亡くなった後のことをどうしていますか?死後事務委任を考える|おおさか法務事務所②

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亡くなったら全部、終わり!
死んだら何にも心配がない!
 
と言われる方もいるかもしれませんが、実際には自分が亡くなった後には様々なことが行われています。葬儀・納骨・部屋の片付け・ペットの処遇⋯⋯。今回は、後見サポートの事業で成年後見人の役割を通してみえてきた、死後の事務「死後事務委任契約」について司法書士法人おおさか法務事務所の後見サポートに携わる坂西涼さんにお話をうかがいます。
 
※死後事務委任契約とは、「葬儀や納骨、家財道具等の処分、行政への手続等を第三者に 委任できる契約」(参考)京都市情報館ウェブサイト
 
 

<司法書士法人おおさか法務事務所インタビュー>
①介護・医療現場で起こる悩みにこたえていく、成年後見について
②亡くなった後のことをどうしていますか?死後事務を考える
③後見人ってこんな仕事!お金のトラブルを回避
④法律の専門家が考えるお寺の役割。心の不安を減らす安心の拠り所とは?

 
 
正解が1つではない、成年後見人の役割
 
ーー成年後見人の役割を詳しくお聞きしていいでしょうか?


 
坂西:成年後見人は、適正な財産管理をおこないます。本人の代わりにしっかりとお金を管理していくんですね。
「本人がどういったものを買いたいのか?」など細かいところまで判断します。そういう意味では、本人の生活を知ることが大事なんですね。どういう人生を歩んできたかとか。
ただ表面的にみると、通帳を預かるので、認知症の方の場合、お金を代わりに管理するということ自体が理解できない方も多かったりもします。
 
 
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ご本人にタバコやお酒といった嗜好品をどこまで許すのか?ですね。難しいですよ。
ある方の場合は、アルコールを許容した結果、アルコール中毒になり、入院されたこともあります。しかし、飲酒を辞めてしまって、本人に「生きてる意味がない!」と言われたりもしました。
人なので、一人として同じ方はいないです。
 
ーーそれは難しいですね。アルコールを本人が飲みたい、ということですもんね。認知症になったら、アルコールの分量も自分では調整もできなさそうですし⋯⋯。
 
坂西:人にとって、お金は精神安定の1つの材料でもあります。特に子どもがおられない方など、これまで他人を頼らずに生きてきた!というお気持ちも強いので、100万、200万単位でお金を手元に置いておかないと、安心できないという方もいらっしゃいます。
 
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しかし、客観的に見ると、そんなに現金を置いていると、危ないですよね。
それで、お金をご本人の手元にどれだけ置いておくかで、本人と押し問答になることもあります。
他によくあるのは、自宅に住み続けたい、という思いをどこまで汲みとるかですね。本人は何度も自宅で転倒して、行く度に顔にアザができていたり⋯⋯荷物も多いので、そういったものを整理しようとすると、「捨てんといてくれ。それはわしの大事なものやから」と。
 
これも、客観的にみると、施設に入ってもらった方が、安全です。しかし、ご本人は「50年暮らした住み慣れた自宅で生きていきたい。住みたいんや」と思われています。
 
成年後見人は、本人の意思を尊重しながら、介護の方達とも話をして、財産の管理とか契約を代わりにしていくことが、仕事の本質で制度の趣旨なんですね。
でも、それは一律に「こういうものが正解です!」とは言えません。僕は本人の「間違う権利」もあるんじゃないかと思っています。その「間違う権利」を、僕たちがどこまで認めるか⋯⋯。毎回、答えは出ません。
最善はなくても、ベターを探し続けるのが後見人のあるべき姿ではないかと僕は思っています。
 
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(おおさか法務事務所ウェブサイトより)

ーー人によっては、人生を短く太く生きたいんだ!っていう人もいらっしゃると思います。ですが、その方の親戚の方から文句やクレームを言われたり、責任を問われる可能性があるように思いますが⋯⋯。
坂西:だからこそ、私たちとご本人のコミュニケーション、親族とのコミュニケーションが大事になってきます。
 
