「支援」をもっと大きく捉える!福祉の理想は「ごちゃまぜ」?
高齢者福祉施設西院の河本さんと田端さんにお話を伺っています。全国でも異例の取り組みをどんどん展開する河本さんたちですが、認知症についてより多くの方に知ってもらうため、施設を飛び出した活動にも参加しています。
最終回となる今回は、活動の内容や、活動を通して心に刻まれたこと、また、今後の展望についてもお話いただきます。(インタビュー第1回はこちらをご覧ください)
認知症啓発のため走る!「RUN伴」という取り組み
ーーRUN伴(ラントモ)という活動に参加されているとお聞きしましたが、どのよう活動なのですか?
河本:はい。RUN伴とは、認知症の啓発や認知症の人と伴に走る体験を通して、日常の意識に繋げることが目的の活動で、全国で展開しています。私は京都市の実行委員長をやらせてもらっているんです。イベントの当日は、参加者がオレンジのTシャツを着て、市内中を1日かけてタスキリレーしていきます。
タスキをつないでいくんですが、取り組みに賛同してくださるところに中継地として協力してもらっていて、明覺寺さんも引き受けてくださいました。
ーーもともとはどういった経緯で始まった活動なんですか?
河本:NPO法人認知症フレンドシップクラブさんの取り組みなんです。NPO法人の代表の方が、あるとき認知症の方に出会ったそうです。その方の「走りたい」という言葉をきっかけに、認知症の人と一緒に走ることを目的に始まった活動です。今は全国で展開を見せています。
認知症のことを正しく理解してほしいということ。そして、一緒に参加して、同じ体験をすることで、認知症を特別視するのではなく、理解してもらおうという発想です。
ーー認知症の方や関係者の方以外も参加できるんですか?
河本:はい。事前に申し込みをすれば好きな場所、好きな距離で参加できます。本当に短い人だと500メートルとか。長い人なら10キロ。車椅子を押して参加することもできますし。参加資格はないんです。
私も数年前にたまたま声をかけていただいたんです。個人的にマラソンをずっとしていたので。
ーーマラソンされているんですか!
河本:はい、そうなんです。フルマラソンの大会に出場することもあります。RUN伴は、誘われた時に「面白そうやし、走ってみるわ」って軽い気持ちで参加しました。うちの事業所の利用者さんも一緒に参加してもらって走りました。その後、実行委員になって京都市内のほかの事業所さんなどにもお声かけして、少しずつ大会の参加者も増えてきています。いまは市内で400人以上の方が走られますね。府内全域だと1,100人以上ですかね。
ーー大きな大会なんですね!どのようなルートを走られるのですか?
河本:昨年の京都市内のルートは、京都府庁をスタートして、最後のゴールがろっくんプラザという新京極にある公園なんです。なので、新京極商店街の会長さんにもご協力いただいて、ゴール地点でいろんなイベントも開催しています。
ーー街中を走るんですね。
河本:啓発活動なので、できるだけ多くの方の目に触れるように街中を走るコースになっています。
ーー河本さんご自身が、この活動を通して変化されたことはありますか?
河本:最初はただただ「走るの好きやし」くらいでした。でも、参加回数を重ねるごとに、意識が変わっていったんです。いまのsitteの活動に繋がるような変化はRUN伴がくれたんです。
やっぱり認知症の方を「助けないといけない」という思いがあったんですよね。「ケアする」とか「支援する」とか。でも、RUN伴に参加する方々や、RUN伴を通して知り合った全国のいろんな取り組みをしている人たちとの出会いを通して、認知症だから特別なのではないし、いつもいつも「助けるべき人」ってわけじゃないということを教わりました。
当事者の方と話すなかでも「私たちは支援される人じゃない」とか「私たちはまだまだできることがあるし、やりたいこともある。それをやりたいだけなんや。普通の生活を送りたいだけ」という言葉を聞きました。
そうした会話や経験を通して、「ああ、たまたま隣の人が認知症やったってだけのことなんや」って思うようになったんです。「認知症だからって、この人自体はなにも変わらないんだ」って。この考えは、今いろんな活動をするなかでも絶対に忘れないようにしています。
今後の展望は「ごちゃまぜ」!?誰かの居場所を無くさないように
ーー河本さんご自身、今後の展望はありますか?
河本:認知症の方の啓発についてすごく語ったあとで恐縮なのですが……私はもう「ごちゃまぜ」でやっていきたい、と強く思っています。認知症の人も、そうでない人も。
認知症だからどうのこうのではない、とRUN伴で学んだように、障害者だからどうのこうのではないし、子どもだからどうのこうのでもない。みんなが集まって、助け合って、みんながハッピーになればよいなと思っているんです。全然具体的じゃないな……(笑)
ーーでも、実際にその目的に向けて、多世代交流食堂も運営を続けておられるわけですし。
河本:私、本当にいろんなところに首突っ込むんですよ。今は林業振興にもたずさわろうとしていたり。
ーーえええ!林業ですか?
