本当に「知って」る?認知症のこと。受け身ではない介護サービス


「認知症」「デイサービス」「介護保険サービス」……そう聞くと、だいたい多くの人が同じようなイメージを思い浮かべるのではないでしょうか。
 
認知症の人のことをもっと知ってほしい、もっと選択肢を用意したい。そういった思いから始まったのは「受け身」にならない有償ボランティアの取り組みです。引き続き、河本さんと田端さんにお話を伺いました。
 
本当に知ってる?認知症のこと。sitteというプロジェクト
 
ーーsitte(シッテ)というプロジェクトがあるとお聞きしました。
 
河本:デイサービスの利用者、介護保険サービスを使っている方の有償ボランティアの活動です。これはけっこう珍しい活動だと思います。
 
介護が必要になって、介護サービスを受けるようになると、途端に社会から切り離されたような感じがするんです。しかし、サービスを受けていると家族は安心するし、地域の人も安心に思うし、本人もそこに甘んじる状況になります。けれど、そのようにすると本人はいつも受け身でしかいられなくなりますよね。
 
サービスを受ける立場の人でしかなくなる。本当は、まだまだいろんなことができる能力があったり、普通に生活できる力があるのに、デイサービスに来たら職員の誘導に従って、与えられたサービスを受け、レクリエーションをやり、出て来た食事を食べ……みたいな感じになってしまう。その現状をみてきて「いや、そうじゃないだろう」と思ったんです。
 

ーーたしかにそうですね。デイサービスで能動的にできることに、そんなに選択肢が多い印象は無いかもしれません。
 
河本:いままでそれぞれの人生を歩んでこられ、経験を積み重ねてこられています。実は今だって家に帰ったらほとんどなんでもできてしまう能力があるのに、そこを「無いもの」のように扱うのは、生きる気力を奪います。なので、もっと主体的に利用者の方が動くことのできる取り組みをやりたいと思い、sitteというプロジェクトを始めました。
 
自立支援という言い方もできますが、要はもっと社会と繋がっていく、社会のなかで働くことのできる仕組みを作っていこうとしているんです。お世話になっている京都橘大学で作業療法学科の教授をされている小川先生という方がもともと提唱されていたことなんですけどね。
 
ーーそうですよね。もちろん受け身のサービスが必要な方もいらっしゃるけれど、そうじゃない方もいる。そういうグラデーションを受け入れる仕組みがまだまだ日本には少ない気がします。sitteでは具体的にどのようなことをされているんですか?
 
河本:ブランドづくりです。ものづくりをして、それを手にとってくれた人へメッセージを伝えることができたらと思っています。認知症や高齢者になってもまだまだできることがあることをもっと「知って」ほしい、ということでsitteというブランド名で活動を始めました。
 
介護や認知症に興味のない方にこそ届けたいメッセージなので、商品そのものの魅力にこだわっています。「なんかいいな」と思って手にとったら「あ、これデイサービスのおばあちゃんが作ったやつやったんや!」みたいな感じで届いてほしい。
 
市場でも通用するようなものを、と考えています。若い人が「素敵」と思って買ってもらえるような。
 
ーーそれは大事なことですよね。実際はどういった商品をつくられているんですか?
 
河本:まな板とカッティングボードを作っています。カッティングボードは、おしゃれなレストランとかで、チーズとかローストビーフとかが載っている木のボードです。まな板はひのきを用いた高品質なもので、8,000円~10,000円くらいします。
 

ーーこれはデザインや販路をどのようにしていらっしゃるんですか?
 
河本:これはMUMOKUTEKIというカフェに協力をお願いしたんです。自然派のお料理や雑貨を展開されているところで、京都市内にお店があります。
このお店との間にプロモーション会社が入っています。このプロモーション会社の社長さんが、私たちの想いを聞いて「あ、それはやろう!おもしろいやん!」って言ってくださってプロジェクトを始めることができました。
 
ーー利用者の方の作業っていうのは、どういった工程になるんですか?
 
田端:作業は本当に簡単で、板のカットまでは業者にしていただいていて、それをサンドペーパーでずっと磨くという作業が主になります。粗さの違う3枚のサンドペーパーで磨いて、最後にオイルを塗ります。
 
どなたでも参加しやすい作業にしてあるんです。難しい作業だと、対象を選ばないといけなくなるので。
 
ーー難しいところですよね。これはデイサービスの利用者さんが参加できるんですか?
 
河本:デイサービスの取り組みではありますが、利用者ではない方でもご参加いただけます。
 
実際に、地域にお住まいの方も一緒にやってもらっています。
 
ーーこれは完全にボランティアなんですか?
 
