企画するってどういうこと?色んな人からのアドバイスで成り立つ|平井万紀子さんインタビュー③
――キャストはどのようにして募られているのでしょうか?
平井:イベントなどで知り合った方にお声掛けすることが多いですね。家族同士だと話が早いんです。次回〇日ですがどうですか?って聞いて「参加します!」「ありがとうございます」でOKなんです。
けど、施設を通すと、話は変わってきます。施設側からすると認知症の人はお客さまなんですよね。変な言い方ですけど。
施設に入所されている方がキャストになった場合、その施設と家族の了解を得ないといけない。そこでお話が断られたこともあります。
2019年に入ってからは京都の各区でやりたいと思って活動してるんです。大変な面はありますが、その地域に住んでいる方やその地域の施設に入所されている方、もしくはその地域が実家とか。地域に因んだ方を中心に集めたいなと思っています。
日常の中にこそ生まれてくるものを、見つけ出したい
――ここまでお聞きしてきた「まぁいいかcefe」。一つキーワードを挙げるとするなら「働く」でしょうか?
平井:そうですね!実はやり始めて気がついたことなんですが、うちの母は給仕するのがあんまり好きじゃなかったんですよ。
母が途中で「私、厨房の中で洗い物や掃除がしたい」って言い始めたんですね。
実は給仕は比較的わかりやすい仕事ですし、働いてもらいやすいんですけど、それにこだわっているわけではなくて。他の仕事でもいいなって思ってるんですね。「働く」って一言で言っても、さまざまな働き方があるんですよね。今考えてみると当たり前のことですが、改めて認識しましたね。
――確かに、社会で「働く」は給仕だけではないですもんね。給仕以外の、「働く」をいっぱい見つけていけたら、よりクリエイティブになりそうです。
平井:あと「働く」ではないかもしれませんが、2018年12月にマールカフェさんで「まぁいいかcafe」をしたときに、メイクアップができる友達に来てもらって、キャストもメイクをしてから現場に向かったんですよ。そしたらやっぱり、みんな嬉しそうなんですよね。
人から見られるわけですし、綺麗に見られたいという気持ちがやっぱりあると思うんです。その気持ちも大事にしたい。メイクの延長でファッションショーとかも楽しそうですよね。働くことも大事ですが、同時にキャストが楽しいと感じることも大事だと思っています。
――「働く」にこだわるというよりは、高齢者のQOL(Quality of life;生活の質)をあげていくということでしょうか?
平井:そうですね。人には、人の役に立つこと。愛されること。人から必要とされること。人に褒められること。が大切だと思っています。そして、この4つのうちの愛されること以外の3つは働くことによって得られると思います。
――平井さんのお話を聞いていると、一般的に考えられる福祉のイメージとは少し違うような気がします。
平井:そうですね。いわゆる「福祉」の枠では捉えていません。私自身が福祉施設で働いたり、介護士の資格を持っているわけではないので、母親の介護をする一人の人間、という感覚が強いからかもしれません。
明るく、常識内の範囲でワクワクできるようなことができたらいいなって。施設の中だけではなく、実生活での楽しみを混ぜていくというか⋯⋯。
介護する側が抱える想い。正解のない答え。
平井:私は認知症に関連するイベントをやっていますが、そのイベントだけをやっているわけではないんです。イベントのときだけでなく「日常」の中でこそ、何かをしたいんですよ。
この活動を通して、ありがたいことに介護者とも仲良くなったりします。介護者ともお話する中で出た私の結論は「介護者の接し方、関わり方によって認知症の方の日常、延いては生き方も変わる」です。
もちろん、イベントで皆さんの笑顔を見れることも嬉しいです。介護者やお客さん、キャストの方が本当に和んでくださって、ほっこりできる場づくりも大切に思っています。
――認知症の方の日常を大切にされているんですね。平井さん、または介護者でそういった想いを持たれているのはすごいことだと思います。しんどい、つらい、と思われている方も多いと思うのですが……。
平井:確かに実際しんどい面もあります。、施設で職員さんに母のことを話すと、「平井さんの言うこともわかるけど、当のお母さんはどう言ってるの?」と言われるんですよ。介護者は介護者をフォローするのではなく本人をフォローするのが仕事なので、当然のこととはわかっているんですけどね(笑)。
――それは自宅で介護されている全世界の人の心の声かもしれませんね。
平井:実際介護離職の問題も出てきてるんです。2025年から5人に1人は認知症になると言われているそうです。
40代、50代、仕事やめて介護をしてる人も多くなってきています。そういった方たちが皆さん言われるのは、「将来が不安」ということです。
今、高齢者の方は年金で施設代金を払われている方も多いですが、これからの世代も同じように年金で工面できるかわからないです。どんどん介護離職が問題となっていきます。そう思った時に、介護者になったからこその仕事ができないかと考えているんです。
認知症の母と一緒に仕事場に出勤する社会へ!
平井:介護者だから見える部分ってけっこうたくさんあるんです。認知症の人と街に出たとき、こんなふうに対応してもらったらすごくありがたい、とか、声掛けするときはこういう言葉を使ってもらったら自己肯定感が上がって比較的スムーズに会話できるのに、とか。逆に、そこまでしてもらわなくていいのにな、とか。そこを自宅で介護する私たちがまとめ上げて、お仕事として伝えていけたらと思っています。
最近は、ペット同伴で出勤できる企業もあるじゃないですか。子ども、赤ちゃん連れでの出勤とかもそうですが、私が提案したいのは認知症の人と一緒に働きに行けたら、私でも母を連れて働きに行くことができるんですよね。
――確かに、今後そんな社会になる可能性もありますよね。
平井:できないかもしれないけど、それでもそうなったらいいなと思います。そうじゃないと、もう働けないという人もいるんです。
今後、家族にもその周りにも認知症の方々が増えてきて、会社に連れて行って、面倒を見ながらじゃないと働けない、となるかもしれないんです。
――時代の流れは追い風かもしれませんね。そういった問題がむしろ日本の可能性という気もします。
平井さん、ありがとうございました。
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認知症の方と一緒に、会社に出勤する未来。これからの日本に必要な社会のあり方の一つかもしれません。平井さんだけでなく、介護者として生活されている方、認知症の方に限らず、一人ひとりの日常があたたかくなっていけるような社会になればと思いました。
「まぁいいかcafe(注文をまちがえるリストランテ)」に訪れて、少し心に余裕を持てるような時間、「まぁいいか」と思う心を養ってみるのもいいかもしれません。
「まぁいいかcafe」情報
facebook:https://www.facebook.com/maiikakyoto/
①スーパーマーケットに隠れていたアイディア。認知症と共に
②『まぁいいか』と思える社会を目指して
③企画するってどういうこと?色んな人からのアドバイスで成り立つ(当記事)