河本:京北の林業の方と関わりがあって、今はどの業界もそうですが、担い手がいないことで困っておられるんです。木材は良質なものがあるのに、その使い道もいまは少なくなっています。木造の家って少ないですしね。そことコラボして、うまくお互いを盛り立てていけないかなと思っているんですよ。
農業と福祉の連携で「農福連携」ってありますけど、林業と福祉の連携で「林福連携」があっても良いんじゃないかと!
ーーそれはまた興味深い取り組みですね。
河本:もう福祉だけで考えていると、どうしても小さくまとまってしまうところがあって。もちろん大事なことなんですよ。支援というのはどうしても必要です。でも、今の「支援」の幅は少し狭いのではないかと思うんです。もうちょっと幅を大きくとって、いろんな支援のかたちが用意できたら良いなと考えています。
それこそいろんな業種、いろんな世代の人、地域を巻き込みながら。医療と福祉の連携……っていうのではなく、「まちづくり」という視点から福祉を捉えていく方が良いんじゃないでしょうか。大きな幅で、たくさんの人を巻き込める取り組みを考えていきたいです。
ーーたしかに、支援とか福祉というもののイメージを一旦洗い流して、概念をゼロから考え直さないといけない時がきているように感じます。現在のやり方では限界がきているような。
河本:そうですよね。
ーーまさに「ごちゃまぜ」ですね。ほかに意識されていることはありますか?
河本:もっと周りに影響を与えられるような取り組みになれば良いなと思っています。多世代交流食堂もね。小さい食堂ですけど、私たちの活動に影響をうけて、同じような食堂を作られたところもあります。ここをモデルにして、活動を発信していけばもっとたくさんの人に多様な選択肢を持ってもらえますよね。
ノウハウもお伝えし、一緒にどんどんやっていきましょう、という輪が広がれば良いなと思っています。
ーー新しいことに次々と挑戦されていると、風当たりというか、ご苦労も多いんじゃないですか?
河本:うーん。私ね、忘れちゃうんです(笑)。もちろんめっちゃ怒られることもありますし、法人にも行政にも。周囲からの反対も多いですよ。「なにやってんねん!」って。そのときはしっかり落ち込むんですけど、すぐ忘れちゃうんです。
「あ、これ楽しそう」と思うと、もうそっちに意識がいってしまって、落ち込んでいたことも忘れてしまう。すいません、あまり参考にならないですよね。
ーーそれはすごい⋯⋯うらやましい気もします(笑)
原動力は何でしょう? 夢中になって活動に取り組む原動力。たとえば使命感とか……?
田端:使命感もあると思うんですけど、河本さんは本当にすぐ忘れはるんです(笑)。しんどかったの忘れて「あれ楽しかったやん。もう一回やろ!」みたいな。こっちはしんどかったの覚えてるのに(笑)。
ーー本当にお忘れになるんですね(笑)。でも、その勢いについていく田端さんたちもすごいです。
田端:河本さんが引っ張ってくれはるから、私たちは遅れないようについていくだけです(笑)。
もしこの活動が個人であったり、小さな組織だったらどうしても負担が大きくてしんどくなっていたかもしれないです。私たちのような社会福祉法人は、少なからず継続性や持久力があり、地域に拠点を持っているというのは強みですね。一人誰かが抜けたら共倒れしてしまうような強度では、なかなか続けていくことは難しいかもしれませんね。
ーー継続性は大切なことですね。いくら取り組みが良くても、続けられなかったら意味がない。面白いことって本当にカリスマ性のある人からポーンと生まれたりするけど、実はそれを継続する仕組みの方が重要で。とくにこういう活動では、せっかく居場所を見つけた人を放り出すようなことになってはいけないですしね。
河本:それはすごく意識しています。やりはじめたら続けていく責任がある。なんでもそうですが。
私はすごくやりたがりですが、継続させないといけないというのはいつも思っています。どんな小さな活動でも、そこを頼りにしてくださる方も絶対いらっしゃるので、その方の居場所を無くしてはいけないって使命感はすごく強いです。
高齢者福祉施設西院を拠点として、さまざまな取り組みを行う河本さんと田端さんにお話を伺いました。「ごちゃまぜに」あらゆる世代あらゆる立場の人を巻き込んで、「福祉」や「支援」を再定義するという河本さんたちの志が、社会を動かしていくのかもしれません。また、ぐんぐん進んでいく多彩な活動のなかにあっても、たった一人の誰かの居場所を無くさないという使命感に頼もしさを感じます。
河本さん、田端さん、ありがとうございました。