多世代交流食堂を運営した結果、地域に安心が生まれた


高齢者福祉施設西院の、河本さんと田端さんの取り組みについてのインタビュー。第2回は、高齢者にとどまらず、若者も子どもたちも集う多世代交流食堂についてお伺いします。(インタビュー第1回記事はこちらをご覧ください)
 
どのように「みんなの居場所」はかたちづくられてきたのか? その理由についてもお尋ねしてみました。
 
「多世代交流」というかたちを選んだわけ
 
ーー前回から引き続き、「おいでやす食堂」についてお聞きします。最初は、子ども食堂をつくりませんか?との打診だったとお聞きしましたが、実際には多世代交流食堂という形態を取ったのはなぜですか?
 
河本:子どもだけの食堂にはしたくない、という気持ちは最初からありました。私たちは子どもの専門家ではないですし、課題を抱えている子どもたちの対応もにわか仕込みでできることではありません。そうではなくて、私たちのテーマとして大前提にある「居場所づくり」を軸にすることにしました。居場所というか、集い場をつくれたらなって。
 
ーーそれで、みんなの居場所、みんなの集い場ということで、多世代が交流できるような食堂をつくろうと思われたんですね。
 
河本:そうですね。でも、本当に「交流の場」として機能させていくのは、たくさん課題がありました。でも実際運営を始めてみると、いろんな人と交わるというよりは、この場所を待ち合わせ場所にして顔なじみの人とおしゃべりをして、わいわい楽しむというニーズが大きいことに気づいていきました。
 

最初は、みんなに交わってもらおうといろんな試みをしたのですが、なかなか難しかったんです。そこで途中から「無理に交わらんでいい」という結論に達しました。それぞれみんな楽しんではるのに、わざわざ白々しく交流なんてしてるのはおかしいよね、と。
 
それでもね、全く言葉を交わさないということもないんですよ。ここは狭いので、軽くぶつかったりとか、お互い譲り合って移動するなかで「あー、ごめんねぇ」とかね。高齢者の方や子どもたちがご飯をよそいにくそうにしていたら、若い人が手助けをしたり。
 
ーー自然に生まれる範囲の「交流」で良いじゃないか、ということですね。多世代が交わる場所だからこそ、生まれる変化はありますか?
 
河本:なんでしょうね……やっぱり地域のなかで知り合いがすごく増えるっていうのはありますね。たとえば読み聞かせサークルの方はPTAなんですけど、入学式や卒業式で学校に顔を出すと、子どもたちが覚えていて「おばちゃん」って声をかけてくれるって喜んでおられました。
 
地域のなかで知っている大人が増えるっていうのは、子どもたちにとっても良いことなんじゃないかなと思います。安心して声をかけてくれる大人がいるっていうのは。大人の方も、だいたいですけど「ああ、この子はあそこの家の子やな」とかわかるじゃないですか。町全体に安心のネットワークができますよね。
 
ーーこのあたりの地域は、とてもマンションも増えていて、子どもたちも増えていると聞きました。もともと京都市内のなかでも、賑わいのある地域なので、知っている大人が増えるというのは、本当に安心安全の一助になりますね。
 
田端:そうなんです。逆に、自分も悪いこともできないですしね。信号無視とかもね。子どもたちに見られていたらどうしようとか(笑)。
 
河本:田端さんは、けっこうお母さん方にも顔を覚えてもらっているみたいで、先日も三条会商店街のお祭りに行ったら、いろんな人に声をかけられていました。
 
田端:誰やったっけ……あ、食堂にきてくださるお母さんや!みたいな。
 

ーーかつての村社会では、そうやって治安が守られてきた面もあるのかもしれないですね。窮屈な思いもするけれど。
 
治安の面でも良いし、助け合いもしやすくなりますね。なにか災害があったときに「そういえば、あそこのおばあちゃん足が悪いんやったわ」とか気づくことができたりしますよね。
 
河本:それに、子どもたちにも、自然と困っている人を助けるという行動が身についてきているのを感じます。おいでやす食堂ではベビーカステラを焼いているんですけど、それをいつのまにか子どもたちが手伝う流れができてきたんです。エプロンを持参して。お年寄りの方が来られて、手が不自由だったりすると自然に手を添えて渡すことができています。
 
ーー子どもは、環境によってどんどん成長できるんですね。トラブルなどはないんですか?
 
河本:子ども関係のトラブルはないですね。むしろ大人の方があったりして……。笑
 
ーーそうなんですか!
 
田端:子ども関係のトラブルは今のところないですが、安全に対するご指摘はいただきます。怪我をしたらどうするんだ!とか、階段から落ちたらどうするんだ!みたいなこと。
 
河本:階段に柵をしているわけではないので、ばーって走り回ると確かに危なっかしい。あとは回転椅子に乗って遊んでいる子がいるのも危険じゃないかとの意見が出ました。そういった意見は、その都度検討して、対応させてもらっています。ボランティアさんにもよく見ておいてもらうようにお願いしています。親御さんたちも、おしゃべりに夢中になって子どもから目を離されることもありますし。
 
ーーそこはみんなで気をつけていくしかないですね。食堂に来られる方は、もともとこの地域に住まれている方が多いですか?それとも新しく移り住んで来られた方ですか?
 
