野宿者という生き方 第2回「親」

四方八方、十方丸く

 

「平和構築」、「貧困問題」と「環境問題」の解決、「災害支援・復興」の目的完遂、これらに向けて各種事業活動を展開しているNPO法人JIPPOは、「すべての存在と営みは互いに関係しあい支えあっている」という仏教の縁起の教えにのっとり、親鸞聖人の「世のなか安穏なれ」という願いのもと、浄土真宗本願寺派の社会事業活動の一環として、2008年に設立されました。

ここではJIPPOの活動の一つである、野宿者支援をテーマに、京都市における野宿者の現状とJIPPOの支援内容をレポートします。また、JIPPOが支援する野宿者に生い立ちや、野宿をするようになった経緯、さらには幸せや豊かさについて、思うところを聞きました。

 

 

野宿者という生き方

 

【第2回】

「親」

野宿者2

 

インタビュアー(以下、イ):ご出身はどちら何ですか?

 

タカハシさん(仮名。以下、タ):鳥取。

 

イ:京都に来られた理由は、仕事だったんですか?

 

タ:親が二人とも病院に入って、生活保護を受けてたけど、病院代が払えんで。せやから、こっちで仕事して、月に30万円ほど、仕送りしてた。あの時は必死で稼いだよ。

 

イ:そうだったんですね。大変な経験をされてたんですね。

 

タ:大変なんて、一つも何とも思わんよ。だって、親のためやからな。人のためとちゃうから。親が病院に入ってるから、病院代を払わなあかんから。やっぱりそれは自分にかけられた義務やからな。あの頃は、毎週地元まで往復してた。仕事終わって土曜日の夜に京都から米子の病院に行って。次の日の夜に向こうを出て、朝5時前ぐらいにこっちに帰ってきて、そのまま仕事。毎週それをやってた。

 

イ:凄い。

 

タ:それを10年。毎週続けた。その時は全然苦にならへん。ワシも若かったわ。

 

イ:おいくつの時に京都に来られたんですか?

 

タ:20歳。中学終わって、向こうで2年ほど働いて。その時の初任給は9千円やった。その時は、親はまだ病院に入ってへんかった。まあ、色々あったな。言葉では、言い尽くせへんわ。

 

イ:壮絶な人生だったんですね。

 

タ:米子おったときは2年ほど、親と一緒に過ごした。おふくろに飯を食わせて、しもとって。な、分かるか?20歳前の小僧やぞ、おふくろやからできるんやけどな。病人やから、時間関係あらへん。夜中であろうが、何であろうが、いつでもおやじを起こして。おやじも一人ではできひんから一緒に。まあ、それが自分にとっては、ひとつの経験やわな。金払っても経験できひんことをワシは経験したんやから。今になってみれば、それは自分にとって得やったと思うてるけどな。そんなもん、親やからできるんやけどな。他人のは絶対できひん。

 

イ:自分の親っていっても、同じようにできるかは自信ないです。

 

タ:いや、出きる、出来ないかじゃないわ。やるのが当たり前や。親は自分のことを必死になって育ててくれて、大きくしてくれた。その恩返しや。今の時代はそんなこと何にも思うてないから、こういうしょうもない世の中になってしまうんや。

 

イ:胸が痛いです。

 

タ:人間はずっと繰り返しや。誰かが放棄したら、そこで終わりや。だから、終わらしたらあかんねん。これはあくまでも人間の常識や。ワシも常識や何やと偉そうに言える立場じゃないけど。だけど、そういう気さえ人間持っておればな、悪いことはせえへんわ。

 

イ:負の連鎖は断ち切らないといけないけど、良い行いは繰り返し続けないといけないですね。

 

タ:皆、思うてることは一緒やけどな、親や兄弟には迷惑かけたくないとかな。これはあくまでも皆、一緒や。だけど、たまに間違って道を外れるやつがおるからな。だけどな、めちゃくちゃやな、今な。ちょっとひどいのとちゃうか。これからもっとひどくなるからな。

携帯電話とかな、今は便利になりすぎてる。良いように活用すればええんやけど、こんなもん悪い方に活用すれば、いくらでも悪い方に持っていけるやん。

 

イ:わが親を殺したり、わが子を殺すような事件が多くなってる原因って何だと思われますか?優しさがなくなったとか、恩を感じられない人が多くなったとか。

 

タ:それは、恩とか、優しさとかそんな問題ではないと思うわ。世界的にな、進みすぎてるやろ。発展しすぎてるからな。携帯がこれだけ発展普及したはいいけど、同じ屋根の下におってな、何でメールでやり取りすんねん。そこから間違うとる。同じ家におる意味ないやん。何を考えとるんか、さっぱり分からん。

 

イ:うーん…何でですかね。

 

タ:そういうことを親がしてきてしまったから、子どももそうなってしまう。

 

イ:なるほど。親の姿を見て子どもは真似するし、子どもはそれが悪いことだってさえ思えないですもんね。

 

タ:そうや。結局はな、親の責任やとワシは思ってる。学校で教えるのは、ある一線までや。後は家庭で親が教えることや、本来はな。学校では勉強を教えるんや。

 

イ:人間としての大切なことは家庭で教えなければならないと。

 

タ:そう。道徳やマナーっていうのは、親が教えな、学校では教われへん。学校では道徳、マナーまでは行き届かんわ。

 

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野宿者という生き方 第3回「生きるために幸せを掴むんや」
 

2016 8/29更新

   

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掲載日: 2021.02.02

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