これからの伝道を考える〜テクノ法要〜|龍谷大学シンポジウムレポート③
これまで、貴島先生の提言、直林先生の提言と、杉本先生の実演を2記事に渡ってレポートいたしました。続けて、「これからの伝道を考える」というテーマのもと、朝倉行宣先生が「テクノ法要」について提言されました。今回は、朝倉先生の提言をレポートいたします。
「テクノ法要」とは?
朝倉先生が始められた「テクノ法要」とは、極楽浄土を、現代のテクノロジーを用いて表現する試みのことです。「時代と共に進化してきた荘厳(仏像・仏堂の飾り)ならば、現代技術を活用しない手はない」という発想が出発点で、これまで伝統的に続いてきた荘厳の形にとらわれず、阿弥陀さまの光をLED電球やプロジェクションマッピングといった現代の技術で表現したものです。
声明(お経)についても、蓮如上人が制定した伝統的な節や唱え方を踏襲しつつも、近代的な流行を踏まえたアレンジを施した取り組みです。
朝倉先生が住職を務める、福井県の照恩寺では花まつりといった祝い事の仏事で行っているとのことです。
テクノ法要の様子
テクノ法要の始まりは危機感から
テクノ法要の始まりは、朝倉先生の住職継職がきっかけでした。お寺への参拝者の減少に対する危機感を強く持っておられたそうです。「これからどうなっていくんだろう」と将来を危惧しておられました。
また、「仏教=お葬式・法事」といった、仏教は死者を弔うものだという、世間一般の常識に対しての疑問を抱いたこともきっかけでした。ちゃんと仏教に興味を持って参拝していただきたい、そのためにはどうすれば良いかを考慮されたそうです。
継職後の花まつりで独自の取り組みをできないかと考えておられた朝倉先生。美しい声明に憧れるが、自身の声やテクニックには自信が無く、学生時代からの趣味であった音楽制作のノウハウを生かし、正信偈をアレンジ。荘厳についても、内陣が外陣よりも暗い場所に見えるのに対しても疑問を抱き、舞台照明を活用して光の表現をできないかと考えておられたそう。しかし、資金的な問題から実現は困難で、代案としてプロジェクターを活用することになったといいます。
前住職や門徒の方々に説明するために、前例を探すも全く見つからなかったそう。「初めての取り組みをやりたい、目立ちたい」というような思いは一切なく、前例の無さに「理解を得られるだろうか」と不安に思っていた朝倉先生。しかし、「反対されたら他の方法を考えれば良いのでは?」という妻の声が後押しとなり、テクノ法要の実施に踏み切ったそうです。
返ってきた「意外な反応」
そんな不安感に包まれながら行った初めての「テクノ法要」。意外にも反応は「いつもと変わらない様子」であったそうです。本当は1回で終わるはずだったテクノ法要でしたが、多くの方々から続ける勇気をいただき、2回目の実施を決意したそうです。
参拝者のSNS拡散、地元新聞記者の広報もあり、テクノ法要はどんどん有名に「なってしまった」と話す朝倉先生。もともとは有名になるといった目論見はなかっただけに、その反響の大きさに大変驚いたそうです。
多くのご縁の中で
テクノ法要を続ける中で、「一緒に正信偈をおつとめしたいのに、本尊(内陣)を見ると聖典を見ることができない」という参拝者からの苦情がありました。その時に、たまたま「ニコニコ動画」※1を展開するドワンゴさんから、文字の投影技術の提供を受けたり、映像クリエイターから技術協力の申し出をいただいたと言います。
これもインターネットやSNSといった新しいメディアでの拡散による結果だそう。
しかし、TVや新聞といったメディアとSNSのどちらか片方で話題になるだけでは効果がなく、相互に作用しあって多くの人にテクノ法要が世間に知れ渡るようになったと朝倉先生は振り返りました。情報発信にも戦略が求められるのかもしれません。
※1ニコニコ動画・・・動画再生中にリアルタイムにコメントをつけられるサービスのこと。コメントは再生されている動画の上に字幕のようにして重ね、リアルタイムで表示されるのが大きな特徴。
そして、寺社フェスを展開する「向源」からの出演依頼をいただき、浄土真宗内のみならず、超宗派での交流が生まれます。さらに、お寺以外での開催も増加。「向源」からのつながりで、幕張メッセでの大イベント「ニコニコ超会議」への出演も実現しました。イベントスペースという、お寺の本堂と全く違う空間での演出は、朝倉先生一人では困難で、映像クリエイターの支援が大きかったそうです。2019年に築地本願寺で行われた「ごえんさんエキスポ」でも出演し、新たな伝道方法に挑戦する僧侶同士のコミュニティも構築されました。
「テクノ法要」は国内だけでなく、海外にも波及します。アメリカで開催される「バーニングマン」呼ばれるイベントにも招待され、「これも向源やニコニコ超会議といったイベントで築いたご縁があってのこと」と朝倉先生は述べられました。特に、SNSでの交流ではなく、実際に会うことによる影響力は強力だそうです。
批判はヒントの宝庫?困難なことへの対処
テクノ法要を続ける中で、全てがうまくいったというわけではありません。特に資金面においては苦慮されたそうです。寺院で行うイベントなので、従来では門徒の方々に寄付を依頼するのが中心でしたが、テクノ法要の参拝者は門徒以外の方々も多くおられます。となると、門徒以外の方々への依頼が自然の流れでしょう。昨今では「クラウドファンディング」と呼ばれる資金確保の方法が主流となりつつありますが、「簡単なことではない」そうです。テクノ法要という取り組みに対する想いを準備し、寄付者へのお礼(返礼品)を用意するなど、時間も労力もかかると言います。
そして、テクノ法要の活動に対して「賛否は当然出てくる」と話す朝倉先生。しかし、賛否は当然のものであると捉え「100%良いものだと評価されるものは世の中にはないということをちゃんと心得る」ことが重要ではないかと主張されました。物事には多様な見方があるということを、実践者として強く自覚しなければならないでしょう。
そして、否定や批判は「ヒントの宝庫」だそう。先述の文字の投影にもその姿勢が見られますが、朝倉先生は、否定や批判の言葉をきちんと汲み取り、ちゃんと受け止めることがとても重要と話されました。
最後に、テクノ法要の今後について言及。当初の想定をはるかに超えた今でも、「地域の方々に照恩寺へ興味を持ってもらうという目標は変わらない」と話す朝倉先生。しかし、多くのご縁の中で、変化を続けるのは当然のことで、その事実こそ仏教者として受け止めなければならないと締めくくりました。
実践真宗学研究科シンポジウムレポート、第3回はテクノ法要についての提言の様子をお届けしました。
次回は、クロストークの様子をレポートします。
第2回|これまでの伝道を捉え直す 〜節談説教〜
第3回|これからの伝道を考える〜テクノ法要〜(当記事)
第4回|大切なのは、とらわれないこと。
Profile
【経歴】福井県出身。龍谷大学在学中からDJや舞台照明オペレーターを経験。新しい仏教表現の試みとして「テクノ法要」を考案、実施。SNSヤメディアで注目を集める。築地本願寺、名古屋東別院、東京国立博物館、ニコニコ超会議などの国内イベントや、アメリカのBURNING MAN、フランスのDharma Technoなどの海外イベントに参加、また、DOMMUNEでのパフォーマンスは、全世界に向けて発信された。現在、タワーレコードより「テクノ法要 第1集〜光のつながり〜」を発売中。