お寺で「医療の常識」を問い直す。 効率化と合理性の追求の果てに何があるのか

ありそうでなかった「そもそも」を語りあう場や時間

 
2017年3月1日より連続講座として始まった本企画。今までの会に参加された方からは、「一見すぐには役に立たないかもしれないけれど、後々の自分の生き方に必ず効いてくる気がする。大切なことだと自分でも薄々気づいていることをしっかりと言葉にしてくれる大切な会だと思った。」などの感想をいただきました。
 
 
他にも「物事のそもそも論を語り合える場や時間がありそうでなかった。」「初対面の人と仕事じゃないこともたくさん喋れた。」など異業種の人とお互いの人生について語り合う機会にもなったようです。
 
 
お寺で学ぶ講座「常識のカベ–自己と社会の在り方にしずかな革命を–」では、講座の中で、各種の専門家をお招きして、提言をいただきそれを踏まえて、対話を行い、参加者一人ひとりの「常識」を問い直し、学ぶ場を提供しています。
 
 
時代を越えてあり続けるお寺で、今のあり方をじっくりと見つめなおす時間を。
 
図2
 
 

常識のカベ–自己と社会の在り方にしずかな革命を–

 
私たちは、ふだんの暮らしのなかで自分なりの「常識」を手がかりにして、ものごとを判断し行動しています。「常識」とは、社会を構成する人たちが共有する価値観や知識のこと。社会とともに変化し、つくりなおされていくものです。
 
 
しかし現代のめまぐるしく変化する社会において、今まで正しかったはずのことが変わり始め、「常識」と思い込んでいたものが音を立てて壊れつつあります。そんな中で、一人ひとりが持っている「常識」、また社会にある「常識」を見つめ直していくことによって、何が本当に大切なことなのか……どのように生きていったらいいのか、を共に考えたいという想いから企画は生まれました。
 
 
目に見える形での結果と効率が重視される現代社会において、自分にとって本当に大切なことを、少し立ち止まって考えることのできる場所は少ないのではないでしょうか。この会を通じ、参加者の一人ひとりが、今まで持っていた価値観を問い直すような時間を提供してくれます。

-常識のカベ 実行委員より-

 
 
 
公益財団法人 未来工学研究所 22世紀ライフエンスセンター主任研究員(※未来工学研究所は内閣府をはじめとする行政機関等の委託を受けて未来予測を行う研究所である。)小野直哉氏を迎えられて、2017年11月1日に、第5回 「医療の常識を問い直す」をテーマとした、会の様子を全6回にわたり、お届けします。
 
 
 
 

医療の常識を問い直す

 
 
一般に医学と医療という言葉は混同して使われがちですが、正確には異なります。医療は対象が誰であっても、誰がやっても、どこでやっても一緒です。医学は全く逆で、時間によって、人によって、場所によって違う対応をしなさいというものです。科学と全く正反対の対応をするものなんです。
 
今日は、医療・医学の歴史的変遷の部分からお話をいただいて、皆様がお持ちの常識のカベを見つけていければと思います。
 
図5
 
 
図1
 
 

鍼灸師!社会に針を刺す。

 
 
小野直哉と申します。
私は鍼灸師ですが、もっぱら人に針を刺すのではなくて、社会に針を刺しています。
現在の私の所属は、世界の科学技術予測などに係る公益財団法人未来工学研究所です。未来工学研究所は、日本が高度経済成長を遂げた後、科学技術立国として今後どの科学分野が発展していくのかを調査研究するシンクタンクとして、1971年に科学技術庁所管の財団法人として設立されました。
 
 
現在も当研究所のミッションは、日本の将来の科学技術投資に資する調査研究を行うことです。当研究所で私は、医療・健康分野を担当しておりますが、守備範囲は広くて、揺り籠から宇宙開発まで、伝統医療からサイボーグ技術まで対応しています。
 
 
私たちの社会は、科学技術の発展に伴い、日々変化しています。例えば、皆さんが持っている携帯電話やスマートホンは、今から30年前は存在しませんでした。その頃の私たちは、どうやって待ち合わせをしていたのか?また、どうやって待ち合わせ場所まで行ったのか?私たちは既に忘れています。
 
科学技術の発展に伴い、私たちの生活や取り巻く社会環境や倫理観などは変わってきています。医療も同じです。1980年代には人工妊娠は良くない風潮でしたが、今では逆に不妊治療として奨励され、当時と今とでは、倫理観は変わっています。
 
