紙媒体から広がる地域の輪|地域情報誌「あさぶじかん」―北海道覚王寺

(画像提供:内平さん)

 
お寺から発行される紙媒体として、寺報はメジャーな存在。
そんな寺報に加えて、地域情報誌という形で紙媒体を発行されているお寺があります。
この度インタビューさせていただいたのは、北海道札幌市にある浄土真宗本願寺派 覚王寺さんです。
お寺が地域情報誌を発行するとは、どういうことなのでしょうか?住職の内平淳一(うちひら・じゅんいち)さんに、ご活動についてお尋ねしました。
 

北海道覚王寺について

 

覚王寺 外観(画像提供:内平さん)

 
――今日はよろしくお願いします。はじめに、自己紹介をお願いします。
 
内平:崇徳山覚王寺住職の内平淳一と申します。2020年に先代より住職を引き継ぎました。
覚王寺は、北海道札幌市の麻生(あさぶ)という地域にあります。明治25年に初代住職が熊本から来道し、明治38年にお寺として創立しました。開教しておよそ120年、麻生地域と共に歩んでいます。
 
――覚王寺のある、麻生地区はどういったところでしょうか?
 
内平:札幌市の北区にある街で、近くに大学があるので、一人暮らしの学生が多いです。また、札幌市の中心部と石狩といった衛星都市を結ぶ場所であり、地下鉄やバスといった交通網も充実しています。人口は札幌市全体で190万人、そのうち北区には約28万人が住んでおり、札幌市10区の中で最多です。
 

覚王寺住職 内平淳一さん(写真提供:内平さん)

 
――内平さんご自身の自己紹介もお願いします。
 
内平:実は住職は私の父ではなく、叔父でした。なので、私が子どもの時はお寺を継ぐとは思わなかったですね。その意味では、他のお寺のご子息の方とはちょっと違う育ち方をしているかもしれません。中学生の時には私が将来継ぐことが決まっていたようですが、私自身は全くそんなつもりはなく、継ぎたくないとすら思っていた時期もありましたね。
 
その後も気持ちは変わらず、東京の慶応義塾大学に進学して、小説好きが高じて日本文学の勉強をしていました。仏教への興味関心もなかったのですが、三島由紀夫の作品が好きで、『豊饒の海』を読み進んでいたときに、仏教の唯識思想が出てきたんですね。それを読んで、仏教ってめちゃくちゃ面白いんだなと。初めて仏教と出会った体験であり、お寺を継ぐきっかけでもありました。
その後、仏教の勉強を始めて、東洋大学の大学院で唯識を研究し、その後は中央仏教学院での学びを経てお寺に帰ってきた、という経歴です。
 

地域情報誌「あさぶじかん」とは?

 

(画像提供:内平さん)

 
――概要とご活動のきっかけを教えて下さい。
 
内平:「あさぶじかん」とは、覚王寺が発行しているA5冊子のフリーペーパーです。よく、お寺では寺報を発行されていると思いますが、これはあくまでも寺報ではなく、地域情報誌であることがポイントで、老若男女問わず地域とつながることのできる情報誌を目指しています。
2021年の1月に創刊以来、年間に4回発行しており、お寺を始め地域のお店やインフォメーションセンターで配布しています。
 
――どういった内容でしょうか?
 
内平:「あさぶじかん」の主な構成と内容は以下のとおりです。

1ひとナビ:地域で活躍されている方を紹介。若い人でこれから頑張ろうとしている方も紹介。
2ここいこ!:地元のお店を紹介するコーナーです。主に飲食店を紹介しています。
3あるく さがす ぶらり:地域の公園や施設だったり、時には整骨院、毎回テーマを設けてぶらりしてみたというコーナーです。
4つなぐ:麻生の歴史をお伝えするコーナーです。次の世代にも麻生の歴史を伝えるのが目的です。
5住職法話:私が法話を執筆しています。
6コラム:地元の方に書いていただいているコーナーです。
7覚王寺の寺活:覚王寺の活動のことをご紹介しています。

 
地域の方を対象にしているということで、内容も地域の事がメインです。「住職法話」と「覚王寺の寺活」のコーナーで仏教やお寺のことを取り扱っていますが、それらを全面に出すことはしていません。
 
――お一人で制作されているのでしょうか?
 
内平:いえ、私を含めて3人で制作しています。地元に地域の活動で知り合ったライターの方がいて、記事はその方に書いていただいています。もう一人はそのライターさんの知り合いのデザイナーさんで、主にレイアウトやデザインを担当していただいています。
 
――創刊のきっかけを教えてください。
 
内平:一番のきっかけは新型コロナウイルス感染症の流行ですね。それまでは地域に開いてさまざまなイベントを行っていましたが、すべて出来なくなってしまいました。
地域とのつながりを大切にしたかったので、感染症拡大を理由に何もしないのも違うのかなと。模索する中で、以前から覚王寺で発行している寺報が門信徒の方々との大切なコミュニケーションツールになっていたことに気づいたんですね。ならば、寺報の地域版を作ることで地域との繋がりを維持できないかなと思い立ったんです。
 
――インターネットではなく、紙媒体にこだわったのはどうしてでしょうか?
 
内平:次の世代に現在の麻生の姿を残していくことが大切ではないかと思ったからです。インターネットはデータが削除されてしまうと閲覧できなくなりますよね。また、どうしても高齢者は敬遠しがちです。一方、紙媒体であれば形として残るので、次の世代に地域の事を伝えやすいと考えました。
 
――後から読み返して懐かしむのも紙媒体の魅力ですよね。
 
内平:そうですね。以前、郷土史を読んだことがあります。地域の歴史を普段から意識しているわけではありませんが、何か疑問が沸き起こったときに、その本を見れば歴史が分かるって、大事なことだと思います。「あさぶじかん」が郷土史のような存在になってくれれば良いですね。
 

地域情報誌を通して得られるもの

   

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掲載日: 2022.12.19

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