「まぁいいかと思える社会を目指して|平井万紀子さんインタビュー②

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仕事中ちょっとしたミスをしたとき、「やっちゃったな⋯⋯」と萎縮したり、落ち込んだりすることはありませんか?
反対に、誰かのミスがわかったら、ちょっと怒ってしまったり、イライラしてしまったことは、多くの人が経験することかもしれません。
 
今回インタビューさせていただいた平井 万紀子(ひらい・まきこ)さんは、そんな人にも「まぁいいやん」と笑顔で返せるような、より生きやすい社会を目指して認知症の方と一緒に活動する「まぁいいかcafe」を企画されています。
 
認知症の方とともに活動する京都・まぁいいかcafe(注文をまちがえるリストランテ)。このイベントでの特別な時間を通して、認知症の有無にかかわらず社会全体に「まぁいいか」と思えるあたたかな時間が少しずつ増えたら⋯⋯と。
前回に引き続き、京都・まぁいいかcafe(注文をまちがえるリストランテ)を企画されている、平井万紀子さんに、企画側・参加者・キャストの方の想いを聞いていきます。
 
 

 
 
――実際に動いてくださる認知症の方を「キャスト」と呼ばれていますが、キャストの皆さんは実際にどんなことをされるのですか?
 
平井:ほとんど全部やってくださいます。お水を持って行くことから、注文聞きに行くこと、メニュー表がテーブルになければ持って行くこと、お水を足しに行くのもそうだし、お皿を下げるのもしてくれます。
キャストの認知症の度合いについては、とくに決まりがあるわけではありません。MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)という認知症になる一歩手前みたいな状態があるんですけど、その方も含めています。
ただ、心身の状態がある程度良好である方がのぞましいですね。自立歩行やトイレができ、コミュニケーションが取れる方です。あとは、家族もしくは近くの介護者の方が同行してくださる方ですね。
 

 

社会にある課題は「ある人」「ない人」ではなく、社会受容の問題である。「まぁいいか」っていいよね。

 
――とはいえ認知症の人もそうでない人も、ミスをすることはあると思います。今までトラブルなどはありませんでしたか?
 
平井:ありがたいことに今まではトラブルは一度もなかったです。
社会にはいろんな課題がありますよね。認知症もそういった課題の一つだと思います。この活動を始める以前、私自身「課題がある人」と「課題のない人」って自分の中で分けていたような気がします。でも、この活動を通して、「社会課題」は「社会受容の問題」でもあるということを聞いたんですね。
 
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それを聞いた時にとても素敵だなぁって思ったんです。課題のある人が改善していくわけではなくて、受容する側が「まぁいいか」と受け入れられるようになったら、問題にならないことが多いんじゃないか、と。
 
日本の学校教育では「こうしなければならない」や「こうであるべき」を無意識に取り入れられている気がします。英語で言うと”must”とか”have to”とかです。それはそれで必要なときもあるんだけど、なんというか、そこには「まぁいいやん」っていう雰囲気がないですよね。もちろん犯罪は絶対に許されないんですけど。
受容する側が「ちょっと遅くてもまぁいいやん」とか、「ちょっと間違えているけど、まぁいいや」という感覚が少しでも持てれば、あたたかい社会が広まっていくんじゃないかと思ったんですね。
 

いくつになっても、どんな人でも、間違えたくはない!

                  
――例えば「まぁいいかcafe」にお茶しに行ったとき、キャストの方が注文を間違えてもそれが当たり前だと思った方がいいのでしょうか?
 
平井:もちろん間違えることもありますが、こちらの姿勢としては、間違えることを前提にはしていません。実はこれはすごい大事なんです。
キャストの方々は間違えないようにいつもさまざまな工夫をしています。というのも、キャスト本人は間違えたくないんですよ。
「間違えることは恥ずかしいから、間違えたくない」
その思いに寄り添いたいから、出しゃばりすぎずにスタッフがフォローするようにしているんです。
 
実際いろんな方がご意見をくださいます。「(キャストに)失礼なんじゃないか」とか「キャストが間違えるのを見せびらかすのか」とか。けど、間違いを見せびらかすのではなく、参加側も一緒に受け入れていけるような雰囲気をつくりたいんです。
 
――「間違えたら恥ずかしい」「失敗したらどうしよう」という気持ちは誰もが持っていると思います。結果的に間違えてしまった時、「まぁいいか」と受け入れてもらえると、すごく安心しますね。
そんな場づくりをされる「まぁいいかcafe」。毎回たくさんの方が来られますが、どうしてここまで人気になったと思われますか?

