準備のために死を語る│マザーリーフ 終活コミュニティ<前編>
――どんなできごとがあったのでしょうか?
小平:ある終末期のガン患者の女性からご相談を受けたんです。ご家族がお墓の面倒を見られないということで、散骨を希望するとのご相談でした。そのことをご家族もご存じなのかうかがったところ、多分反対するだろうから話していないということで、こちらからは、ご家族の同意を得たほうがいいとアドバイスしました。
ですが、ある日突然連絡が途絶えました。連絡が途絶えて一か月後ほど経ったとき、突然相談者さまのご主人から連絡が来て、「妻とどういう話をしたんですか」と聞かれました。詳細を説明しようとしたのですが、そのとき相談者さまご本人はもう何時間も生きられないという状況でした。
それから間もなく相談者さまは亡くなられました。
その後、ご親族に私が相談者さまとお話していたことを説明したところ、ご主人以外のほとんどの方が散骨には反対でした。その場で結論は出ませんでした。結論が出ないまま時が経ち、結局相談者さまのお兄さまがご実家のお墓に遺骨を入れてしまわれました。一度遺骨をお墓に入れてしまうと取り出すのは難しく、この結果にとても後悔しました。
――結果としては相談者さまの要望は受け入れられなかったわけですね。
小平:相談者さまは、おそらく遺骨のことでご親族とトラブルになる可能性を危惧して散骨を希望されていたんだと思います。考える時間があったのに、相談者さまが納得いくまでご相談ができなかったんです。
この後悔から、考えられるうちに死をきちんと学び、ご自身もご家族も安心できるように準備をしていただこうと、終活セミナーをスタートさせました。
――死の準備に年齢は関係なく、考えられるうちに学んでおくことが重要なんですね。
小平:終活セミナーは参加者の口コミなどでさまざまな方が来られるようになりました。あるとき、セミナーとして話を聞くだけではなく参加者同士で話し合うことを目的としたコミュニティを要望され、そうしてできたのが終活コミュニティです。
――一方的に学ぶだけでなく、自分が話したり聞いたりする場が求められたんですね。それはなぜだと思われますか?
小平:年齢を重ねると、だんだん友達が減っていきますよね。だったらせっかくできた新しいコミュニティなので、新しい友達を作りたいという思いがあったんだと思います。なおかつ死について語る場でできた友達だからこそ、いろんな相談もできるし、自分で自分の死を決定していくための勉強をしてほしいというこちらの思いもありました。
――年齢を重ねるほど、そういった友人はできづらくなるのかもしれませんね。
終活コミュニティではどのようなことをされていたのでしょうか?
小平:船をチャーターしての体験海洋散骨や樹木葬ツアー、納骨堂見学会なども企画しました。
体験を通して、お寺との関係、墓じまい、自分の埋葬方法を流行に左右されることなく決めてほしいからです。
遺影撮影など普段できなさそうなことをいろいろ体験しました。そうして体験して思ったことを参加者同士で話したりしていましたね。
しかし、そうすると楽しい体験ができて知識が増えるだけで、せっかく学んだことを先送りにするように、死を自分のこととして考えるという意識が薄れてくるようになったんです。ちょうどその頃、相模原のやまゆり園の事件もあって、参加者の皆さんには、楽しいだけじゃないリアルな死を考えてほしかったんです。
――死は、現実的になるほどつらいことのほうが多くなりますよね。その部分を勉強しておくことで、いざ自分や自分の親が亡くなるときの手続きや精神的な整理もしやすくなるということでしょうか。
小平:そうなんです。職業柄、人の生死に関して思うようにいかないこと、思いがけない問題にも多く直面してきました。終活コミュニティで皆さんが語っていることも大事なことですが、「リアルな死」の話じゃない。「リアルな死」をもっと前面に出さないと、自分のこととしては考えてもらえないと思いました。
そんなときデスカフェの存在を知り、終活コミュニティ内で始めるに至ったんです。
――より「リアルな死」を参加者に考えてもらいたいとデスカフェをはじめられたんですね。
<編集後記>
葬儀会社でのご経験から終活セミナーへと「死」を基盤にしたご活動をされてきた小平さん。身近に死があるからこそ抱かれた思いをお話してくださいました。
後編では、終活コミュニティや認知症カフェを経て行われたデスカフェについて、DeathCafeWeek2020のお話をお聞きします。