お寺は「びっくり箱」?その価値と課題とは|宿坊研究会 堀内克彦さんにインタビュー③
第1回、第2回にわたり宿坊について非常に詳細な解説をしていただいた、ほーりーさんこと宿坊研究会の堀内さん。シリーズ最終回となる第3回では、宿坊のみならず、僧侶や寺院の課題、そして価値についてお尋ねしました。
宿坊での法話の様子(写真提供:堀内さん)
多様性が生み出す面白さ
ーーお寺の魅力や価値ってどういう風に思われていますか?
堀内:私は、お寺のことを「びっくり箱みたい」とよく言っています。お寺に入ってみると自分の知らないものがどんどん出てくる、はじめて宿坊に泊まった時も新鮮な体験ばかりでした。
ホテルはグレードの差こそあれ、形がある程度共通しているじゃないですか。それが宿坊だと部屋の形は異なるし、根付いた歴史や文化も様々です。私はそこから仏像や座禅、写経の経験を通じて、仏教自体に興味を持ち始めたのです。
入り口でも面白いのがあるし、その中でもいくら掘っても掘りきれないものがあるのがお寺や仏教の魅力ですね。
ーーお寺だからこそ持っている社会的な価値は何だと思いますか?
堀内:やっぱり、なんだかんだ言っても仏教そのものではないでしょうか。人がより良い生き方をするための智慧を伝えられるのは、社会の中で特殊なポジションです。
また、日本各地に7万7千か寺点在していると言われますが、他の施設でそんな風に点在するのはほとんどない。郵便局がそれに近い感じでしょうが、お寺の張り巡らされたネットワークは、他にはなかなか無いものです。先日の台風では地元の千葉県が大きな被害に見舞われましたが、全国のお寺から災害復興のために駆けつけてくれました。災害時の連携もお寺同士のネットワークがあるからこそ出来ることです。
樹木葬庭園墓地でのお勤めの様子(写真提供:堀内さん)
今後の仏教とお寺のあり方とは
ーー宗教と世間の違いとは何だと思いますか?
堀内:かつては企業はものづくり、こころの部分は宗教という棲み分けがありましたが、最近はその境界線がなくなり始めています。宿坊にも言えますが、お寺が企業のような運営を行なっている場所もありますよね。
また、最近では行政がやっていたことをサービスとして企業がやる事例もありますが、かつては宗教はこれ、行政はこれという分担があったのが、今は混ざっているというのが現代社会です。
だからこそ、宗教だからできることを新しく作っていかないといけないと思っています。今までのやり方だけでは、これがあるから宗教なんだと言っていたものは、企業に取って代わられます。
具体例を挙げるとすれば、樹木葬やお墓を企業が作ったり、公共の墓地もたくさんできています。その中でお寺のお墓はどういう位置付けなのかを考える必要があるのでしょう。
堀内さんによる西本願寺伝道院での講演の様子(写真提供:堀内さん)
ーーお坊さんとしてもっと磨いて欲しいところは何でしょうか?
堀内:今までのお寺社会にいなかった人の気持ちを汲んで欲しいと思っています。たとえば、マラソンってオリンピック出場を目指すトップアスリート、42.195キロを3時間以内での走破を目指す競技ランナー、趣味や健康で走る人と、たくさんいらっしゃいますよね。
この例えを浄土真宗に当てはめてみると、お坊さん、妙好人(篤信の念仏者のこと)といった、み教えを深く信仰しておられる方はトップアスリートの位置づけです。しかし大多数の健康目的で走る人に例えられる、お寺で言えば手を合わせてみるとか、ちょっとお参りするといった人は、道を極めるように引っ張り上げようとすると敬遠されてしまいます。
彼らが仏教をちょっと楽しむ、ちょっと触れるニーズに対応して欲しいというのが、私が思っているところです。
そしてこうした受け皿ができればそのうちの何人かが、新たに自分でトップアスリートを目指すようになっていきます。
私はこうしたお寺の外の人間の立場に立つために、僧侶研修会で講師をするときなどは、お坊さんにキリスト教の教会に行くこともお勧めしています。慣れない場所に足を運べば、作法が分からず怒られるかもという緊張や、勧誘されるのではという警戒心も体験できるでしょう。それは新しくお寺に人を呼ぶときにも、役に立ちます。
ーー堀内さんの今後の展望を教えてください!