河本:ちょっとそこまで把握しきれていないですね。子どもたちや、子ども連れの親御さんは、西院だけではなく、隣の学区からもたくさん来られるので、ちょっと地元の方かどうか判断が難しいところがあります。でも、マンション住まいの方が多いようなので、地元ではないのかもしれないです。
 
高齢者の方はわりとずっとこの地域におられる方が多いようです。
 

ーーなるほど。昔から住んでおられる方と、新しく移り住んできた方とが、けっこうくっきりわかれてしまうことが多いイメージがありまして。町内会に入らないとか、自治会費を払わないとかね。ここでは、メンバーが固定化して新しい人が入りづらいといった問題はないんですか?
 
河本:ないですね。うちはときどき、ひとり親サポートセンターの方にもボランティアで入ってもらうことがあるんですが、その方々が関わっているようなひとり親家庭の方々もここには来られているようなんです。サポートセンターで行われている催しよりも、こちらの方が来やすいのかもしれません。ここだと、誰がひとり親かどうかなんてわからないから。
 
ーー多様な人がいるのが当たり前の場所ですもんね。
 
河本:はい。気楽に参加してもらえるんでしょうね。気軽にいろんな人が来やすいのはうちの特徴かもしれません。
 
ーーボランティアの方はどうやって集めたんですか?
 
田端:施設として、年に1回だけ参加の人も含めると、だいたい100人くらいの方にボランティア登録をいただいているんです。少しずつ積み重ねた結果ではあるんですけど、食堂の最初の頃は「この人に言ったらやってくださるんじゃないかな?」って人にピンポイントに声をかけたりしました。食堂を始めてからは「ボランティアやりたいです」と問い合わせてくださる方も増えて「じゃあお願いします」という感じで。
 
ーーボランティアに来てくださるのはおいくつくらいの方が多いんですか?
 
田端:やっぱりシニア層の方が多いですかね。70歳前後くらいの。
 
河本:学生さんも来てくださるんですが、変動が大きいですね。試験前になったらほぼゼロになったり(笑)。
 

地域のなかのセーフティーネットとしての機能
 
ーーこの食堂自体は、地域のなかでどういう受け皿になっているのでしょう?困りごとを抱えた方の居場所になっているとか。
 
河本:しんどいなって感じている方々の受け皿になっている感じがします。
 
ーーなるほど。
 
河本:おいでやす食堂の弱点としては、わーっとたくさんの人を受け入れるから、一人ひとりに対する細やかな気づきっていうのはちょっと難しいんです。交流の場であったり、顔見知りをつくろうっていう場所になっています。
 
一方、コミュニティカフェはもっと規模が小さいので、目が行き届きます。具体的な支援とまではいかないけど、見守りであったり、役割づくりの機能はあります。ボランティアさんのなかにも、シャキシャキの元気な方もおられれば、精神的なご病気であったり、もう要介護認定を受けておられる方もいらっしゃいます。
 
お客さんとして来られる方のなかには、認知症の症状が見られる方もおられます。ちょくちょくカフェに来ていただいていると、見守りつづけることができますし、変化があれば関係機関の支援に繋いでいくこともできます。
 
ーー実際に繋いでいかれたことはあるんですか?
 
河本:あります。カフェに来られている男性の方で、なんかこう……だんだんと物忘れがひどくなったり、自転車を置いて帰られたり、所持品を「ない!ない!」って探されたり、お金を払った払ってないのトラブルがあったりという状態になっていかれて。それで、地域包括支援センターに繋いで、奥さまにも連絡をして受診してもらう、ということはありました。
 

ーー奥さまやご家族は気づかないものなんですか?
 
河本:息子さんもいらっしゃいますけどね、意外とご家族は気づきにくいんですよ。「こんなもんやろ」とか「年のせいかな」「疲れてるんかな」くらいで片付けてしまう。
 
田端:カフェだと、お金を払う場面があったりして、初期症状が発見しやすいのかも。
 
ーーカフェのスタッフの方が意外と気づくことができるんですね。
 
河本:こういう福祉施設に併設されているカフェとかの役割って、見守りとか気づき、連携っていうことはあると思います。早期発見、セーフティーネット的な役割。
 
その男性は、いますぐに介護保険申請して、サービスを使う……ということになはりませんでしたよ。ご本人も今のままの生活を継続したいっていうのがご希望だったので、それならこれまで通りカフェに通ってきてもらって、こちらができる対応をしていけば良いなって。
 
状況をご家族もこちらも把握できるのはいいですよね。
お金を払うのを忘れたら「ああ、認知症で忘れてしまっているんだな」とわかるし、それを職員だけではなくボランティアさんにも共有しておけば、きちんと対応ができます。他のお客さんとの会話が噛み合わなくなっても、さりげなくフォローしたり。普通に楽しんで帰ってもらえるようにしています。
 
いまは、ボランティアの方のアイディアで、その方と小さな畑を一緒につくっているんです。うちにある小さい菜園を使って、職員と一緒に植物を植えて、世話をしています。
 
ーーご家族も頼る場所が少しでも増えると、安心できますね。
 
河本:もちろん全部の状況に対応できるわけではないですが、私たちの手に負えなくなったときに、どこの機関へ繋げば良いかはいつも意識しています。普段から、いろんな集まりに顔を出して、つながりを作ったりもしているんです。
 
多世代が自然と「居る」ことができる場所をつくる西院の取り組み。地域のなかで大切な役割を担い、高齢者だけのための施設という意味での高齢者福祉施設の枠を飛び越えているように感じました。次回は、認知症についての幅広い取り組みをご紹介いただきます。あなたは、本当に「認知症」を知っていますか?
 
   

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掲載日: 2020.05.20

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