なものもあり、残すもの、廃棄するものに分かれます。
最終的に不要なものがあったら、ゴミ回収業者を呼ぶことになりますけど、生前整理の場合だとご自身でゴミの日に出せたり、クリーンセンターに運んだり、非常に安い費用で終わることができる。そこのメリットは大きいです。
遺品整理の時にかかってしまう時間、労力、お金をかなり削減できます。
ーープロの方がつくとコツがわかりますから安くつきますよね。
鈴木:分別、仕分けの費用や、コンサル費用は発生しますが処分にかかる費用は間違いなく軽減されます。
ーーコミュニケーション量もかなり増えそうですね。
鈴木:たった1日で凄く仲良くなります。2日とか3日かかるお客さんだったら、かなり深い内容のお話までしてくださいます。
ーー裸みられたような感じですもんね。
鈴木:そうですね。お客様にしたら、そういう感覚かもしれません。普通そんなことは頼めないですから。でも一人じゃできないですよ。片付けって。一人は辛いです。
労力的にもかなりつらいと思います。僕自身自分の家を一人でやれと言われてもきついと思います。
お仕事としてさせて頂いてますが、ボランティアで行うのはなかなか難しいです。一人でタンスは運べませんし、例えば冷蔵庫の中の食材を捨てることも簡単そうに見えて実は大変な作業です。
家事をされている方はお分かりになると思いますが、瓶に入ったジャムや液体物などは処分するのが大変なんです。
整理をしていると、そういったものがたくさん出てきます。
ーー生前整理を頼まれるきっかけは経済的以外のことでは何があるのでしょうか?
精神的なことが大きいと思います。あとは問い合わせの中で、「ここまで頑張ったけれどこれ以上は一人で出来ない」というケースもあります。
ーーその中でなにか精神的なきっかけはあるんですか?
鈴木:子どもさんの意見もあるのかもしれません。子どもさんは親御さんに自分で整理をして欲しいと望んでおられる方が多いように感じます。
この前もこんな相談がありました。
踏むタイプのミシンを大切にされているお母さんが、娘さんに「こんなん残しとかんといてね」と言われたそうです。
お母さんの希望をお伺いすると、「譲るのも嫌」「ゴミも嫌」とのこと。
となると答えは一つしかなくなります。娘さんに渡すしかない。けど、娘さんは要らないと。処分しておいて欲しいという気持ちも理解できないこともないですが、娘さんがそこで一言、「じゃあ私がもらう」と言ったらそれで解決じゃないですか。
嘘でもいいから思いやりですね。愛ですよね。生前整理の時にできる愛だと思います。本当にいらないなら、お母さんが亡くなられてから処分された方がいいと思うんです。だからそうやって大事にしているのに「捨てといてね」というのは悲しくなりませんか?。
生前整理は単なるゴミの清掃ではなく、親から子へと思いをつなぐ機会でもあるということを教えていただきました。生前整理によって育まれる愛というものがそこにはあります。ですが、最後に悲惨な現実が待ち構えていることも。鈴木さんは話してくださいました。
孤立死が生む、特殊清掃の現場
鈴木:いくら準備していても、これで円満だと思っていても、最後に孤立死したら、しかも見つけてもらえなくて腐敗してしまったらつらいですね……。
だから孤立死を無くしたいです。孤立死が起こるといくら頑張って生前対策していても家族は喜ばれないですよね。
ーー社会問題の一つ目にあげてくださっていた問題ですね。実際に、現場というのはどのようなことになっているのでしょうか?
鈴木:現場は結構辛いものが有ります。
やっぱり人が亡くなって腐敗している場所なので死臭も有ります。
ーーそう言った場合、どういうところから連絡があるのですか?
鈴木:例えば役所や不動産会社、マンションの管理組合などです。マンションとアパートは特に多いです。近隣とのコミュニケーションが希薄になっていますので。まずは、「臭いがする」から始まります。そこから不動産会社に連絡が入って発覚することが多いです。
ーーご遺体を見つけるとどのような手順で進んでいくのですか?
鈴木:まずは警察が入ります。そこで、遺体を引き取って検死をする。
そして孤独死すると警察による事情聴取も入ります。それが終わると殺菌消臭、特殊清掃作業といった処理に入ります。
人の体は動物ですから腐敗するので、特に夏場は3日で腐敗します。臭いを嗅ぎつけてハエが卵を産み付け「シデムシ」という害虫が大量に発生します。
ーー3日ですか……。臭いもすごいのですか?
鈴木:すごい臭いですよ。人間も動物なので。服などにも臭いが全部うつります。
ーーうつるんですか?
鈴木:移ります。1日現場にいるとその状態のままで家に帰ることは出来ません。作業終了後はお風呂に入ってから帰宅します。使用した保護服なども処分しています。
ーーご自身の何か精神的なケアといったことはされているのでしょうか?
鈴木:僕は特に自分のメンタル面で問題を感じたことは有りません。でもダメな人は絶対できない仕事です。
当社の従業員には、必ず本人の意思を確認します。希望しない人を無理に連れて行くことはしていないです。
亡くなった方に「ありがとう」って言ってもらってると思うんですよ。「綺麗にしてくれてありがとう」って。不動産屋さんが喜ぶとかそういうのではなく、亡くなった方が早く綺麗にして欲しいと願っていると思うんですよ。だから早く綺麗にしてあげないといけないなと。
でも本当につらいですよ。特に子どもさんとの写真などを見た時は。。。だからなくなってほしいです。孤立死なんていうのは。一件でもなくなってほしいです。
生前整理によって、親と子の関係、鈴木さんとお客さんの暖かい関係が築き上げられるのがお話を通してうかがえます。他人からすれば「生前整理の対象物」であったとしても、ご本人から見ればそれは大切な宝物です。一つ一つの物を見て、そこに詰まった思いを想像するというところに大きな意義を感じます。
しかし、いくら生前整理がうまく行えても孤立死となってしまえば大変です。お話を伺うに、特殊清掃の現場は想像を絶するのでしょう。そうした現場が一つでも減るようにと、鈴木さんは心から願っておられます。
鈴木さんへのインタビューは全3回にわたってお届けしています。第一回、第三回はこちらをご覧ください。
Interviewee’s profile
鈴木健司(すずき けんじ):有限会社美鈴環境サービス代表取締役、一般社団法人 社会整理士育成協会 代表理事。1972年、京都市生まれ。父の仕事がきっかけで、害虫駆除に携わる。1999年に現在の会社を立ち上げ、2006年より同社代表取締役。2015年に遺品整理士・遺品査定士の資格を取得し、遺品整理事業に参入。2019年、一般社団法人 社会整理士育成協会 代表理事、一般社団法人 相続診断協会 京都相続診断士会 副会長に就任。
Author
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掲載日: 2019.11.13