これまでの伝道を捉え直す 〜節談説教〜|龍谷大学シンポジウムレポート②

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節談説教を実演する杉本先生
先月11月21日に行われた、実践真宗学研究科シンポジウム「伝道を考える」レポート第2回です。
貴島先生からの問題提起、提言が行われたあと、直林不退先生による提言がなされました。その後、節談説教研究会理事の杉本光昭先生より、節談説教の実演が行われます。節談説教とは、どのようなものでしょうか?
今回は、節談説教についての直林先生の提言と、杉本先生による実演についてレポートします。
 
節談説教とは?
 
節談説教とは、仏教を伝える時の話し方に特徴ある抑揚(フシ)をつけ、人々に対してより伝わりやすいように工夫されたものです。直林先生は提言の中で、節談説教の持つ特徴を丁寧に紹介されました。
 
杉本先生2
節談説教の特徴として「身振り手振り」「ハナシとフシ」とのはっきりしない切れ目、「五段法」といったものがあります。また、高座という限られた場所で説教を行うことから、原稿や黒板、現代ではパワーポイントといったツールが使いづらいという点も特徴の一つです。ゆえに、「言葉だけで聴者の耳に残る話術がどうしても必要とされてきた」と直林先生。
 
特に、「フシ」の取り扱いには注意を払わなければならないといいます。直林先生は、「フシには言葉を冷凍保存する役割がある」と主張された藤田隆則氏の論を紹介されました。
 
これは、言葉自体の意味は分からずとも、それが音として人の心の中に「冷凍保存」され、その冷凍保存された言葉が、その後何らかの縁によって(氷が解けるように)意味がわかるようになるということです。
 
講演する直林先生
「間」にみられる語りの特色
 
また、直林先生は節談説教の持つもう一つの特徴として、ことばの末尾を引き延ばす技法があると紹介されました。この技法は、例えば「ナモアミダブの六字なりぃ〜」といった、文字通り語尾を引き伸ばして発声するテクニックのことで、節談説教が盛んであった江戸時代、マイクといった音響設備がなかった頃に、広い堂内の隅々まで音声を届けるために編み出されたものだそうです。
 
そして、語尾を引き延ばしている「間」に、お同行(聴者)から「ナンマンダブ」とお念仏の声が自然と溢れる、「受け念仏」と呼ばれる効果も見られると述べられました。
「語尾がぷつんと切れる終わり方では、念仏をとなえる「間」が用意されないので、「受け念仏」も期待できない」と直林先生。語尾を引き延ばすという技法が、結果的に念仏をとなえやすい空気を醸し出したのではないかと結ばれました。
 
ハードは昔ながら、ソフトは今風に
 
杉本先生3
直林先生の提言ののち、節談説教研究会理事の杉本光昭先生による実演が行われました。
高座に登り、合掌礼拝ののち、節談説教の実演が始まります。独特の節回しを用いて説教を行うその姿は圧巻です。最初に仏教の言葉を伝え、その後にその言葉の意味、最後に意味を踏まえた例え話を展開されました。
 
仏教のお言葉の意味を伝えたあと、「念仏」についてのたとえ話が始まります。
「節談説教」はそのイメージから、どうしても話が昔の内容であると捉えてしまうかもしれません。しかし、杉本先生から飛び出した言葉は「テレビ」と「リモコン」。伝え方は昔ながらの様式でも、その内容は時代に合わせて進化させているのがうかがえます。
 
その後の話題も、携帯電話のメールをやりとりする、おばあちゃんと孫というエピソードから仏教の教えを説くというものでした。独特な節回しの中で繰り広げられる、身近で現代的な話題は、多くの方の心に届いたのではないでしょうか。
 
節談説教は何を生み出したか?
 
節談説教の持つ長い歴史の中で、どのような念仏者が育っていったのでしょうか。直林先生は、「情緒豊かな説教をなんども聴き続けた結果、仏法を頭で理解するのではなく、身をもって受け入れることができたのではないか」と解説。念仏が人々にとっての生活の糧となり、生活の中に溶け込む存在となっていたのではないでしょうか。
 
長い間、人々の生活の中に仏教を伝え続けてきた節談説教。近代化の波で、一時は消滅の危機に立たされていたものに、再び光が当てられてからおよそ10年。時には厳しい批判とも向き合いながら、将来の伝道へと繋がる可能性を探し続けてきました。
 
直林先生は「科学的合理主義が取り巻く現代社会だからこそ、情緒性の成熟が求められる時ではないか」と投げかけられました。
学問的な知識の理解を超えて、人々の情に訴えかける節談説教。先人の知恵が、仏教界に直面する危機的状況を打破するヒントになりえるかもしれません。
 
今回は、長い伝統を持つ節談説教について直林先生の講演、杉本先生の実演を取り上げました。次回は最新技術を用いた伝道方法の1つである、「テクノ法要」を行う朝倉行宣先生の提言について取り上げます。
 

龍谷大学シンポジウムレポート記事
第1回|現代で仏教を伝えるには?
第2回|これまでの伝道を捉え直す 〜節談説教〜(当記事)
第3回|これからの伝道を考える〜テクノ法要〜
第4回|大切なのは、とらわれないこと。

 
Profile
 

 

直林 不退(相愛大学客員教授)
【経歴】群馬県出身。龍谷大学大学院文学研究科国史学専攻博士課程単位首取得。博士(文学・花園大学)。龍谷大学・佛教大学・花園大学各非常勤講師、相愛大学准教授、教授を歴任。現在・相愛大学客員教授、節談説教研究会副会長、滋賀県浄宗寺住職。
【著書】『節談椿原流の説教者』(永田文昌堂)、『妙好人、日暮しの中にほとばしる真実』(佼成出版社)。DVD構成解説『範浄文雄説教集』(国書刊行会)など。

 

 

杉本 光昭(節談説教研究会理事)
【経歴】兵庫県出身。岩手医科大学歯学部卒業。大阪大学歯学部付属病院医員研修医、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(ULCA)Maxillofacial Prosthetics専攻を経て現職。三田市にて杉本歯科医院を開業し、歯科医師として活躍しながら自死遺族サポート「虹玉の会」を主宰。主な所属先は、日本歯科補綴学会、日本緩和医療学会、十方会(兵庫教区の布教使団体)、兵庫県光澤寺住職。
   

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掲載日: 2019.12.27

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