例えば、肺が弱い方で、本人が「タバコを吸いたい」と言われるので、吸ってもらっていました。そうすると、「なんでこんなに好き勝手させてたんだ!」と家族から言われますね。
ですが、本人が吸いたい!ってなったら、客観的に「吸ってはダメ!」では通じませんし、それが本人にとって本当に良いことかどうかも判断が難しいです。
 
僕たちと本人やそのご家族との関係は近すぎてもダメで、突き放してもダメです。非常に人間力が問われる仕事ですね。コミュニケーションの不足が、成年後見制度でもめてしまう一番の要因かなぁと思いますね。
 
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お節介という役割


 
坂西:財産管理をする上で、最後に大きな問題が残ります。亡くなった後の問題は、「死後事務」といって、後見人が本来は対応することを予定されていない事務が残ります。
亡くなってからのお葬式をどうするのか?とかね。これを僕は、悩み続けてます。
 
 
ーーそれは、生前に契約されるんですか?
 
坂西:原則はできないんですね。生前は無理なんです。本人が認知症の場合、あくまで僕らができるのは本人が生きるために必要な契約、それを後見人はしていくことになるんですね。
亡くなった瞬間に、そこで僕たちは、後見人ではなくなるんです。生きている間のお手伝いとでもいいましょうか⋯⋯。
 
 
ーー亡くなった瞬間から後見人ではなくなる?
例えば、生前に「わしが亡くなった時は150万で葬儀をやってくれ。○○寺さんに頼んでくれ」とおっしゃてた場合はどうでしょうか?
 
坂西:そうですね。それはご本人が互助会に入っていらっしゃるとか、菩提寺さんがしっかりとあるという情報があって、私たちに委任してもらいます。そして、それに基づいての作業となりますね。
しかし、私たちは基本的に認知症になってから関わるので、その情報が入らなかったり、曖昧だったりするので、それができないこともあります。
 
 
ほとんどの方は生前に何も準備されていません。なおかつ、僕らが後見人として関わる方は子どものいない方がメインなので、後見人としての仕事が終わった後に、権限のない中で最後じゃあどうするのか?っていう問題が出てきました。
 
家族がいれば、葬儀をどういう内容にするのか?お金の支払いについても家族で相談をしていただくことができましたが、それが一人もいないとか、いても「そちらでやってくれ」と関わりを拒否されたりとか。
 
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ーーそれはどういうことなのでしょうか?
 
坂西:それは民法に事務管理という条文がありまして、契約ではないんだけど、いわゆるお節介でやってあげるというか⋯⋯。コストは基本的に本人が残した財産の中から。
 
いうなれば、お節介ですね(笑)
民法には事務管理というものがあって、そこには金額の枠はないんですね。社会相当額となっているので、それが非常に悩ましいところです。私たちがよくやるのは、祭壇を設けて、御寺院様にも来ていただくという条件で、葬儀会社が用意する一番安いプランを一定の基準としてます。葬儀費用としては、50~70万円くらいの規模でしょうか。そういったことは10年くらい前から、裁判所と相談をしました。
 
 
事務管理というのは、例えば、台風で、お隣の窓が壊れて、こちらの家にもそのお隣の壊れた窓が飛んできそう。だから、窓が壊れていない家の方が心配されて、修繕の会社を呼ぶとかですね。
頼まれてはいないけど、総合的に判断すると、窓は直したほうがいいと判断される。そして、費用はその壊れた窓の家の人に、後で請求するとかですね。色々と一応ロジックがあります。非常に弱い法的ロジックですけど⋯⋯。
 
僕も葬儀の打ち合わせを、ご家族を交えて100件近くの経験をしてきました。まだお元気な60代、70代の認知症になる前の方で、子どものいない方たちが、「僕が亡くなったら葬儀をやって欲しい」と依頼されるケースがどんどん増えてきています。
 
 
ーーそういったニーズはどこで知られるのですか?
 
