作品でいちばん伝えたかったのはその「したたかさ」|川瀬慈さんインタビュー<後編>

 
後編1エチオピア正教会の修道士の卵たちと_(1)「エチオピア正教会の修道士の卵たちと」
 
前回に引き続きアフリカ音楽の研究者の川瀬慈さんにお話を伺います。川瀬さんの映像作品は国際的に高く評価され、2008年にはイタリア・サルデーニャ国際民族誌映画祭にて「最も革新的な映画賞」を受賞されたほか、2013年には「日本ナイル・エチオピア学会第19回高島賞」も受賞されています。
 
―吟遊詩人について教えて下さい。
 
吟遊詩人の中にアズマリというグループがいます。アズマリは、結婚式や家屋の新築祝いなどの祝祭儀礼に呼ばれてマシンコ(エチオピアバイオリン)と呼ばれる弦楽器を演奏しながら歌います。またエチオピア北部の主要な宗教であるキリスト教エチオピア正教会に関する儀礼の場で歌うこともあれば、エチオピア正教会からは邪教扱いされるザールと呼ばれる憑依儀礼でも演奏します。儀礼の各場面で歌うことによって、儀礼の進行を司ります。アズマリの歌は、精霊と人間のコミュニケーションをつなぐ役割もあるのです。
 
アズマリが用いる音階は、4種類のペンタトニックスケール(5音音階)からなります。一般に日本でアフリカ音楽といえば、太鼓を主体とした音楽様式のイメージが強いかもしれません。しかしエチオピア北部の伝統的な音楽は、弦楽器の演奏を軸に、しっとりと歌い上げるスタイルが主流です。歌詞には複雑かつ婉曲的な隠喩表現があちこちにちりばめられ、押韻(おういん)が重視されます。またアズマリは歌いかける相手の反応に合わせて、歌詞を独自に作り上げ、時に歌詞にクレームを織り交ぜたり、歌いながら、相手と交渉したりします。
 
吟遊詩人は日本語でいう「流しの芸人」「門付の芸人」のような生活をしてきましたが、ここ数年、ホテルなどで観光客相手の演奏を行ったり、ユネスコや現地の大学の研究者などから「文化遺産」として認識されるようにもなっています。そのようななか、パフォーマンスの中身や社会集団としての特質について大きな変化が見受けられます。
 
―映画を通して、何を伝えたいですか?
 
作品によってテーマや伝えたい事は違いますが、音楽集団を対象とした作品について一番みせたかったのは、その「したたかさ」についてです。社会的には蔑視されているかもしれませんが、彼らは決して、ひ弱な存在ではなく、時代の変化に則した活動における創意と工夫があります。世間の冷たいまなざしを逆手にとって、つきすすんでいくような生きる力に満ち溢れています。その力は時としてエチオピア社会の常識からは逸脱しますが、私自身が魅了された集団の力みたいな部分にフォーカスしてきました。
 
後編2岐阜 別院での講演_(1)「岐阜別院での講演」
 
―これまでの経験を、僧侶としてどのように活かして行きたいですか?
 
今は父が住職を勤めていますので、時々その手伝いをしていますが、これから時間をかけて浄土真宗を学んで行こうと思っています。まだまだ勉強不足ですが、真宗とこれまでやってきた学問との繋がりが見えてくるのではないかと思っています。
 
また、いずれは、地域社会に何かの形で貢献できればと思います。最初にお話ししたように、実家は田舎にあり、高齢化や過疎化もすすんでいます。そういう地域だからこそ何かできることがあるのではと思っています。
 

川瀬さんの映画作品
『精霊の馬/When Spirits Ride Their Horses』(2012)
『Room 11, Ethiopia Hotel』(2007年)
 
ウェブサイト
www.itsushikawase.com
 
川瀬さんの本(編著)
『アフリカン・ポップス!文化人類学からみる魅惑の音楽世界』(明石書店、2015年)
『フィールド映像術』(古今書院、2015年)等。
   

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掲載日: 2015.12.02