堀内:お寺が大切にしていることと、世間一般の人が求めていることは違うのです。世間一般は日常では味わえない体験やお坊さんと話すということを求めていますが、お寺は仏教を伝えたい、お寺を残したいと思っていますよね。
私はこれを両立できる企画を考えていきたいです。なので、最近の企画づくりで重要視しているのはお寺にメリットがありつつ、私(世間一般の人)がやりたいことにも結びつくようにすること。両者の接点となる企画を作っていきたい。宿坊だったり、樹木葬だったり、仏前結婚式とかもそうですね。
あとは、「お寺の働き方改革」にも興味があります。お寺の事務作業を簡略化することですね。私は昔システムエンジニアをしていたので、その経験を活かしてプログラムを開発し、従来は手作業で時間がかかっていた事務作業をボタン一つでできるようにならないかと考えています。
ーーありがとうございました
堀内さんのインタビューの中で、「世間では体験できない」という言葉が強く心に残ります。宿坊がいま注目を浴びているのも、世間の人々がお寺や仏教を知らないからではないでしょうか。「仏教離れ」や「お寺離れ」という言葉をよく聞きますが、世間の人々がお寺や仏教から離れた結果、却って新鮮なものとして映るようです。一方で、我々僧侶は世間の仏教離れの危機感から、寺院の存続や仏教の伝道に力を注いできました。その結果、世間一般の人々が求めているものと、僧侶が目指したい方向にズレが生じているのかもしれません。
長い間、宿坊や寺院を研究されてきたこともあり、堀内さんの指摘は大変鋭いものでした。宿坊に限らず、今後は寺院が目指す方向に添いつつ、世間一般のニーズを満たす企画やデザインが求められているのではないでしょうか。
Profile
宿坊での法話の様子(写真提供:堀内さん)
多様性が生み出す面白さ
ーーお寺の魅力や価値ってどういう風に思われていますか?
堀内:私は、お寺のことを「びっくり箱みたい」とよく言っています。お寺に入ってみると自分の知らないものがどんどん出てくる、はじめて宿坊に泊まった時も新鮮な体験ばかりでした。
ホテルはグレードの差こそあれ、形がある程度共通しているじゃないですか。それが宿坊だと部屋の形は異なるし、根付いた歴史や文化も様々です。私はそこから仏像や座禅、写経の経験を通じて、仏教自体に興味を持ち始めたのです。
入り口でも面白いのがあるし、その中でもいくら掘っても掘りきれないものがあるのがお寺や仏教の魅力ですね。
ーーお寺だからこそ持っている社会的な価値は何だと思いますか?
堀内:やっぱり、なんだかんだ言っても仏教そのものではないでしょうか。人がより良い生き方をするための智慧を伝えられるのは、社会の中で特殊なポジションです。
また、日本各地に7万7千か寺点在していると言われますが、他の施設でそんな風に点在するのはほとんどない。郵便局がそれに近い感じでしょうが、お寺の張り巡らされたネットワークは、他にはなかなか無いものです。先日の台風では地元の千葉県が大きな被害に見舞われましたが、全国のお寺から災害復興のために駆けつけてくれました。災害時の連携もお寺同士のネットワークがあるからこそ出来ることです。
樹木葬庭園墓地でのお勤めの様子(写真提供:堀内さん)
今後の仏教とお寺のあり方とは
ーー宗教と世間の違いとは何だと思いますか?
堀内:かつては企業はものづくり、こころの部分は宗教という棲み分けがありましたが、最近はその境界線がなくなり始めています。宿坊にも言えますが、お寺が企業のような運営を行なっている場所もありますよね。
また、最近では行政がやっていたことをサービスとして企業がやる事例もありますが、かつては宗教はこれ、行政はこれという分担があったのが、今は混ざっているというのが現代社会です。
だからこそ、宗教だからできることを新しく作っていかないといけないと思っています。今までのやり方だけでは、これがあるから宗教なんだと言っていたものは、企業に取って代わられます。
具体例を挙げるとすれば、樹木葬やお墓を企業が作ったり、公共の墓地もたくさんできています。その中でお寺のお墓はどういう位置付けなのかを考える必要があるのでしょう。
堀内さんによる西本願寺伝道院での講演の様子(写真提供:堀内さん)
ーーお坊さんとしてもっと磨いて欲しいところは何でしょうか?
堀内:今までのお寺社会にいなかった人の気持ちを汲んで欲しいと思っています。たとえば、マラソンってオリンピック出場を目指すトップアスリート、42.195キロを3時間以内での走破を目指す競技ランナー、趣味や健康で走る人と、たくさんいらっしゃいますよね。
この例えを浄土真宗に当てはめてみると、お坊さん、妙好人(篤信の念仏者のこと)といった、み教えを深く信仰しておられる方はトップアスリートの位置づけです。しかし大多数の健康目的で走る人に例えられる、お寺で言えば手を合わせてみるとか、ちょっとお参りするといった人は、道を極めるように引っ張り上げようとすると敬遠されてしまいます。
彼らが仏教をちょっと楽しむ、ちょっと触れるニーズに対応して欲しいというのが、私が思っているところです。
そしてこうした受け皿ができればそのうちの何人かが、新たに自分でトップアスリートを目指すようになっていきます。
私はこうしたお寺の外の人間の立場に立つために、僧侶研修会で講師をするときなどは、お坊さんにキリスト教の教会に行くこともお勧めしています。慣れない場所に足を運べば、作法が分からず怒られるかもという緊張や、勧誘されるのではという警戒心も体験できるでしょう。それは新しくお寺に人を呼ぶときにも、役に立ちます。
ーー堀内さんの今後の展望を教えてください!