 
私の講演は、必ずこの言葉から始めます。
 
 
一つ目の言葉は、
図6
 
そして二つ目は、
図7
 
 
また、私の言葉として
図8
図9
 
 
これらの言葉に係ることをこれから話していきます。
本日は、日本を例にして、健康に関する各年代の変遷を、話していきます。
医学教育、また看護教育も含め、今の日本の医療界では、ほとんど教えられていないことを皆さんにお話しします。
 
 
それは、明治維新以降今日に至るまでの日本の医療・健康政策が、どのように流れてきたのか?その時代の健康は、誰のものだったのか?現在の医療従事者の養成機関では、医学・医療知識と技術を教えていますが、これから話すことは系統立てて教えられていません。そのため、現在の医療従事者の多くは、自分たちが行っている医療がどのような変遷を経て、今日に至っているのかを知らずに医療現場に臨んでいることになります。
 
 
図3
 
 

近代国家の目的と三要素

 
 
日本の医療制度が、明確につくられるのは、明治維新以降です。江戸時代までは、全国共通の決まった医療制度は存在しませんでした。「養生」という言葉を聞かれたことがあると思いますが、江戸時代までは、当時の人々に「養生」が広く受け入れられていました。個人の健康の維持は、あくまでも主観的判断と自助努力で行われていました。この当時、医師に診てもらうには非常に費用がかかるので、ほとんどの人は、医師に診てもらうことができない時代でした。
 
いま私たちは、近代国家という国家形態の中で生きています。この近代国家は三要素でできています。軍事国家、産業国家、福祉国家(社会国家)で成立しています。
その成立を支えているのが、国民国家であり、その単位は核家族です。この国家形態に私たちは組み込まれています。
 
 
近代国家の三要素は共犯関係にあります。
例えば、軍事国家の要素として、海外の国々を侵略することにより、市場の拡大・維持を図り、さらに軍事費を増やし供給していく。そして、傷痍軍人などに対しては、医療も含め、社会保障として福祉国家の性質から、慰労金などのお金が給付される。そして、病気や怪我が治った軍人は、再び軍隊に戻されていく。福祉国家の要素からは、健康な労働者を産業界に供給し、産業が富むと社会保障費という形で、福祉国家の要素へお金が回っていきます。
この3つの要素のトライアングルによるヒト・モノ・カネの回転で機能しているのが近代国家です。
 
 
近代国家の目的は拡大と成長です。
 
 
例えば資本主義や共産主義、自由主義や社会主義と呼ばれるいずれのイデオロギーも、近代国家の枠組みの中に存在します。従って、いずれのイデオロギーも目的は一緒で、拡大成長路線です。違いはそこに至るまでの手段の違いです。
 
 
また、近代国家の基本的価値観として、効率性と合理性を重んじる点では、皆同じです。
 
 
近代国家の産物としてよくいわれるものは、病院、学校、監獄です。
 
これらは、いずれも効率的かつ、合理的に人々を管理する機関として運営されています。病人を効率的かつ、合理的に治療、管理する。または学生を効率的かつ、合理的に教育、管理する。囚人を効率的かつ、合理的に収監、管理する。
近代西洋医学の根本的価値観は、効率性と合理性です。
 
そうすると拡大成長路線に寄与しない「死」は敗北で、障害は「悪」となり取り除く対象となります。
 
図4

(小野直哉氏講演より)

 


 
私たちが今、生きている社会が一体、どんな仕組みで考えられ、作られているかを、今までにない切り口で話してくださいました。
 
次回は、明治時代から第二次世界大戦という大きな日本の変換機に医療と私たちの生活がどのように結びついているのかをお話ししていただきます。
 
第2回 今の「私」の健康と日本の歴史—常識のカベ講演録


 
 
 
お寺で学ぶ講座「常識のカベ」とは・・・
2017年3月1日より連続講座として始まった本企画。
講座の中で、各種の専門家をお招きして、提言をいただきそれを踏まえて、対話を行い、参加者ひとりひとりの「常識」を問い直し、学ぶ場を提供しています。
時代を越えてあり続けるお寺で、今のあり方をじっくりと見つめなおす時間を。
詳細はこちら→常識のカベfacebookページ

   

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掲載日: 2018.07.11

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