二人が「ボランティア僧侶」をはじめた理由|金沢豊さん&安部智海さんインタビュー<前編>
東日本大震災の被災地の仮設住宅を訪ね、そこで暮らす人の心の内に耳を傾ける「居室訪問」活動。「ボランティア僧侶」として活躍する金澤豊さんと安部智海さんに話を聞いた。
(左:安部氏、右:金澤氏)
――支援活動を始めたきっかけや、続けてこれたモチベーションは何でしょうか?
金澤:僕は印度文献学を研究してきて、「無我」や「無常」が自分の人生にどう関わってくるのか、自己中心な自分というものが、人のためにどこまでできるのか、挑戦したいという思いがありました。そして震災が発生し、被災地へ行ける人は限られている中で私は行ける環境にあった。今ここで現地に赴かなければ僧侶として生きていけない、今後歩んでいけない。踏み出さないと後悔する。直感的に、これは行くしかないと思ったんです。そして私の意志だけじゃなく、周りに追認してもらえたのが大きいですね。
安部:僕の場合はもともと、あるNPO(京都自死・自殺相談センター)で養成講座を受けた経験が影響しています。この団体は、「死にたいほどの苦悩」を抱えた方の気持ちを電話相談で受け取ることが活動の中心です。そのころ、僕は大学院とバイトの生活で将来を思い悩んでいて、周囲の人になかなか聞いてもらえない閉塞感、誰にもこの気持ちをわかってもらえない悔しさがあって。そんな中、養成講座を受けて、ひょっとして僕がしてほしかったのってこれだったのかなと、居場所をもらえたような感じがしたんです。その後震災が発生し、養成講座で学んだ姿勢で何か力になれるのではないかと考え、被災地での居室訪問活動を始めました。いまは現地で養成講座を開催していて、仲間が増えています。一人で活動していると振り返りや反省が難しいのですが、二人でやれば気付きを指摘してもらえるし、目的意識に立ち返ることができます。仲間がいるおかげで続けてこれましたね。
――被災地にほぼ常駐しての活動ですが、ご家族など大丈夫ですか?
安部:僕はいま、独り身です(笑)もし彼女がいたら、束縛したり一緒にいる時間を優先してしまうほうかもしれません。弱さが出てしまうというか……。なので、いま他の人の支援に時間を使えているのは、身軽で集中できているということかもしれません。
金澤:いま「弱さ」って出てきましたが、支援ボランティアは結構弱さを抱えていたりしますね。一般的には強い人が支援しているように見られるかもしれませんが。
安部:支援する側が元気とモチベーションをもらうところがありますね。ある意味で、弱くてもいい場所。必ずしも否定的な意味ではなく、肯定的な弱さもある気がします。現地で、僕はよく子供になめられるんです(笑)でも、僕が弱いからこそ気持ちを出してくれるし、対等に関われているような実感があります。
金澤:僕の場合は妻子を京都に残して活動していますが、被災地の子ども達と接するときはあまり自分の子を投影しないように気をつけています。あくまで目の前の子どもの気持ちが大切なので。保育所で働いていたことがあるので、よその子どもと接するのは慣れているほうかもしれません。思えば子ども達に救われてきた人生でしたね。ものごとをストレートに考える子どもの思考に憧れがあります。
安部:被災地の子どもは、子どもなりに今の現実を受け容れようとしていて。大変な中でも無邪気に恋バナをしていたり・・・強いなぁと。普通に「生きてます!」と全身で表現しているかんじで……感動しますね。
――お二人の、お互いの印象や関係はいかがですか?
安部:金澤さんはぐいぐい懐に入っていく押しの強さがあって、地域のおじさん、おばさんにすぐ気に入られるんですよ。そこに僕が付き添って行って……悩みや悲嘆を抱えた方がいらっしゃれば、お話を聞いて寄り添うというかんじです。
金澤:いろんな点で安部さんとはタイプや役割が違うかもしれませんね。先日、長期ボランティアの為の適性チェックシートで診断してみたら、僕は「自己肯定度」の数値がふりきれまして(笑)周りからは「ボランティア変態」と言われるほど、のめり込んでいます。
安部:僕の場合は、「バーンアウト(燃え尽き)」の数値がふりきれました(笑)
金澤:お互いの関係でいえば、当初ここまで深まるとは思いもしませんでした。職場の同僚としての付き合いはありましたが、もともと仲がよくも悪くもなかったですから。
最初の安部さんの印象は、頼りない男(笑)。今は見る目が変わりましたね。支援活動を通じて、自分の考えが研ぎ澄まされて、整理されてきているような。冷静に、そして自分に正直に言葉を発しているように感じます。
安部:逆に、金澤さんはあまりはっきり言わず、抱え込んでしまうほうですね。ケンカはしませんが、金澤さんが一人ですねてしまうことがあります(笑)
――タイプの違う二人だから、続けてこれたんですね。
「震災を忘れられない人がいる」ことを大切にしたい|金沢豊さん&安部智海さんインタビュー<後編>