無縁社会におけるお寺の可能性|星野 哲さんインタビュー②
取材の一環で紹介された寺院に魅了されたことがきっかけとなり、お墓からコミュニティへと関心の対象が広がった星野さん。さらに取材を進める中で、崩壊しつつある地域コミュニティを再生する可能性を寺院に見出したといいます。
地域コミュニティに対して、寺院はどのような可能性を持つのでしょうか。星野さんに、お話を伺いました。
現代における、お寺の可能性と課題
ーー 「お寺は、その地域にあってコミュニティを再定義する核になりうる可能性を持ってるという点で、私は今、お寺に注目しています。」(前回記事より)とお話くださいましたが、その可能性とはどういったものなのでしょうか?」
星野:可能性はいくつもあると思うんですけども、お寺にはまだかろうじて信頼性があるということが核になりうる。檀家制度がまだそれなりに機能しているお寺もあるし、地域の人的ネットワークの中核にあることが多い。お寺さんの持っている人的ネットワークを上手く活用すると、実はいろんなものが解決できちゃう。そんなパッケージを持っている可能性がある。それがとても大きいと思ってます。
あともう一つは、やっぱり「場」があることですよね。昔から境内や本堂という場を持っていて、原則としては、誰もが自由に入ることができる。いまそんな場は貴重です。そういう場を持っている強さはあると思います。
ーー「場」という意味では公民館というのもありますが、その違いはなんでしょうか?
星野:行政のやっている公民館は作った空間なんです。「日常」から抜け出ることはない。ですが、特に歴史があるお寺では、日々追われるように生活していると味わえない、日常とは違う時間が流れています。もしくは経済ファーストと言われるものとは違う価値観を体現している場、といってもよいと思います。
「信頼」と「場」この2つを寺院は持っており、大きな強みであると星野さんは言います。続けて、この2つの強みを生かした具体的な事例を伺いました。
お寺の特性を活かした2つの取り組み
ーー今おっしゃったように人的ネットワークと公民館とは違うとか、いろんな言い方がありましょうけども、そのような特徴を生かして、いろんな取り組みをされているお寺があると思いますが、例えばどのようなお寺や活動がありますか?
星野:「おてらおやつクラブ」(お寺に寄せられたお供え物を経済的に困窮している家庭へ提供する活動のこと https://otera-oyatsu.club/)は一番分かりやすいですよね。一般の人間からしてもわかりやすいし、お坊さん側からしても仏様のお下がりを差し上げて貧困の課題に向き合うというわかりやすさや、取り組みやすさがある。
この活動をするためには、まずは寺を維持しなければならない。お寺が維持されてなければ、お供えもないわけですから、お坊さんにしてみれば自分がこの寺をいかに維持していくかということに真正面から向き合うきっかけになるのではないでしょうか。
お檀家でも、檀家じゃなくても、おやつクラブをしているお寺をどうやって支えて行ったらいいのかってことを考えるきっかけになると、お互いにとても良い活動になってくるんじゃないかなと。
さらに、星野さんはもう一つ具体例を示してくださいました。
星野:テンプルモーニングなんかもすごく面白いと思っています。(テンプルモーニング:松本紹圭さんがはじめられた、朝にお寺でお掃除を行う企画のこと https://www.templemorning.com)あれはまさに居場所ですよね。単に、お客さんとしてお寺に行って、お茶を出されても何となく居心地が悪いというか、何かこう、1回はいいけど、2回、3回となったらなんとなく厚かましいと思ってしまう。でも「自分がここを綺麗にしたんだ」と思えると、「ここは私がいてもいい場所なんだ」と思える。そんなふうにおっしゃる方が、参加者にいらっしゃいました。
編集後記
お寺って本来、出入りは自由だって言ってはみますが、なんだかんだ言って、とても入りにくいお寺が多いと思っています。で、それを「時間があれば、どうぞ掃除に来てください」ってオープンにして、実際に掃除に参加したことによって、参加意識によって、そこが自分にとっての居場所になる。
それは、社会的孤立が大きな社会課題としてクローズアップされている中で、とても大きなソリューションを与え得るのではないかと感じています。
「信頼」と「場」という2つの強みを持つ寺院。それを踏まえて、「おてらおやつクラブ」と「テンプルモーニング」という2つの活動例を教えていただきました。2つの取り組みに共通することは、「敷居が低いこと」と「居場所が提供されていること」ではないでしょうか。
寺院の入りづらさについては、かねてより指摘されていた課題であると言えます。しかし、宗教的な空間として尊重されるべき場でもあり、入りづらいのは当然のことかもしれません。神聖な宗教空間でありながら、かつ誰でも気軽に立ち入ることのできる空間を目指すのは、とても難しいことです。その中で、気軽に寺院に立ち入ってもらうのは、「参加者に対して役割を与える」ということが一つのキーワードとなるようです。
続いては、各寺院がこうした取り組みを行うにはどうすればよいか?そして、切っても切れないお寺と経済の関係ついてお話を伺いました。
●Interviewee’s profile
1986年、朝日新聞社に記者として入社し、学芸部や社会部、CSR推進部などを経て2016年に独立。 記者時代から墓や葬儀の変化を通してみえる家族や社会の変化に興味を抱き、取材・研究を続ける。 終活関連分野全般、特に看取りを中心に人生のエンディング段階を社会でどう支えるかに関心がある。 社会的リソースとしての寺院の役割にも着目。寺もその一つになりうる「居場所」など、人と人とをむすぶ活動が大切と考え、「終活から集活へ」の考えを広げるため「集活ラボ(https://shukatsu-labo.amebaownd.com/)」を19年に立ち上げる。
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