お寺の「ある」と社会の「ない」を繋ぐ。子どもの貧困問題に取り組む、おてらおやつクラブの活動
「なにも社会問題を解決しようと思っていたわけじゃないんです。いただいたおそなえを、なんとか活かしたい、最初はそれだけのことでした」
特定非営利活動法人おてらおやつクラブ。お寺に供されるおそなえを、子どもの成長を支援する各地の団体を通し、経済的困難のなかにある家庭におすそわけする活動です。お寺の「ある」と、社会の「ない」をつなぐこの活動には、現在全国1,535寺院478団体※が登録しています。
「なぜお寺がそんなことを?」と思う人もいれば、「社会活動は立派だけど、私には難しい」と思う人もいるでしょう。そういう人にこそ、いま聞いてほしい話があります。
※2020年11月時点
おてらおやつクラブって? お寺と子どもの貧困がどうつながる?
ーーおてらおやつクラブの活動内容についてお聞かせください。
おてらおやつクラブ代表、松島靖朗さん(以下:松島):おてらおやつクラブは、一言で言うと、お寺の「ある」と社会の「ない」をつなげる活動です。目標にしているのは、日本国内の子どもの貧困問題を解決すること。
お寺には、檀信徒(門信徒)の方々から仏さまやご先祖さまへの「おそなえ」として、たくさんの食べ物が届けられます。仏さまにおそなえした品々は、「おさがり」として私たちがいただくのですが、このおさがりを地域の子ども食堂や学習支援等を行う支援団体に「おすそわけ」いたします。おすそわけされた食べ物は、団体を通じて経済的に困難を抱える家庭の子どもさんに届けられます。
宗派を超えた全国1,535寺院と、478の支援団体がおてらおやつクラブに登録してくださっています。このネットワークのなかで、できるだけ近くの寺院と団体をマッチングして、今お話したような仕組みで各々活動を進めてもらっています。
大阪で餓死した母と子のニュースが、最初の行動を起こさせた
ーー活動を始められた経緯についてお聞かせください。
松島:活動を始めて5年ほどになります。2017年にはNPO法人として登録しました。
はじまりは自分自身の困りごとです。それはお寺で頂戴するおそなえものが多すぎて食べきれないこと。
みなさんと仏さまの前でお勤めをし、仏法をお伝えするのはありがたいことです。けれど、そのときいただくおそなえものがとてもお寺のなかだけでは食べきれない。ご縁のある皆さまにおすそわけして、できるだけ無駄にならないようにしていましたが、それでも追いつかない。住職になってから、ずっと抱えつづけていた課題でした。
そんなある日、テレビでニュースを見たんです。大阪でお母さんとお子さんが餓死状態で発見されたというニュースでした。大変ショックでした。このニュースをきっかけに、日本国内に貧困問題があること、とくに母子家庭が置かれている状況の厳しさ、「食べるものがない」という状況が日本にもあるのだということを知りました。一方で、自分は食べものを持て余している状況。自分が動けば少しは誰かの助けになるかもしれない、行動してみよう、すぐにそう思いました。
ーー 一番最初の活動ということになりますね。どのようなアクションを起こされたんですか?
松島:その事件以来、特に大阪ではたくさんの支援団体が立ち上がりました。そのなかのひとつの団体が開催していた活動報告会に、ダンボールいっぱいのおそなえものを持って、参加しました。報告会のあと、「お寺のおそなえものを、子どもたちに届けたいんです」と相談したのが最初です。
現在のような団体を作ろうといった思いは全くありませんでした。自分の困っていることと、他の方が困っていることをつなげて少しでも解決できることがあるならやってみようと思っただけです。
ーー最初はご自身の悩みから始まったんですね。
おてらおやつクラブ代表 松島靖朗さん
「全然足りません」活動を自己満足で終わらせないと決めた一言
ーー個人的な取り組みから、現在のような団体としての取り組みへと移行したのは、なぜですか?
松島:相談した支援団体の方の一言がきっかけでした。おそなえを持っていっていた団体の方が、「全然足りません」とおっしゃったんです。
私が持って行ったおやつを届けたご家庭の子どもさんは喜んでくださる。けれど、それはそれとして、全然足りていないです、と。せっかく持ってきていただいても、ほとんどのご家庭には届けられない。本当はもっともっと必要です、という言葉をいただいたんです。
ハッとしました。私は自分の悩みが解決、しかも誰かの問題も同時に解決できていることに満足して、良いことをした気になっていたんですね。でも、大阪の事件で明らかになったような子どもの貧困は、なにひとつ解決していなかったのだと気づかされました。
この「全然足りません」という言葉、今でも心に残っています。単なる個人の活動から、おてらおやつクラブという活動へと歩み出せたのはこの言葉を言ってくださった方がいたからです。
見えにくい、貧困。見せられない、貧困。
ーー日本における子どもの貧困は、とても見えにくいと言われますね。
松島:そうですね。子どもの貧困、とくにシングルマザー家庭の貧困は見えにくいです。ぱっと見ただけでは他の家庭との違いがわからない。
まず、みなさんスマートフォンを持っておられるんですよ。全然食べるものがなくても。スマートフォンがあらゆる手続きのライフラインですし、子どもとの連絡手段としても必要です。洋服も、今はとても安く手に入るし、よくよく見ないと貧困のなかにあるとはわかりません。
さらに親御さんが隠す場合も多いです。残念ながらこの国では、貧困に陥ることを、自己責任だと言う人たちがいます。離婚や、未婚での子育てを始めることを選んだのは自分じゃないか!というのが言い分です。
あくまで傾向ですが、そういう風潮は特に上の年代の男性に多く、また日本の社会ではそういう年代の男性があらゆる決定権を持つ立場にいることが多い。そんな環境ではなかなか助けを求められません。どこにも相談できず、孤立してしまい、食べるものも得られなくなって……という構造が、見えない貧困を生み出してしまった面もあると思います。もちろんいろんな要素がからみあっているのですが。
とはいえ、最近では少しずつ貧困問題についての認知が進んでいるとも思います。
砂漠に1滴の水を垂らすだけの活動。まだまだ多くの協力が必要です
ーーこの5年で、日本の貧困に対する意識も少しは変わったんですね。
松島:それでも、まだまだ不十分です。「おてらおやつクラブさんは、多くの方に認知を得て、もう十分ですよね?」と言われることがありますが、本当は全然足りていないんです。
現在おてらおやつクラブには1,535の寺院が登録してくださっています。一方、日本の子どもの7人に1人、約280万人が貧困であると言われます。そんな状況のなか、1,535という数はあまりに少ない。私たちがやっていることは、砂漠に1滴の水をたらし続けているようなものに過ぎないのかもしれません。
でも、一つひとつの力は小さくとも、多くの人たちが協力し合えば大きな力になります。だから、もっと活動を広げていかないといけないし、今ある課題ももっと広く世の中に知ってもらう必要があります。まだまだこれからですね。今後、より多くのお寺さんに登録していただけたらと思っています。
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第2回 お寺だからこそできる支援とは。迷ったときは仏さまの願いに立ち返る