お寺でお葬式という選択│株式会社きあら<前編>
お葬式は〇〇ホールで。
こんなキャッチコピーをテレビや広告でよく見かけます。
それを見て「私が亡くなったときはあのホールで?」なんてぼんやり考えてみたり。
そんななか、山梨県の 株式会社 きあら さんではお寺でお葬式を行う「寺院葬」をメインに提案されています。浄土真宗のお葬式をご担当された例はまだ少ないそうですが、お葬式の選択肢を広げる学びとしてインタビューさせていただきます。
ホールではなく、お寺の本堂でお葬式を行う「寺院葬」。そこに特化された背景と、お寺と葬儀会社の連携例についてお話をお聞きします。
株式会社きあらの齋藤勇人さん(写真左)と宮澤昌也さん(写真右)
お寺でのお葬式に特化した葬儀会社
――株式会社 きあら 代表取締役の齋藤勇人(さいとう はやと)さん、専務の宮澤昌也(みやざわ まさや)さんにお尋ねしていきます。寺院葬をされるようになった経緯を教えていただけますか?
齋藤勇人さん(以下、齋藤):私がこの葬儀業界に入ったのは30年ほど前です。その当時、山梨県ではまだ自宅でのお葬式が中心でした。ですが、セレモニーホールが出来てからというもの、自宅葬がホール葬になり、価格が高騰するようになりました。それから、ホールの都合でお葬式を考えるようになってしまったんです。
そういった状況に対し、本当にこれでいいのか?という想いが湧きあがってきました。そんなとき、お寺の本堂でお葬式をしたらどうかと考え、仲の良いご住職方に相談させていただいたら、それはとても意義のあることだと賛成してくださいました。その声に励まされて、私たちは寺院葬をさせていただくようになったんです。
宮澤昌也さん(以下、宮澤):私は、社長(齋藤)の7、8年あとに葬儀業界に入りました。私が入社した当時もまだ自宅葬が多く、一番初めの仕事はご当家にガス釜*1を届けることでした。その頃、お葬式や法事で出されるお食事は全部ご近所の女性の方々が支度をされていたんです。お香典返しも、町の衣料品店からタオルを買ったり、司会もご近所の方がされたりしていました。そういったご近所同士の助け合いで、自宅葬は費用がかなり抑えられていたと思います。
ですが、セレモニーホールはそういった近所のよしみの助け合いが一切ないので、けっこうな金額になってしまいます。また、当時のホールは世間体が立つようにと立派なお葬式を提案していましたが、それは費用を高めるためという側面もあったように思います。それに対して私は疑問を感じました。
例えば、担当者としてホールでお葬式のお手伝いをしているとき、施主さんが来られた皆さんに対して「見てくれよ、立派な祭壇だろう」とおっしゃったことがありました。親のお葬式をよいものにするために高額な祭壇を提案されたんだと思いますが、提案のしかたによっては高額な祭壇でなくても心に残るお葬式はできたのではないかと思ったんです。
ちょうどその頃、お寺さんから「本堂でお葬式をする流れを作ってもらえないか」というご意見をいただき、それであれば利益を優先しない、故人やご遺族の気持ちに寄り添うご提案を積極的にさせていただけるのではないかと思い、二人(齋藤と宮澤)で今のかたちを始めました。
――ホール葬なら売り上げが伸びていたところを、利益を優先されず、個人やご遺族を中心とされたお葬式を始められたことは、相当な決断であったかと思います。
齋藤:ただ実際、現在はホール葬が主流です。施主さんにとってもホール葬は便利なので選ばれやすいのですが、その便利さに任せすぎずに、きちんと相談できるようにしたいと考えています。
――ホール葬と比べて寺院葬が選ばれにくいのはなぜでしょうか?
齋藤:お寺を使わせてもらうのに気を遣うという点でしょうか。それは葬儀会社もご遺族も同じで、お寺の本堂でお葬式ができるのは門徒総代や役員を務めた方だけの特権というような思い込みがあります。そういった意味ではホールのほうが依頼しやすいのではないでしょうか。またホールでは決まった形の祭壇や式場の設営、またお葬式の流れが一律化しているのです。したがってお葬式の価格をセットにすることで手間が省け、初めてでも葬儀担当者をしやすいという利点もあるのです。
――便利さをお金で買うという構図になるのでしょうか。他にホール葬と寺院葬の違いはありますか?