 
平井:実は私もわからなかったんですよ。けど、先日あるイベントに参加してだんだんわかってきた気がします。
 
――「まぁいいかcafe」ではなく、イベントですか?
 
平井:2019年3月に、コミュニティデザインをされている山崎亮さんが総合ディレクターを務めた「生き方・介護・福祉のデザインを考える5日間『おい・おい・老い展』」というイベントがありました。
 
そのイベント内ではいろんなプログラムがあったのですが、その1つに面白い対談があったんです。
90歳くらいのおばあさんがインスタグラムに自分の面白い写真をアップされているのをご存知ですか?
 
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平井:その対談のメンバーが、そのおばあさん・写真家である息子さん・山崎亮さんでした。その時におばあさんのコメントを聞いて、ものすごくあたたかく、ほっとするような気持ちになったんですよ。
 
だから、「まぁいいかcafe」に来てくださる方もきっとそんな感じなのかなぁと。今の世の中、失敗が許されなかったり、ちゃんとしなかったら怒られたり、一生懸命やっているのに評価されなかったりするじゃないですか。多分みんな、そんな社会の中で一生懸命生きているにも関わらず、しんどい思いしてる人が多いんじゃないかなと思います。
 
そんな人が、なぜかここに来たらほっこりする……と感じるような、そんな空間に「まぁいいかcafe」はなれているのかなって。それだったら本当に嬉しいなって思いました。
 

介護者、支援者が本当にワクワク、楽しんでいける社会を

             
――キャストや介護者とかかわりを続けられる中で、改めて平井さんが感じることはありますか?
 
平井:この「まぁいいかcafe」企画は、介護者としての私に嬉しい企画だと思っています。キャストである母が働いている姿も見ると嬉しくなりますし、横の繋がりも生まれます。母の姿を見て私が嬉しいだけでなく、そう感じる仲間ができたことはありがたく思っています。
 
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当の本人は、すぐに忘れる場合もありますが少し言えば思い出す方もいるんですね。
私も母に「この間働いたのどうやった?」って聞くと、「楽しかったわ。できないと思っていたけどできたわ。またできるか?」っていう会話ができました。
 
私の場合、家での母との会話も増えましたね。働いている姿を見て嬉しいと思うのはその場限りですが、「まぁいいかcafe」をきっかけにして希望がちょっと見れたのと、家庭内でもそういう会話が増えたのはかなり大きいことだと思います。
 
――確かに、話題があると話しやすくなりますね。
 
平井:認知症やアルツハイマーの介護をする側って、自己犠牲的なんじゃないかとかマイナスの面をとらえられることがまだまだ多いです。もちろん、大変なことはたくさんあります。けど、そこのところを私のような介護者が発信することによって、介護者になったからこその出会いがあって、いろんなところに行かせてもらえているのも事実です。それ発信することをもし仕事にできたら、介護者、支援者、また寄り添ってる人が本当にワクワクできるようなことができたらいいなと思っていますね。
 
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「まぁいいかcafe」(注文をまちがえるリストランテ)を通して、平井さんの「お母さんと一緒に働きたい、お母さんの想いを汲み取りたい!」という一生懸命で真剣な思いが、私たちにも響いてきました。
中でも、「認知症になっても、間違えたくはない」という想いには、「間違うことはあるけど、それを当たり前と感じることとは別だ」ということに気付かせていただきました。大切に汲み取っていくべき想いです
 。
次回は、企画を実施に至るやり方や経緯を聞いていきます!
 

<京都・まぁいいかcafe(注文をまちがえるリストランテ)平井万紀子さんインタビュー>
①スーパーマーケットに隠れていたアイディア。認知症と共に
②『まぁいいか』と思える社会を目指して(当記事)
③企画するってどういうこと?色んな人からのアドバイスで成り立つ

 
 

   

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掲載日: 2020.01.16

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