その子に必要だったのは「教わる」ことではなく「考える」ことだった
「世界平和の実現=すべての生命が安心して生活できる社会の実現」を設立目的として各国で活動を続ける認定NPO法人テラ・ルネッサンスの栗田さんにお話を伺っています。第2回は、テラ・ルネッサンスが取り組む課題のうちのひとつ、子ども兵問題と小型武器問題について。
第1回 かわいそうな子、かわいそうじゃない子。あなたはどこに線を引く?
あなたは銃の重さを知っているか?元子ども兵の歩む道
ーー子ども兵の実態をぜひお聞きしたいです。
栗田:はい。子ども兵は、18歳未満の男女が誘拐されて戦わされる、もしくは自らの意思で兵士になることで生まれます。そういう子ども兵がいま世界に25万人いると言われています。
ーー25万人……。自分で志願するというのはどういう理由なんですか?
栗田:就職口としてですね。仕事として。
ここに入ったら良い食事が整っているし、給料ももらえるので。もしくは宗教的な理由で、親によって兵士にされる場合もあります。子どもを兵士にすることが名誉であるという認識なんですね。
提供:テラ・ルネッサンスHPより
ーー男女問わず子ども兵にされるんですね。
栗田:はい。女の子は銃を持って戦うだけではなく、強制結婚をさせられる場合があるんです。望まない妊娠・出産を経験している少女兵も数多く存在します。戦利品として、という側面もありますし、あと子どもが生まれるとなかなか脱走しにくくなるんですよね。強制結婚は逃さないための手法でもあるんです。
このような子ども兵が増えた背景には、小型武器の普及があるんです。
ーーテラ・ルネッサンスさんの取り組む課題のひとつですね、小型武器。
栗田:はい。
ちょっとこれを持ってみてもらっていいですか?
ずっしりと、重い
ーーえ、これ本物ではないです……よね?
栗田:はい。モデルガンです。
でも、子ども兵が使用しているものと同じ大きさ、重さが再現されています。
ーーこんなに重いんですね……。これを抱えて戦場を走るって相当大変な気がします。これで人が殺せてしまうんですね。
栗田:はい。だいたい5キロくらいの重さですが、アフリカの子たちは小さい頃から井戸水を運んでいたりするので、この重さにも慣れてしまえるんです。これを持って何十キロとか歩かされます。
小学生くらいの年齢の子たちから使えます。というか、使いこなせてしまうんです。構造がシンプルでメンテナンスも簡単。壊れにくく、弾づまりもしにくい。
ーー使えてしまうんですね。これは現地でいくらくらいで取引きされているんですか?
栗田:コピー品なら3000円くらいで手にはいると思います。
子どもが銃を持って戦場にいると、敵の大人は一瞬ためらってしまうんです。それを狙った戦術でもあるんですけどね、子ども兵というのは。
ーーなんという世界なんでしょうか。
単純な質問ですが、紛争を起こそうと思うとお金がいりますよね?
栗田:いりますね。
——そのお金ってどこから集めてくるんですか?
栗田:たとえばウガンダは1986年から内戦が始まってまして、特に90年代には反政府軍が力をつけ、勢力を維持していました。その背景には、ウガンダの北隣にスーダンという国がありまして、当時は内戦が続いていました。
南側にいた反政府軍。それをウガンダの政府軍が支援したんです。
そして、逆に今度はスーダンの政府が、ウガンダの反政府軍を支援したということです。スーダンの政府からの支援を受け、武器や拠点を手に入れたウガンダの反政府軍は、多くの子ども兵を作り出し、活動を続けました。
90年代というのは、スーダンとウガンダ反政府軍の結びつきが最も深かった。だから活動も盛んだったんですね。
——そういう政府のお金によって、多くの子どもを戦場に送り込んだ?
栗田:そうですね。
スーダンだけでなくウガンダも北側と南側の戦いなんですが、北側が反政府軍、南側が政府軍なんです。
反政府軍では当初北側に住む人々が兵士として戦っていたんですけれど、それも疲弊してきて十分な戦力にならなくなりました。すると今度は、反政府軍は北部の住民たちを「我々に協力しないなら、お前たちも我々の敵だ!」と攻撃し始めてしまったんです。もともと味方だった民族も、こうして襲撃にあうようになりました。
そんななか戦力を維持するために、北部住民の子どもたちが誘拐されることが増えていったんです。私が出会いインタビューした中でも、6歳くらいから誘拐されて、兵士にされた例もありました。
——そして、彼らの使う武器は、間接的にスーダンから支給されていたと。
栗田:はい。
そのスーダン政府とウガンダ反政府軍とのつながりが弱まったからこそ、2006年の停戦合意に至ったんです。
ただ、反政府軍も完全には無くなっていなくて、隣のコンゴや中央アフリカの方に逃げて生き続けているという状態です。
なので、最終的な和平合意は結ばれておらず、2006年以降ウガンダの国内では戦いは起きていないという状況です。
——紛争の起きる仕組みというのは、聞けば聞くほど、どこから手をつけたら良いのか…という気持ちになります。テラ・ルネッサンスさんではそういった元子ども兵たちを支援していらっしゃるということですが、具体的にはどういうサポートを?