河本:有償ボランティアなんです。商品を納品したらMUMOKUTEKIさんから1枚あたり500円が入ってくるんですよ。なので、その商品を仕上げた方に500円を謝礼としてお渡ししています。「謝礼」じゃないとだめなんです。
 
ーー給与じゃだめということですよね。
 

河本:はい。あくまでボランティアなんです。最近、厚生労働省が、介護保険制度のなかで社会参加活動を認めるという通知を出したので、行政もようやく認めてくれるようになってきました。それまでは京都市にお願いしにいっても「だめです」の一点張りだったんですけど、通知が出た途端「じゃあ良いですよ!」ってなりました(笑)。
 
謝礼の500円は現金でお渡ししても良いんですけど、うちでは三条会商店街のなかで使える金券に換えてお渡しすることにしています。私たち専用の金券です。商店街の方に相談したら「それは良い活動だから」ということで、スーパーなどの店舗以外の商店さんが金券での買い物に応じてくださるようになりました。
 
利用者お一人が2〜3枚のまな板やカッティングボードを仕上げて1,500円分くらいの金券がたまったら、一緒に商店街へお買い物に行きます。地域活性まではいかないけれど、少しは地域にお金が落とせる仕組みだといいなと思いまして。
 
sitteのこれから。課題や展望
 
ーーsitteのこれからの課題や展望についてお聞かせいただけますか?
 
河本:継続性は考えていかないといけない課題だと思います。ロールモデルがたくさんある活動ではないので、やり続けていくことを大切にしていきたいです。
 
あとは、自分たちの思いが正しく伝わるようにしたいとも思っています。活動についての説明をすると「ああ、内職をもらってきて、やったら良いんですよね」って言われたりするんですが、少し違うんですよ。
それが悪いのではなくて、私たちがやろうとしているのはあくまで主体性を持った活動なんです。「これをやりたい」と思ってくれる人を募って、「これは自分の仕事だ」って意識してもらえるようにしているんです。
 
通常、デイサービスのプログラムは1階で行いますが、sitteの仕事がある日は2階で行います。それで、出勤簿にハンコを押してもらうところから始めて、揃いのエプロンをつける。これはチームで一緒に働くんだ、という意識を持ってもらうための工夫でもあります。
 
帰属意識ができていくので、仕事内でも役割が生まれます。リーダーシップをとる人がいたり、新人さんに丁寧に教えてあげる人がいたり。
 

ーー役割や所属って、生きていくうえで大切ですもんね。男女比って偏りはありますか?
 
河本:女性がほとんどですかね。そもそもデイサービス自体、女性が多いんです。男性は、デイサービスに行くのをあまり好まれないし、平均寿命の男女比も影響していると思います。
 
ただ最近は、男性でも、ものづくりよりも、もっとアクティブなことが得意だって方がいらっしゃって、洗車をお願いしたりすることもあります。体を動かすことを好まれる方が多いんだなと気づきました。
 
ーーこれは男性に限ったことではありませんが、認知症の症状がほとんどなく、わりと普通に働けるけど、完全に今まで通りだと難しい……という程度の方はどうなんでしょう?
 
河本:最近、うちにも若年性の認知症の方が来られて、就労できませんか?ってご相談があったんですけど、その方にここでまな板を磨いてもらうのはちょっと違うなと。それで、うちの職員として働いてもらうことにしました。そういった方のための就労先や、社会参加の方法についても考えていかないといけないなと思っています。
 
せめてお試しで働けるような企業さんとかあれば良いんですけど。職場での理解がどうしても必要になってきますからね。
 

ーー就労支援の取り組みは他でもありますが、やはり認知症の症状もグラデーションがあるでしょうから、いろんな場所にいろんな受け皿があるに越したことはないですよね。
 
今後の展開についてはどうお考えですか? 企業さんとのコラボは増えていくんでしょうか?
 
河本:そうですね。販売先はもっと他にも置いてもらえれば良いと思っています。新しい商品開発もデザイナーさんに入ってもらって進めたいです。あとは、芸術大学の学生さんとコラボしようかという案もありますね。
京都橘大学の小川先生やプロモーション会社の方たちと協力して、とにかくプラットフォームづくりをしたいと話しています。うちだけではなく、もっといろんな事業所さんも参入しやすいような仕組みづくりができたらと思っています。
 
認知症のことについてもっと知ってほしい、という思いから生まれたブランドsitte。多くの人が認知症のことを知れば、認知症の人にもっとたくさんの選択肢を用意できるはず。そんな未来が早くきてほしい、と思うインタビューでした。次回は、認知症の啓発のため、施設を飛び出した河本さんの活動についてもご紹介します。
掲載日: 2020.05.25