テクノ法要は「温故知新」?|朝倉 行宣さんインタビュー<後編>

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中学時代からとにかく音楽が好きだった朝倉さん。お寺を継ぎたくないとの思いもあり、音楽の道へと進まれます。しかし、音楽の仕事を続ける中で仏教の面白さに気づかれました。
そして、福井の所属寺へ戻ることを決意。ところが、そこへ戻って目の当たりにしたのは、参拝者の減少でした。
「何か取り組まなければ」。募る危機感の中、テクノ法要は以前より朝倉さんが楽しんでいた「遊び」がきっかけで生まれたといいます。
 
インタビュー後編では、テクノ法要を始められた経緯についてお尋ねしました。
 

 

テクノ法要が始まったきっかけ

 
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ーーテクノ法要を考案されたきっかけを教えてください。
 
朝倉:やはり、一番はお参りの方が減っていく現状を目の当たりにしたことです。私が所属している照恩寺のご門徒さんは、ご年配の方が多く、年を重ねるにつれて、病気や怪我で来られなくなったり、亡くなられたり……。かと言って新しくお参りされる方がいらっしゃるわけでもない。このままだと将来ご門徒さんの数はゼロになってしまうなと思いました。とにかく新しく何かしないといけないと焦っていましたね。
 
ーーテクノ法要以外にも何か取り組みをされていたのですか?
 
朝倉:子どもを対象とした活動は20年くらい前からやっていました。夏休み期間中に、近くで遊んでいる子どもたちを呼んで、一緒に正信偈をお勤めしたり、子ども報恩講を企画したりしました。ですが、なかなか子どもたちのお父さんやお母さん世代の方はお参りに来られませんでした。どのようにして、彼らにお寺に興味を持ってもらおうか?と考えていたときに、テクノ法要を思いつきました。
 
ーー若い世代の方を呼び込もうとしたことが出発点だったのですね。確かに、音楽を入り口にすると興味を持ってもらいやすいかもしれません。
 
朝倉:そうですね。そして、私はこれまでずっと音楽をやってきましたから、その経験を活かして何かできないかと。それで、正信偈にトラックをつけて、声も自分で録音して音源を作成しました。その時は遊び半分でしたが、これが後に「テクノ法要」となるわけです。
 
ーー不安はありましたか?
 
朝倉:もちろんありました。こんなのやって大丈夫なのかなと、怒られるんじゃないかなと思っていました。ですが、住職にならせていただく時、前住職(父親)には好きなようにやったら良いと言われていましたし、何より妻に「怒られたらやめればいいんじゃない?とりあえずやってみないと」と、ケツを叩かれたのが決め手でした(笑)。
 
ーー奥さまの後押しが決め手だったのですね。
 
朝倉:そうですね。そして、実際にテクノ法要を始める前に、前住職や門徒総代の方に趣旨の説明をしなければと思い、インターネットで前例を検索しました。誰かやっているだろうと。
ですが、前例が全く見つからなかったんですよ。お坊さんがバンドを組んでいたり、お寺でコンサートを行うといった取り組みは見つかりましたが、お勤めをアレンジする例はなかったのです。
言葉でテクノ法要を説明しようにも、なかなか難しく、結局「とにかく何かするから!」とだけ伝えて、細かな相談は全くしませんでしたね。さすがに皆さん不安そうな顔をされていました(笑)。
 

複数台のプロジェクターを駆使して

 
ーー照明はどのような段取りで組みこんだのでしょうか?
 
朝倉:もともとは舞台照明で法要をやりたかったのです。ムービングライトやレーザーを活用して演出する方法ですね。それで、イベント会社へ勤めている私の知人へ相談したのですが、費用が高額でした。
何か他に方法はないかと考えていたところ、「プロジェクターで光の演出をすると面白いんじゃないか」とその方に提案されて、実施に至ったわけです。家庭用のプロジェクターで投影しているので、費用もそれほどかかりません。
 
image5テクノ法要で用いるプロジェクター。BenQ社製の家庭用を使用している。現在は3台稼働しており、うち2台で本堂を照らす。残り1台は字幕用。
 
ーープロジェクターは家庭用なんですね!意外です。投影する内容はどのように考案されたのですか?
 
朝倉:これもイベント会社へ勤めている私の知人がVJ(注)を紹介してくださって、当初はその方にプログラムをコントロールしてもらっていました。現在はAdobeの動画編集ソフトで投影のプログラムを作成しています。また、投影も音に合わせて変化するプログラムを組みました。なので今は一人でもお勤めができるようになっています。
 
注:VJービジュアルジョッキー、クラブやディスコ等で、音楽にあわせて映像等を流す役割を担う。
 
image6テクノ法要で用いるPC。macbookにadobeソフトをインストールしてプログラムを制御している。現在は自動化されており、法要に集中できるようになっている。万が一の機器トラブルに備えて、経卓に設置しているという。
 

「正信偈ってやっぱり綺麗だね」初めて行われたテクノ法要

 
ーー初めてのテクノ法要はどんな様子でしたか?
 