ピース・エデュケーション(平和教育)で大切なこと
栗田:一番重要なのが、彼らの社会復帰です。
アフリカ、特にウガンダでは誘拐されて戦わされた子ども兵がほとんどです。子ども兵にとってみれば自分は被害者ですが、周りの住人からすると犯人グループの一人、つまり加害者なんですよ。
なので、必死に故郷まで帰ってきても、お前なんで帰ってきたんだって追い出されることもあります。
この、被害者でもあり加害者でもあるという状況が、彼らの社会復帰をより困難なものにしています。
ーー非常に難しい状況ですね。
栗田:はい。なので、私たちは社会復帰の支援ということで、技術訓練や教育だけではなくて、現地の方々と共に生きていけるよう、近隣住民との和解促進も大切です。
自立っていうのは孤立ではないと私たちは思っていますので、収入が増えるのも大事ですけど、周りの人といかに共に生きていけるか、困ったときに助け合うことができるかどうか、ということも大事だと思っています。
なので、自立をしてもらうために、まずは教育機会の提供などを行いながら収入の向上、そして地域住民との和解。これがウガンダでの、取り組みになってきます。
ーー元子ども兵の少年少女たちにどのような教育をされているんですか?倫理観や道徳といったものの教育ということでしょうか?
栗田:私たちが現地でしていることを端的に言うと、考える場を提供しているっていうのが一番近い表現だと思います。
当たり前ですけど私たちの文化と彼らの文化は違います。なので、私たちが教えるっていうのは違うと思っていて。
例を出すと、当会が関わる方々はアチョリ人という方々なのですが、、彼らのなかでは伝統的な和解の儀式なんかがあるんですよ。
ーー和解の儀式?仲違いをしたときに、ってことですよね?
栗田:はい。先人からの言い伝えや、土着の宗教儀式はしっかりと残っているんです。ダンスや音楽に平和の思いが込められていたり、ワンオーと呼ばれる焚き火を囲って大人から昔の言い伝えを聞いたり。
元子ども兵たちと、そのウガンダに伝わることわざなどをテーマに取り上げて、そこにはどんな意味があるのかなど話し合う場を持つのも授業の一環として行なっています。いざこざが起こる場面を演劇で再現してみたりとか。
子ども兵役や地域住民役など、みんなに役が割り振られていて、問題が起きたときにどう言う風に解決したら良いんだろう…というのを演劇を通して考えます。
私がしたインタビューでは、元子ども兵たちは本当に幼い頃から戦わされてきているので、帰還当初は何か言われると手を出してしまうことが多いそうです。でも、そうじゃなくて対話をする、相手を許すっていう道があるんだよってことや、なぜ相手は君にこんなことを言ってくるのか考えてみようかっていう場づくりをしています。
ーー元子ども兵の彼らは、そういった考える機会を得て変わっていく様子はあるんですか?
栗田:卒業していく子に、ここで印象に残ったことは何だった?って聞くと、このピースエデュケーションだと答えてくれることもあります。
ーー授業としてはそのピースエデュケーションだけではなく他の分野も学べるんですか?
栗田:そうですね。普通の学校のように英語や数学の授業もありますし、あとは実践的な木工大工や洋裁の授業もあります。
技術面と知識、そして平和教育。そういったものを工夫しながら授業に取り入れ、合計3年間のプログラムを実施しています。ウガンダでは今まで208人を受け入れてきました。
——テラ・ルネッサンスさん以外にも日本の団体でウガンダなどで活動していらっしゃるところはあるんですか?
栗田:日本のNGOはアジアでの活動が多いんですよ。もちろんいくつかはアフリカで活動している団体もありますが、実際に現場に拠点を持ち、日本人スタッフが関わって活動というのは少ないと思いますね。
今回は、元子ども兵を取り巻く現実をお聞きしました。次回は、テラ・ルネッサンスという組織が誕生した経緯や、栗田さんご自身がどのようなモチベーションで活動に取り組んでおられるのかをお伺いします。
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