波乱万丈の人生は、阿弥陀さまの導きだった |西守騎世将さんインタビュー<後編>

 

西守騎世将さん(画像提供:西守さん)

 
熊本県善教寺の住職であり、ヘリコプターのパイロットである西守騎世将(にしもり・きよまさ)さん。前編では、家業の跡継ぎとして育てられ、パイロットとしての道を歩んだお話をお聞かせいただきました。
後編では、そんな西守さんが僧侶になられたエピソードをお伺いします。
 

 

きっかけは2016年に発生した大地震

 
――続けて、西守さんが僧侶になられたきっかけを教えて下さい。
 
西守 騎世将さん(以下:西守):直接的なきっかけは2016年4月14日に発生した熊本地震です。私がお預かりしている善教寺は、熊本市中央区の東阿弥陀寺町というところにあり、妻の実家なんですよね。
14日の夜、仕事から帰ってきたら熊本で大きな地震があったと聞き、すぐに愛知から車で駆けつけ、翌日の夜に到着しました。夜も遅かったので親戚の家に泊めてもらい、明日からどうやって支援しようかと考えていたら突然、大きな揺れに見舞われたんです。16日の未明に発生した、本震ですね。
ドカンと突き上げられるような感じで、上空での乱気流なんて比べ物にならないくらい、強烈な揺れでした。
 
その揺れで本堂が全壊してしまったんです。住職を務めていた妻の叔母は、幸い大きな怪我はありませんでしたが、精神的なショックが大きく、高齢だったこともあり住職引退を余儀なくされました。
 

地震により、大きく損傷した善教寺本堂(画像提供:西守さん)

 
それで、今後は誰が住職を務めるのか、家族や親族で話し合うことになったのですが、誰も住職を引き受ける様子はありませんでした。見かねて、じゃあ自分がやると手を上げたんですよね。今思えば不思議な感覚ですが、率直に400年以上の歴史があるお寺を放っておくわけにはいかないなと。
 
家族や親族からは反対されるどころか、むしろ「どうぞどうぞ」という感じでした。私が手を挙げるのを待っていたのかもしれません(笑)。
 
――そこから得度習礼や教師教修を受けられたということですね?
 
西守:そうですね。早速、教務所へ向かい、最短のスケジュールで得度習礼と教師教修を受けられるように段取りをしていただきました。住職も体調不良の状態で指導してくださる方がおらず、み教えや基本的なことがらは書籍で学び、おつとめ(お経)はひたすらCDを聴いて練習しました。時間もなかったので、猛勉強の日々でしたね。
もともと、他人ができることは自分もできると思ってしまうタイプだったので、得度習礼や教師教修の中でつらいと感じたことは特にありませんでした。唯一、正座はきつかったですが。
 
――住職としてご活動されるなかで、大変なことや難しいと感じることはありますか?
 
西守:僧侶としての活動とパイロットの仕事の両立が大変といいますか、スケジュールの工夫を求められていますね。月に3日くらいは愛知から熊本へ行き、法事や月忌参りを行っています。
どうしても日程が合わないときは、愛知の自宅に仮の本堂があるので、そこでおつとめを行い、その様子をカメラで収録し、DVDにしてご門徒の方へお送りしています。
 
難しいと感じるのは法話でしょうか。僧侶になった当初はどちらかというと感話に近いお話をしていたと思います。学んだことをなんとか法話らしく話していたといいますか……。ただ、航空業界でセミナー講師の経験があったので、人前で話すこと自体に抵抗はなかったですね。
 
――仏教やお寺の世界に入られて、なにか感じたことはありましたか?
 
西守:良い意味で、優しい世界なんだなと感じました。得度習礼の時は、全国各地から私も含めていろんな経歴を持つ方々が来られていました。そんな方々を誰一人として差別することなく、厳しくもみな平等に受け入れている姿には感心させられましたね。
 
――僧侶になられて、良かったと思うことはありますか?
 
西守:勝ち負けや上下ではなく、共に歩んでいくという仏教の考え方が好きですね。
これまで、私はビジネスの世界に身を置いていましたが、そこは勝負の世界です。「負けるもんか」という姿勢を貫き通す必要があり、味方にも恵まれましたが敵も多かったと思います。
一方、仏教のご縁をいただいてからは以前よりも競わず、争わず、物事に執着しないようになりました。すると、リラックスできるというか、日々の生活がスムーズになったように思います。
 
また、人と接することは好きなのですが、この世界に入るまで年配の方々と接する機会がほとんどありませんでした。
お参りで年配の方々と接する中で、人生の先輩の偉大さに気付かされる日々です。そんな気付きをいただけたのも、僧侶という生き方にご縁をいただいたからだと思っています。
 

すべてのご縁は、阿弥陀さまのお導きだった

   

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掲載日: 2022.04.22

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