野宿者という生き方 第5回「失敗せな、発展はない」
「平和構築」、「貧困問題」と「環境問題」の解決、「災害支援・復興」の目的完遂、これらに向けて各種事業活動を展開しているNPO法人JIPPOは、「すべての存在と営みは互いに関係しあい支えあっている」という仏教の縁起の教えにのっとり、親鸞聖人の「世のなか安穏なれ」という願いのもと、浄土真宗本願寺派の社会事業活動の一環として、2008年に設立されました。
ここではJIPPOの活動の一つである、野宿者支援をテーマに、京都市における野宿者の現状とJIPPOの支援内容をレポートします。また、JIPPOが支援する野宿者に生い立ちや、野宿をするようになった経緯、さらには幸せや豊かさについて、思うところを全5回に分けて行ってきた今回の企画、いよいよ最終回です。
「野宿者という生き方 第5回 「失敗せな、発展はない」
インタビュアー(以下、イ。):タカハシさん、趣味とかあるんですか?
タカハシさん:酒と賭け事はな、やめられへんわ。酒は、仕事終えてから自分へのご褒美にワンカップを飲むぐらいやな。そんな飲みたいとは思わへん。ただ、賭け事はな。
イ:何をされるんですか?
タカハシさん:競馬や。競馬は昭和46年から、ずっとやってるからな。あれだけはやめられへん。
イ:勝つんですか?
タカハシさん:いや、勝たん。(笑)
イ:ダメじゃないですか。(笑)
タカハシさん:趣味やから、ええんや。いつ死ぬか分からんのやから、しっかり楽しまな損やろう。金の勝ち負けより、馬が好きなんや。見に行ってみい、どんだけ気持ちええか。
イ:確かに、馬がさっそうと駆け抜ける姿は格好いいですね。それに馬のお尻はすごい綺麗。
タカハシさん:違う、違う。まだまだやな。(笑)馬の目を見てみい。
イ:目ですか?どんな目をしてるんですか?
タカハシさん:ものすごい、愛しい目をしてるんや。引きこまれてしまうような目をしてる。馬の目と比べたら、女の子なんて、全く問題にならん。(笑)
イ:女性に勝る、馬の目。その領域には、一生かかっても到達できないような気がします。(笑)
タカハシさん:そりゃ、分からん方がええ。(笑)競馬場行っても、金賭けずに、レースを見るだけのことも多い。競馬の話やったら、一晩でも話したるわ。いや、一晩じゃ足りんな。(笑)今は話す友達もおらんけどな。昔は友達と酒飲みながら、「あの馬のここがええ」、「こっちの馬はこうや」って、一晩中語りあってたわ。
イ:自分の好きなことを語りあうって、楽しいですもんね。
タカハシさん:だけどな、人間てな、ほんまに馬鹿や。ええことしか覚えてないからな。
イ:そうなんですよね。
タカハシさん:それが人間のズルいとこや。ええことはずっと覚えてるけど、まずいことはすぐ忘れる。
イ:過去に学ぶって難しいですね。
タカハシさん:過去に学んだって、しゃあないからな。人間って、前見なしゃあないやん。後ろ振りかえっても、かえってけえへんやん。何でもそうや。起こってしまったことは再現でけへんのやから。やっぱり、前見なあかん。
イ:確かに。競馬負けて反省したり、お酒飲み過ぎてたことを思い出して途中でやめるとか、できたらいいんでしょうけどね…なかなか難しい。
タカハシさん:せやから、面白いねん。それが出来たら、みんな成功者や。
イ:そうですね。
タカハシさん:ただ、失敗はせなあかん。失敗を恐れとったら、発展はあらへんし、発見もない。成功ばかりは続かへんし、失敗ばかりも続かへん。
イ:「失敗は成功のもと」ってやつですね。
タカハシさん:そうや。だけど、今の社会は大失敗や。どうかせなあかん。
イ:と、いうと?
タカハシさん:なんで今は、お腹を痛めて生んだ子をな、なんで簡単に殺すねん。ましてや、その逆もあるわな。子どもが親を殺す。何が、そうさせたんと思う?
イ:うーん、何でしょう…。
タカハシさん:世の中やわな。昔はこんなことなかった。30年、40年前は、今ほど乱れてなかったわ。
イ:何がその原因なんですかね?