堀内:お寺が大切にしていることと、世間一般の人が求めていることは違うのです。世間一般は日常では味わえない体験やお坊さんと話すということを求めていますが、お寺は仏教を伝えたい、お寺を残したいと思っていますよね。
私はこれを両立できる企画を考えていきたいです。なので、最近の企画づくりで重要視しているのはお寺にメリットがありつつ、私(世間一般の人)がやりたいことにも結びつくようにすること。両者の接点となる企画を作っていきたい。宿坊だったり、樹木葬だったり、仏前結婚式とかもそうですね。
あとは、「お寺の働き方改革」にも興味があります。お寺の事務作業を簡略化することですね。私は昔システムエンジニアをしていたので、その経験を活かしてプログラムを開発し、従来は手作業で時間がかかっていた事務作業をボタン一つでできるようにならないかと考えています。
ーーありがとうございました
堀内さんのインタビューの中で、「世間では体験できない」という言葉が強く心に残ります。宿坊がいま注目を浴びているのも、世間の人々がお寺や仏教を知らないからではないでしょうか。「仏教離れ」や「お寺離れ」という言葉をよく聞きますが、世間の人々がお寺や仏教から離れた結果、却って新鮮なものとして映るようです。一方で、我々僧侶は世間の仏教離れの危機感から、寺院の存続や仏教の伝道に力を注いできました。その結果、世間一般の人々が求めているものと、僧侶が目指したい方向にズレが生じているのかもしれません。
長い間、宿坊や寺院を研究されてきたこともあり、堀内さんの指摘は大変鋭いものでした。宿坊に限らず、今後は寺院が目指す方向に添いつつ、世間一般のニーズを満たす企画やデザインが求められているのではないでしょうか。
Profile
宿坊研究会 堀内克彦(ほーりー)
「人生を変える寺社巡り」がテーマの寺社旅研究家。株式会社寺社旅・代表取締役社長。
宿坊研究会(https://shukuken.com/)を運営し、参加者1000人を越える寺社旅サークルの主宰や複数企業の顧問、仏前結婚式盛り上げ企画、お寺の漫画図書館、寺社好き男女の縁結び企画「寺社コン」などをプロデュース。
宿坊研究会はAll Aboutの「スーパーおすすめサイト大賞」で審査員特別賞を受賞。日蓮宗のお寺活用アイディアコンペでは、様々な寺社を活性化させた実績を買われて審査員を務める。また西本願寺・東本願寺・増上寺・池上本門寺などの各宗派本山、北海道から九州までのお寺や様々な企業、団体などでも講演を実施。寺院コンサルタントとしても活動中。
著書に『宿坊に泊まる(小学館)』『お寺に泊まろう(ブックマン社)』『こころ美しく京のお寺で修行体験(淡交社)』『恋に効く! えんむすびお守りと名所(山と溪谷社)』など。
「人生を変える寺社巡り」がテーマの寺社旅研究家。株式会社寺社旅・代表取締役社長。
宿坊研究会(https://shukuken.com/)を運営し、参加者1000人を越える寺社旅サークルの主宰や複数企業の顧問、仏前結婚式盛り上げ企画、お寺の漫画図書館、寺社好き男女の縁結び企画「寺社コン」などをプロデュース。
宿坊研究会はAll Aboutの「スーパーおすすめサイト大賞」で審査員特別賞を受賞。日蓮宗のお寺活用アイディアコンペでは、様々な寺社を活性化させた実績を買われて審査員を務める。また西本願寺・東本願寺・増上寺・池上本門寺などの各宗派本山、北海道から九州までのお寺や様々な企業、団体などでも講演を実施。寺院コンサルタントとしても活動中。
著書に『宿坊に泊まる(小学館)』『お寺に泊まろう(ブックマン社)』『こころ美しく京のお寺で修行体験(淡交社)』『恋に効く! えんむすびお守りと名所(山と溪谷社)』など。
Author
他力本願ネット
人生100年時代の仏教ウェブメディア
「他力本願ネット」は浄土真宗本願寺派(西本願寺)が運営するウェブメティアです。 私たちの生活の悩みや関心と仏教の知恵の接点となり、豊かな生き方のヒントが見つかる場所を目指しています。
掲載日: 2020.02.01