「物語」で読み解く 仏教 第1話 「老僧の年隠したる事」後半—『季刊せいてん』106号掲載

「物語」で読み解く 仏教 第1話 「老僧の年隠したる事」後半—『季刊せいてん』106号掲載
 
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「物語」で読み解く 仏教第1話 「老僧の年隠したる事」
 
『季刊せいてん』106号掲載 龍谷大学特任講師(現 龍谷大学准教授) 野呂 靖(のろ・せい)
 
 
教科書としての説話集
 
いかがでしたでしょうか。日常の何気ない出来事を通して平易に仏法を語る。これが「説話集」の醍醐味です。
実は親鸞聖人が生きられた時代、中世の僧侶や貴族たちは幼少時にこうした物語を手引として仏教の世界に触れていました。例えば、平安時代後期の源為憲(みなもとのためのり)(?〜一〇一一)が編纂(へんさん)した『三宝絵詞(さんぼうえことば)』は、釈尊や仏弟子の生涯などさまざまなエピソードが連ねられたきわめて興味深い仏教説話集ですが、これは一七歳で出家した尊子内親王(たかこないしんのう)(九六六〜九八五)がはじめて仏教を勉強するときのために書かれたものです。
また、寺院に入り修行する子供たち(幼童)が一五歳までに勉強しておくべき典籍のリスト(『連々令稽古双紙以下之事(れんれんにけいこせしむるそうしいげのこと)』東京大学史料編纂所蔵)には、今回とりあげた『沙石集』の他、『十訓抄(じっきんしよう)』『保元物語(ほうげんものがたり)』『太平記(たいへいき)』『三宝絵詞』などなど多くの説話集や物語集が挙げられています。難解な教えだけではなく、豊富な物語を含んだこれらの典籍を通して、子どもたちは仏教の世界に無理なく入っていったのでしょう。なにより長じて僧侶となってからも、本格的な聖教の読解や、あるいは説法の折々に、こうした物語で得た知識は大いに活用されたはずです。まさに中世の人々にとって説話集は仏法の「教科書」であったのです。
次回から私たちもこの「教科書」を頼りに「はじめの一歩」を踏み出していきましょう。
 
 
【ひとくちメモ】説話・物語・経典
 
「説話」や「物語」という言葉。現在では話(はなし)そのものを指す言葉として使われていますが、そもそもは文字通り「話すこと」「ものがたること」を意味していました。さまざまな出来事や話題を「口伝え」(口頭伝承(こうとうでんしよう)してきたもの、それが説話や物語なのです。「昔々あるところに…」で始まる昔話や、「…と語り伝えたるとや」で各話が終る『今昔物語集』などに、その名残をうかがうことができます。
「語られたもの」であるということは、必ず「語られた相手(聞き手)」がいたはずです。説法や議論のなか、あるいは井戸端会議のような雑談のなかなど、語り手と聞き手のいる「場」から生れたものだからこそ、そこには生き生きとした仏教の姿が残されているのでしょう。
さて、「聞き手」に対して「語られた」ものといえば、なんといっても経典の存在を忘れてはなりません。「如是我聞(にょぜがもん)(このように私は聞いた)」の言葉が示すように、経典は多くのお弟子方の前で話された内容を、「聞き手」が伝承することで今日まで続いてきたものです。ですから、聴衆がきちんと仏法を理解できるようにと、お釈迦さまは聞き手のレベルにあわせて、さまざまな昔話や譬喩(ひゆ)をたくみに用いながら語られます。ジャータカ(本生譚(ほんじょうたん)/お釈迦さまの前世のエピソード)やアヴァダーナ(教えをわかりやすく伝えるための譬喩説話)をはじめ、広く人々の救済を願う大乗仏教の経典に登場する譬喩や因縁譚(いんねんたん)は、まさに仏法を伝えようとして「物語られた」ものなのです。
さて今、「聞き手」とは誰のことでしょうか。経典を紐解(ひもと)き、説話を読むという行為を通して、「私」の前にさまざまな「語り手」たちが登場し、今語りかけてきています。「説話を読む」ということは、そうした「聞き手」としての「私」と「語り手」との間に立ち上がってくるライブな体験なのです。
 

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編集/浄土真宗本願寺派 総合研究所

発行/浄土真宗本願寺派 本願寺出版社

 
季刊せいてん No.106 2014春の号より転載
著者:浄土真宗本願寺派 総合研究所
判型:B5判
定価:¥700(本体¥649+税)
※売り切れの号もございます。