タカハシさん:発達のし過ぎやわ。携帯電話とかな。企業が儲け主義で作り続けとるやろう。機械の発展に、人間が追いつけてない。使いこなせてない。
イ:機械に人間が振り回されてる感じですね。
タカハシさん:そうや。便利な世の中になって、機械に踊らされてる。そりゃ、企業は金儲けのために、なんぼでも開発しよる。ところが人間は使いこなせへん。ええ方に使えば、ほんまにええもんや。社会のためにもなる。震災の時にも、ええように使われた。だけど、今はちゃうねん。悪い方に使かわれているやろ。どんどん、まだ進むわな。
イ:終わるときって来るんですかね?
タカハシさん:いや、ないやろうな。エンドレスやな。ずっと続くやろうな。結局は、犯罪が増えるわけや。
イ:でも、人間の欲望を刺激し続けないと経済が回らないってのもあるわけじゃないですか。
タカハシさん:それは確かにな。
イ:企業の成長を止めるようなことを、企業が自らできるんでしょうか。
タカハシさん:でけへんやろうな。だけど、責任は持たなあかんやろう。世の中が乱れないように、企業運営をせなあかん。今の企業の考え方は、金儲けさえ出きたらええわけや。その対処法を考えてない。そこが問題や。どんどん進んでいって、便利な世の中になって。ええ方に使えば、ほんま値打ちあんねん。だけど、それを悪に利用するやつが絶対おるんやから。どんな時代でも絶対でてくるんやから。その責任を企業は取ろうとしない。
イ:確かに、企業が責任を負うことはないですね。
タカハシさん:お金設けが中心となった考え方が、社会をいびつにしとるわな。
イ:個人のああしたい、こうしたいっていう欲望をコントロールすることはできるんですかね…。というのも、企業も一人ひとりの人間の集合体じゃないですか。一人ひとりが金儲け主義に走らないようにしようと思えたら、企業運営も改善されるような気がします。だけど、結局無理なのかな…。
タカハシさん:無理やろうな。国民はもっと勉強せなあかんわ。税金の無駄遣いがどうのこうのと騒ぐだけじゃなくて、もっと勉強せなあかん。
イ:勉強不足、耳が痛いです。タカハシさんは、具体的にどのような勉強が大事だと思いますか?
タカハシさん:そうやな、経済学とかも大事やけど、やっぱり精神的なものも大事ちゃうか。哲学とか、それこそ宗教とかやな。
イ:タカハシさんは宗教にどんなイメージを持たれてますか?
タカハシさん:ワシは神も仏もおらへんと思ってる。ただ、宗教を否定しようとは思わへん。宗教もってる人もおるやろう。すごいなぁーと思うわ。人間が何を信仰しようが、それは自由やから。それをけなしちゃいかんわ。その人が大事にしていることは尊重するべきやな。それも生き方やからな。
イ:宗教って、排他的・閉鎖的な面もありますもんね。自分が大切にしているものが一番だってなっちゃう面もあるような気がします。
タカハシさん:決めつけてどうやこうや言うのは、ダメや。必要じゃないし。やるべきことでもない。仏も神も、本当におるんかは、わしには分からん。おると思ってる人はそれでええんや。おらんと思ってる人も、それはそれでええんや。
イ:そうですね。
タカハシさん:宇宙にいって帰ってきた人は、いっぱいおる。だけど、これだけ長い、人類の歴史の中で、死んだ後の世界に行って、帰ってきた人は一人もいない。だから、死んだ後の世界が良いとこなんか、悪いとこなんか、証言がないから分からん。凡人の私には分かりません。
イ:実感がともなわないと、受け入れるのは難しいですもんね。
タカハシさん:だけど、帰ってきてないことも大事かもな。
イ:どういうことですか?
タカハシさん:誰も帰ってきてないから、こちら側の想像に任される。完璧なものを作れる。でも、帰ってこられると、本当はどうなんだということを言われてしまう。それやったら、完璧なものを作れない。たぶん、宗教は完璧じゃないとあかんのやろうな。完璧じゃなければ、人間同士で成り立つからな。
イ:なるほど、宗教者みたいですね。(笑)
今回、改めてインタビューを振り返ってみると、タカハシさんの思想の深さに何度も驚かされたことでした。タカハシさん独特の視点からの社会の考察、人生の捉え方にははっとさせられたことも多くありました。みなさんはどのように感じられたでしょうか。
ソーシャル見聞録では、今後も様々へのインタビュー記事を通じ、私たちの生き方や在り方を少し考えてゆくような時間を提供できればと思っています。
この記事は、2016年11月14日に公開したものです。