新たな絵本との出会い方?『えんとつ町のプペル』【子育てオススメえほん】
作:西野亮廣
出版社:幻冬舎
『えんとつ町のプペル』とは?
お笑い芸人西野亮廣(にしのあきひろ)氏による絵本、『えんとつ町のプペル』。
スタッフを募集して分業制作、全ページをネットで無料公開するなど、斬新な手法が話題となっている。
西野氏には信念があった。
この絵本を最後まで無料で公開したのは、とても勇気がいることでした。僕だけでなく、この作品に携わっているスタッフは、この絵本の売り上げで生活をしているからです。ただ一方で、「2000円の絵本は、子供が、子供の意思で手を出すことができない」という声も耳にしました。〈中略〉
人間が幸せになる為に作り出した『お金』で、人間に格差ができるのなんて、やっぱり全然面白くない。お小遣いなんて貰えない幼稚園児や小学生が、出費が重なって金欠になった学生や主婦が、何かの事情で本屋さんまで足を運ぶことができなくなってしまった人達が、それでも手に入れられるモノにしたい
成功する保証の無いチャレンジ。しかし、ふたを開けてみれば、『えんとつ町のプペル』は現在、30万部に迫るベストセラーとなっている。他の書籍とは違い、絵本は親が子に何度でも読み聞かせる性質のものである。ネットで立ち読みをして内容が気に入れば、最終的に売り物の絵本を購入してもらえるのだ。
絵本業界では40~50年前の作品が売れ続け、新陳代謝が起こりにくいとされる。世間のお母さんは自由に使えるお金や時間が限られている。本屋さんで気に入った本が見つけるのは大変なので、結局はお母さんが子どものときに読んだ絵本を子どもにまた買ってあげる。そうした繰り返しもひとつのあり方かもしれないが、新たな絵本との出会い方を創造したという点で、『えんとつ町のプペル』の功績は大きいだろう。
「信じぬくんだ。たとえひとりになっても。」
この作品の舞台「えんとつ町」は、黒い煙に覆われて陽の光が指さない閉じられた世界。
主人公の少年ルビッチは、素直な言動がたたって、「空気を読めよ」と周りからいじめられています。まるで同調圧力が蔓延する、息苦しい現代社会そのものです。
ビッチにとっての唯一の希望は、黒い煙の上には輝く星があると信じること。
星の存在を教えてくれたのは、いまは亡きルビッチのお父さんでした。「信じぬくんだ。たとえひとりになっても」。たとえ周りが何と言おうとも、気にしなくていい。常識に屈することなく、信じぬけ。父のこの言葉を思い出すたび、ルビッチは励まされます。
この言葉を見たとき、ブッダのことば「犀の角のようにただ独り歩め」(『スッタニパータ』)を思い出しました。「サイの頭部の一本角のように、独りで自らの歩みを進めなさい」。孤独を恐れてはならないということです。良い人間関係は自分を成長させてくれますが、悪いつながりは自分の心を乱すこともあります。孤独と向き合うことで、自分が本当は何を求めているのかを知ることができます。
子どもも、大人も、何かと生きづらいこの世の中。安易なつながりを求めて、ネットを利用する人も少なくありません。そんな中、この作品は私たちにエールを送ります。
「信じぬくんだ。たとえひとりになっても。」
孤独と向き合う勇気を与えてくれる気がします。