【常識のカベ】「おせっかい」が生む新たなコミュニティって?<前編>

 
本年度最後の「常識のカベ」。本年度は、福祉をテーマに、あるときは「老後2000万円問題」、またあるときは「地域包括ケア」と、あらゆる観点から高齢化社会の問題をメンバーで考えてきました。
最終回となる今回のテーマは「まちづくり」。コーディネーターの菱川さんに、京都府京丹後市大宮南と呼ばれる地域で取り組まれているまちづくりプロジェクトの実例をお話しいただきました。
 
高齢化社会の問題を考える上で、避けて通れないのが「人同士のつながりが希薄になっている」という問題です。これは地域を問わず今の日本社会で問題視されています。簡単なようでなかなか解決しないこの問題。どのようにすれば解決へと向かうのでしょうか?
 

 

 
一向に進まないまちづくり
 
2000年頃より「大宮南(おおみやみなみ)」と呼ばれる、京都府京丹後市の地域のまちづくりに携わっている菱川さん。環境問題やまちづくりに取り組んできましたが、「状況は一向に改善しないどころか、悪化している」と菱川さん。今の取り組みが本当に正しいのか、改めて問い直す時期が来ているのではないかということです。
地方の集落をめぐっては、コンパクトシティーと呼ばれる低コストでの運営や、特色ある地域づくりといった意見のほか、いっそのこと廃村し、地域住民は都会へと移住させようという思い切った案まで出ているそうです。
課題解決は一向に進まないのは何故でしょうか?菱川さんは「共同体が無いのが問題なのではないか?」と投げかけました。
 
大宮南地域のコミュニティを図式にしたもの。「つねよし百貨店」や「大宮南小学校」といった施設がハブとなり、コミュニティが形成されている。実線の矢印が現状で成立している協力関係、破線の矢印が成立する可能性のある協力関係を表す。
 
大宮南地域の調査をすすめる上で、地域の人々はお金の苦労よりも、人とのつながりが昔と比べてかなり希薄になっているという問題を認識しているようです。
その背景には、行政サービスの充実によって、「隣の家の人と会話をする必要が無くなった」ことが挙げられるといいます。「かつては他人同士でももっとコミュニケーションがあった」と振り返る菱川さん。今後は地域の住民同士だけではなく、移住者に対しても優しいまちづくりが求められるでしょう。
そこで「福祉や支援といったきっかけを活用すれば人同士のつながりが回復するのではないか」と菱川さん。大宮南地域のコミュニティを改めて俯瞰した上で、現状ではどのようなつながりがあるのかを整理されました。
 
おせっかいシステム「つながりトクちゃん」(仮称)の試み
 
大宮南地域におけるつながりを俯瞰し、もっと地域住民同士での接点があるのではないかと考えた菱川さん。そこで、「つながりトクちゃん」というシステムを考案されました。つながりトクちゃんとは、地域内の「共助」と「協働」を「おせっかいで」促していくシステムです。
人と人とのつながりを豊かにすることによって、日々の生活の中での小さな幸せ(共助)をたくさん得られる地域づくりが狙いです。少子高齢化の中、人手が足りなくなることを想定し、インターネットの活用で省力化を図っているところが大きな特徴です。
 
<「つながりトクちゃん」4つの目的>
●家族、友人、知人ではない他人同士でも、話しかけやすい、助けを求めやすい「つながり」を形成し集落機能を高める。
● 集落(連携集落)内の誰もが「頼り頼られる」関係を構築する。
● 共助サービスを活性化させることで基本生活費用を削減する。
● 観光や広告等でのビジネスモデルにより事業を持続可能にする。


 
続けて、菱川さんは「つながりトクちゃん」のモデルケースとして、「つねよし百貨店」の事例を紹介されました。つねよし百貨店とは、大宮南地区にある「日本一ちいさな」百貨店で、地元で採れた旬の野菜や果物、地域住民が手作りで用意した保存食などを取り扱っています。他にはないものにこだわり、地域の農・食・伝統・暮らしの維持に貢献している百貨店です。
 
周辺人口の少なさから集客が見込めず、銀行に融資を断られた同店。しかし、20年以上経営を続けています。その秘訣は「人のつながり」を生かしたビジネスモデルにあるそう。
店主一人で切り盛りしているという同店。例えば、通常は配達員が商品を届けますが、配達を顧客に任せることで、配達の手間やコストを削減しています。また、コミュニティスペースを用意し、そこに地域の住民を集めることで、店主の不在に店番の代行を任せるといったことも。
さらに、放課後に学校で遊べない児童らが遊べるスペースを店舗の一角に用意し、そこを無料で開放したところ、児童らの保護者がせめてものお礼として同店の商品を購入されるそうです。
 
大型量販店の進出やeコマースの発展で、地元のお店よりも安い価格で同じ商品が購入できるにもかかわらず、地域の人が20年にわたってこのお店を支え続けてきたのは、単なる「売り手」と「買い手」を超越した人と人とのつながりがあるからでしょう。
 
「つながりトクちゃん」は、いわばこうしたつながりを地域全体に広げていこうとするものです。このつながりをもっと広げていくには、どのようにすればよいでしょうか?
後編記事では、つながりトクちゃんの持つメリットとデメリットや、参加者の考えをレポートします。(近日公開予定です。)
 

   

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掲載日: 2020.04.01

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