朝倉:テクノ法要は花祭りで初めて行いました。チラシを作成して、それから若い方がターゲットなので、SNSでも告知をしましたね。
そして当日は60人くらいの方がお参りに来られました。いつもは報恩講でも30人くらいなので、ちょっと多いかなという印象でした。いつもお参りに来られているご門徒さんに加えて、SNSで繋がっている私の友人もお参りに来てくれました。
 
image4テクノ法要中に投影される経文は、内陣の扉にDIYで取り付けられた和紙に投影されている。経文の投影技術は「テクノ法要を見ていると経本を読めない」という声がきっかけで、「ニコニコ動画」を展開するドワンゴ社の協力を得て実現したという。
 
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ーー初めてのテクノ法要、手応えはどうでしたか?
 
朝倉:やっぱり、これまでもお参りに来てくださっているご門徒の方々がテクノ法要を悪く思われないかが一番不安でした。なので、お勤め中にチラチラと彼らの様子をうかがっていたのですが、驚いたことに、みなさんはいつもと同じように一緒にお勤めをしてくださっていたんですね。そしてお勤めが終わると「南無阿弥陀仏」といつもと同じようにお念仏の声が聞こえてくるんです。その瞬間「これはやって良かった」と思いましたね。感動すら覚えました。
 
ーー拒絶されなくて本当に良かったです。
 
朝倉:最初は正信偈をアレンジしましたが、できるだけこれまでの正信偈のお勤めの形を崩さないようにしたのです。なので、いつものお勤めと同じように捉えてくださったのかもしれません。
 
ーーオリジナルの形を崩さなかったのはなぜでしょう?
 
朝倉:もともとの正信偈のお勤めを美しいと思っているからです。正信偈だけではなく、六時礼讃もかっこいいですよね。テクノ法要を始めた背景が、単にテクノ法要だけを広めるのが目的ではなく、オリジナルの形を知ってほしいからです。そして「正信偈ってやっぱり綺麗だね」と言ってもらいたいんですよね。
それに、素晴らしいと思っているので、リミックスにもやりがいを感じられました。
 
ーー新しいことをするというよりは、温故知新を大切にされているということでしょうか?
 
朝倉:全くその通りです。多分、1000年前に光やパソコンがあったら活用されていると思うんです。当時は金箔や彫刻が最先端の技術でした。本堂はいわばその賜物ですよね。でもそれは宗教家だけではなく、当時のクリエイターと一緒に作り上げたものだと思うのです。僕はそこにすごくロマンを感じるし、今それをやっても良いんじゃないかなと。
 
ーー他のお寺や仏教界からの反応はどうでしたか?
 
朝倉:最初は「何か奇抜なことをやっている」という目で見られていました。ですが、テクノ法要の意図が伝わると、賛同していただける方も増えましたね。今では浄土真宗だけではなく、他宗派の寺院から出演依頼を受けることもありますよ。ただ、私はみんながテクノ法要を同じように行えば良いとは思っていなくて、どんどん新しい取り組みにチャレンジしてほしいです。
 
ーー朝倉さんご自身は今後どのようなことにチャレンジしたいですか?
 
朝倉:実は、私は具体的に何も考えていないんです。今は目の前のイベントに向けてテクノ法要のアップデートを続けていくという感じでしょうか。常に物事は変化し続ける、「諸行無常」を体現するのがお坊さんとして大切なのではないかと思っています。
 

編集後記

 
意外にも、遊び心から始まったテクノ法要。しかし、浄土真宗のお勤めに対する想いは真剣そのものです。だからこそ、ご門徒の方々にも、仏教界の方々にも受け入れられたのではないでしょうか。「テクノ法要にとらわれず、新たな取り組みに挑戦してほしい」と話す朝倉さん。単に注目を集めるために奇抜な取り組みを行うのではなく、「素晴らしい仏教の教えを伝えたい」という朝倉さんの真剣な想いが伝わるインタビューでした。
朝倉行宣さん ありがとうございました。

 

朝倉行宣さんプロフィール

 

 

朝倉行宣さん・・・ 浄土真宗本願寺派、福井・照恩寺の17代目住職。中高生時代から音楽に傾倒し、大学在学中にDJや音楽制作を開始。2015年に父から住職を引き継ぎ、プロジェクション・マッピングとテクノ・ミュージックに合わせて読経する「テクノ法要」を考案した。
   

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掲載日: 2020.03.19

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