坂西:主にセミナー活動ですね。認知症になる前の方やお元気な方は終活セミナーで、知られますね。家族が少なかったりする方とか遺言を残したいなどのご要望があります。
 
遺言書っていうのは財産のことだけ、つまりお金のことだけなんですね。「誰に残すか」「寄付をする」とかは決められるんですけど、財産のこと以外のいわゆる事実行為と言われること、「葬儀をする」や「納骨をする」といったことは、遺言を書いても法的拘束力がないんですね。
 
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ーー終活セミナーはどこでやられてますか?
 
坂西:様々なところでやらせてもらってます。自主開催をしてるケースもありますし、施設を紹介している紹介センターでやることもありますね。(おおさか法務事務所さんのセミナーのリンク挿入)
 
 
ーーセミナーでそういったお話も聞けるのですね。先ほど、お話しくださった「事実行為」というのは、仏事以外に何かありますか?
 
坂西:他にも沢山あります。
家財道具の処分手配もそうです。家が残ったりとか、後始末ですね。土地や家を誰かの名義にすることは遺言書自体には書けるんですが、実際にそうなった場合は、荷物をどう処分するのか?水道・電気・ガス等を止めることや、新聞を止めるとか事務的な手続きが必要となってきます。
 
 
ーーなるほど。生活の細かな所なんですね。遺品整理屋さんと呼ばれる方々もいらっしゃいますよね。
 
坂西:遺品整理の業者に頼まれる方もいらっしゃいますね。ただそういった場合、ほとんどは遺族からの依頼です。「亡くなった父の荷物を処分して欲しい」とか。
 
お葬式をしてほしい、納骨して欲しい、家財道具を処分して欲しいといった契約を、認知症になる前やお元気なうちにしてもらえれば、亡くなられても、我々が契約に基づいて実行できます。
 
 
ーーそれが死後事務委任契約というものでしょうか?
 
坂西:そうですね。「死後事務委任契約」という契約を、生前に契約として結ぶ。
これがここ3年でぐぐっと増えてます。
 
特に死後事務委任契約では、葬儀を最小限の規模でお願いしたいというお客様が多いです。
 
つまり、火葬だけでいいと本人は思っています。ですが残されたご家族は、最期にきっちりとお別れしたいと思うのです。なので「もう、直葬でいい」っていうお客様に、一度は立ち止まって考えていただくのです。
 
あるお客様から、葬儀や納骨を頼まれて全部やらせてもらい、その後に「終わりました」とお客様に電話したのですが、こう言われてしまいました。
『坂西さん。あなた、仕事として頼まれて葬儀とかを全部やってくれたんだけど、大事な兄弟の葬儀とか全て終わった後に、司法書士から電話で「終わりました!」って連絡もらった時にどういう気持ちになると思う?
それは契約やから仕方ないやろうけれども、人としてどう思う?自分の兄弟が亡くなった時にそういわれるのは?』

こうした苦い経験が仕事を始めた頃にありました。
 
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それからは、お客様とお話しをして、お葬式っていうのやっぱり大事なものですよってことをお伝えして、もう一度考えていただくようにしました。なので、直葬については、僕には特別な想いがあります。
 
ーー
 
財産管理という、お金の管理を担う成年後見人。しかし、そこに至るまでに坂西さんが真剣に利用者と向き合い、その方の人生をしっかり、じっくりと聞いていく真摯な姿がインタビューから感じられました。
より豊かに最期まで生きるための正解の道とはなんなのか?何がご本人にとって一番良い選択なのか?成年後見人だけでなく、介護に関わっていくすべての人が問い続けていく大事なことなように思います。
 
次回は、成年後見人の方が実際にどのようなことをされているかをお聞きし、成年後見人制度のメリット・デメリットについて考えていきます。
司法書士法人おおさか法務事務所「後見サポート」についてはこちら、https://olao.jp/support/
 
 

<司法書士法人おおさか法務事務所インタビュー>
①介護・医療現場で起こる悩みにこたえていく、成年後見について
②亡くなった後のことをどうしていますか?死後事務を考える
③後見人ってこんな仕事!お金のトラブルを回避
④法律の専門家が考えるお寺の役割。心の不安を減らす安心の拠り所とは?

   

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掲載日: 2020.03.13

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