被災地の声「何もないね」
(70代、女性)
震災前に自宅が建っていた地域には、あまり足を運ばない。
ただ、津波被害に遭った自分の家の跡地に残っている庭石は、今でも見ることができるのだそうだ。
きっと、その庭石を見ると、さまざまなことが思い出されるのではないかと訊ねてみると、一言「何もないね」との答えだった。
ただ、生前にご主人と二人で、玄関先に綺麗な石を並べたこと。
何年もかけて梅酒を作ったこと。
梅酒を保存するために、ご主人に作ってもらった大きな物置。
そうしたものが全部流されてしまったのだそうだ。
「何もないね」と言われた言葉の奥には、大事な思い出を、思い返す縁(よすが)もないのだというお気持ちが込められていたのではないだろうか。
(安部智海)
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掲載日: 2014.12.25