お寺の研究をして、まちの見え方が変わったハナシ(後編)

6月11日、兵庫県尼崎市にある西正寺さんにて、ある大学生の卒業論文研究発表会が行われました。大阪大学の大学院生である、井口奏子(いぐちかなこ)さんは昨年の5月より西正寺さんをフィールドに、卒業研究を行なっていました。その研究で明らかになったことを発表をするとともに、お世話になった方々に感謝の気持ちを伝えるべく、研究発表会を開かれたそうです。以前より、西正寺さんではお寺でカレーを食べるイベント「カリー寺」(http://currytemple.com/)や社会問題を取り上げ、参加者同士で話し合い、考えるイベント「寺からはじまるこれからのハナシ(通称テラハ)」等、地域に向けたイベントを積極的に開催しておられました。

井口さんの研究は、そのようなイベントを通して、どのような「場」が形成されたか、またどのようなコミュニティが形成されたかを明らかにしようとするものです。
こうした研究は、今後の寺院運営のヒントとなるのではないでしょうか。彼女の研究について取材をさせていただきました。
後編では、コミュニティの遷り変わりと構造について取り上げます。(前編の記事はこちらをご覧ください)
 
コミュニティの遷り変わりと構造
 
続けて、西正寺を取り巻くコミュニティについて解説。2012年から2014年の期間は、従来の檀家コミュニティが中心でした。ところが、2015年に中平さんと藤本さんが出会うことで方向が変わります。2016年のカリー寺の開催を皮切りに、参加型コミュニティが形成されます。そこからイベントのみに参加する「ライト層」も出現し、2017年から参加型コミュニティが拡大、それまでは参加者が徒歩圏内に居住されている方々だったのが市内全域へと拡大します。そして、2018年になると近隣のみならず尼崎市外の方の参加が目立つようになります。

このことから、檀家コミュニティがお寺の周辺で固定的であるのに対して、参加型コミュニティは流動的で広域化している傾向があることが伺えます。

また、参加型コミュニティが成立した主な要因として、
 
・尼崎市民に従来より積極的な人が多かった
・活動主体となる人をうまく取り込めた
 
という2つの大きな要素が挙げられるとのことです。その背景には、先述のイベントスペースの存在も影響を及ぼしていると思われます。

では、形成されたコミュニティはどのような構造となっているのでしょうか。井口さんは、KJ法(ケージェーホウ)と呼ばれるインタビューの研究手法によって調査をされました。先述したキーパーソンの2人に加え、檀家3人、イベント参加者9人の計12人が調査対象です。

(KJ法…インタビュー内容を細かく分類、そこからカテゴリー分けをして、それぞれの関係性を分析する研究手法のこと。)
 
中平住職にお寺でイベントを開くことについて尋ねると、「お寺らしさがあって、何か他のものに置き換えられない価値があるのではないか」という意見を得られました。これを井口さんは「スピリチュアル的特性」と定義します。この特性があるということを前提として場のデザインがされているのではという考察です。一方で、この特性をイベント参加者に押し付けることはかえっていづらさを招くという意見も得られました。場のコンセプトについても、押し付けないことを意識して「ありのままが受け容れられる場所」「そのままでいい場所」、イベンターの藤本さんも「何の目的もなくだらだらできる場所」を意識して場のデザインをしているそうです。

「檀家コミュニティ」と「参加型コミュニティ」という2つのコミュニティがある西正寺。檀家の方々は「参加型コミュニティ」についてどう思っているのでしょうか。調査で3人の檀家にインタビューをしたところ、参加者が積極的に西正寺へ関わってもらえればという好意的な意見が見られました。
 
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あいまいな「お寺の良さ」とコミュニティの共存
 
西正寺に人が集まる要因の一つに、公民館や学校といった拠点や集う場所とは一線を画す、お寺の持つ良さがあるのではないかと分析できます。

また、キーパーソンである中平住職が「お寺の特性を意識しつつも参加者に押し付けない」スタンスが、多くの人がお寺へ来やすい環境を育んだということでしょう。
 
それだけではなく、参加型コミュニティの方にインタビューをした結果「お寺っていうのが、なんだろう安心感を感じる」と言った意見や他のイベントスペースにはない場の力があるといった趣旨の回答があり、明確に表現はできないけれども「なんとなく」居心地が良いというあいまいな性質がポイントのようです。こうした、西正寺の持つ独特の特性が参加者に良い影響を与えており、場所として成立しているのではないでしょうか。そして、従来より寺院と付き合いのある檀家コミュニティは、法要や法座で「スピリチュアル的特性」に触れる機会が多いと井口さんは主張します。また、彼らは参加型コミュニティに対して肯定的な意見を持っており、ここに2つのコミュニティが共存しているということが言えるでしょう。コミュニティの共存によって人と人との交流が活性化し、寺院としての魅力もより深まるのかもしれません。
 
「お寺」は「お寺」なんだ
 
このように、イベントやコミュニティという複数の視点から考察を行った井口さん。「檀家コミュニティ」と「参加型コミュニティ」という2つのコミュニティが共存できる「場」として西正寺は成立していると結論づけられました。発表の後、中平住職からもコメントをいただきました。これまでに西正寺で行われたイベントを振り返りつつ、「人々の日常生活にお寺が溶け込んでいくことがうれしい」と話します。そして、「お寺とは何かと問われた時に、公民館や学校のような場所とは置き換えられない、お寺はお寺なんだ」と言える価値を発揮することが今後のあるべき姿であると語りました。
 
イベントに対して積極的な方が多くいらっしゃる地域性、その中で光るイベンターの存在といった、その地域の特性をうまく取り入れることができているのではないでしょうか。「開かれたお寺」を目指す上で、コミュニティと一緒に活動することは大切なことであると気づかされる研究発表でした。そして、開かれたお寺が実現すると檀家コミュニティと参加者コミュニティという2つのコミュニティが形成されることとなります。2つのコミュニティをうまく共存させる取り組みについても考えなければならないのではないでしょうか。
 
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井口奏子さん大阪大学大学院修士課程前期・尼崎ENGAWA化計画インターン生。

建築・都市計画を学びながら、尼崎にてまちに関わる体験をきっかけに、「まちのおもしろさを引き出したい」と思うようになる。
 
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