齋藤:寺院葬とホール葬の違いは費用面の他に、お寺によって立地条件や本堂の設備等が違います。また式の流れもケースバイケースですので、準備や設営が変わってくることですね。ですから弊社では、より専門的な知識を持った葬祭ディレクターが担当にあたり、お客様のご要望やご住職のご都合などをすり合わせ、一度しかないお葬式に携わらせていただいています。
さらに費用を抑えるために当社のオフィスはプレハブが一つ建っているだけで、備品などもできるだけお寺さんのものを利用させていただいております。
オフィスの様子(写真提供:株式会社きあら)
*1 ガス釜:ガスでごはんを炊く炊飯器。
「お寺でお葬式」のここがいい!
――葬儀会社の立場から見て、寺院にしかできないこととは、どのようなことだと思われますか?
齋藤:実は一般の人たちにとってお寺の本堂は、特別な空間という意識があるため、本堂内に入ることを躊躇してしまうことがあるんです。そんな神聖な場所で儀式をしてもらえるのは、ものすごくありがたいことだと思います。
あと、お寺でしかできないというより、菩提寺のご住職の代わりはいないということです。
宮澤:寺院でもホールでも、僧侶がいないとお葬式はできないですからね。
齋藤:例えば、お葬式だけでなく災害のときなどに避難所がいっぱいで入れなかった人たちが、各地域のお寺へ避難したケースもありました。そこへ救援物資というかたちで被災地以外のお寺から米や物資が送られた。でもお寺が衰退してしまったらそういう場所もなくなってしまう。ましてや我々はご先祖様からいのちがつながっているので、そういった面でもお寺という場所をおろそかにして事を進められないと考えています。
――お寺はお葬式だけではなく、いざというとき人々が集まることのできる場所としても役割があるということですね。
齋藤:私たちが会社を立ち上げた際に背中を押してくださったご住職が10年前に亡くなられました。毎年、ご命日にはお墓参りに行っています。ご住職のおかげで私たちの今があることに感謝し、今後も努力精進すると約束をいたしました。
そうした報告できる場所があるのが、すごくありがたいと思ったんです。
――そういった役割は本当に大切だと思います。境内にお墓があるお寺が担える役割かもしれませんね。また自分自身を振り返る時間を持つ場にもなりそうです。
(写真提供:株式会社きあら)
距離が離れた今だからこそ
――寺院葬を実施するにあたって新型コロナウイルスによる感染症の影響は受けられたのでしょうか?
齋藤:最初に緊急事態宣言が出たときは、やはりお寺さんもひやひやしていたと思います。実際一時期、寺院葬は大きく減りました。ただ、そんななかでも寺院葬をしてほしいという方はいらっしゃいました。
――このような状況下でも、寺院葬がホール葬よりも良いと思われる点はどのようなところでしょうか?
宮澤:まず、お寺と施主さんのご自宅との距離が近いことです。ホールは車を運転できる人がいないと行けない場所にあることが多いですからね。
齋藤:あとは何と言ってもお寺には立派なご本尊があるので厳かですよね。山梨のホールではご本尊を置いていないところもあるのですが、お寺の本堂であればそのようなことは絶対にありません。
――確かに、ご本尊による厳かさの違いは大きなことかもしれませんね。
齋藤:またお寺と直接かかわることで、ご遺族がお寺の名前や場所、宗派を確認していただけます。
宮澤:山梨県の若い人たちは都心に通勤通学することが多いので、自分の家のお墓があるのは知っていてもお寺がどこにあるかわからない、宗派も知らないという方が意外といらっしゃるんです。
齋藤:あと、寺院葬ではご遺族がご住職とコミュニケーションをとる時間も増えます。ホール葬では遠慮してしまい、ご挨拶してお布施を渡すだけになってしまうことも多いですから。
――ご遺族とご住職のコミュニケーションもお葬式には必要ですよね。そう考えると、普段の何気ないご住職との雑談も大事なことと思えます。
そうして親しみのあるお寺でお葬式が行なわれることによって、施主さんやご家族の心に残るものになればいいですし、ご縁が深まることでお葬式のあとも関係が続いていくと寺院側としても嬉しいことです。
<編集後記>
自宅からホールへと、便利な形に移り変わっていったお葬式のあり方。ですが、その過程で失われた大切なものがあったのかもしれません。施主さんやご遺族に寄り添うため、お葬式の新たな選択肢として寺院葬をすすめる株式会社きあらさん。寺院の役割を考え直すきっかけとして、注目が集まりそうです。
後編では、葬儀会社と僧侶との連携のお話や、今後の展望についてお聞きします。
<インタビューの続きを読む>
お寺で作る、オーダーメイドのお葬式│株式会社きあら<後編>
(写真提供:株式会社きあら)