「お経の動画が人気です」YouTubeを通して見えてきたものとは|武田正文さんインタビュー<後編>
新たなモデルに?武田さんが描く今後の展望
ーー今後、YouTubeでのご活動はどのような展開をされるご予定でしょうか?
武田:現在、試験的に行っているのが「メンバーシップ制度」です。これは、私のチャンネルに対して月額料金を収めることで、会員になれる制度ですね。
ーーメンバーシップ制度のメリットは何でしょうか?
武田:メンバーだけが視聴できる動画を投稿できるようになります。視聴できる層を限定することで、例えば仏教ではもう少し踏み込んだ話題、心理学ではうつ病といった取り扱いに気をつけなければいけない話題を投稿しやすくなりますよね。
65人(*1)ほどメンバーシップに登録していただいており、幸い今のところは大きな問題も起こっていません。
*1 2021年3月現在
ーー寺院における新たなご縁づくりとしても期待できるかもしれませんね。
武田:地域の門信徒の方々はもちろん、距離的に離れた方へもご仏縁が広がれば嬉しいですね。家単位から個人単位へと布教の対象が変わりつつある中で、新たなモデルとして検討する余地はまだまだ残されているのではないでしょうか。
なにより、動画がご縁となって実際にお寺へお参りに来られた方もいらっしゃいます。そうした意味で、大変ではありますがYouTubeに取り組む価値はあるのではないかと思っています。
ーー最後に、今後の展望をお願いします。
武田:僧侶としては、これまでと変わらずお参りや法座を大切にしつつ、オンラインでの布教伝道を模索し続けたいと思っています。YouTubeの他にもSlackといった他のプラットフォームを活用した情報発信や交流を試みています。しばらくは試行錯誤が続きそうです。
臨床心理士としては、本格的に研究活動に取り組みたいと考えています。1人で何かを成し遂げても、継続性がなければ今後に続きません。なので、得られた成果をノウハウとして共有し、さらに踏み込んだ研究へと繋げられればと思っています。
今は世の中が激しく変動しています。その中で、僧侶もすべてこれまで通りとは行かないのではないでしょうか。もちろん、一人では難しいこともありますので、仲間とノウハウを共有しながら、積極的に挑戦できればと思っています。
<編集後記>
さまざまな事情でお参りに行きたくてもいけない方々への現実的なサポート手段として始まった、武田さんのYouTubeへの動画投稿活動。その活動はいま、多くの支持者を得て、新たな波になろうとしています。
YouTubeを通して、多くの方々へと仏教をお伝えできたことは、武田さんを始めとする、新たなツールにひるむことなく悩める方々のために積極的な挑戦をつづけてきた僧侶たちの、ひとつの成果と言えるのではないでしょうか。
臨床心理士としての活動、そしてYouTubeでの活動を通して「いま、お坊さんが社会に求められているように感じます」と振り返る武田さん。
混迷極める現代において、仏教に関心がある方はたくさんいらっしゃるのかもしれません。そういった方々のもとへ、どうやって仏教をお伝えしていくのか。これまでの法座を大切にしながらも、同時にあらたな手法を模索していく必要がありそうです。武田さん、ありがとうございました。
Profile
島根県、浄土真宗本願寺派高善寺衆徒。あるときはお坊さん、またあるときはカウンセラー。病院、学校、企業、お寺など様々な場面で心の悩みに向き合う。普段は馴染みのない「仏教」を心理学から分かりやすく紹介し、「生きる」ための仏教を探究中。お寺では寺子屋やプログラミング教室を開催し、地域で必要とされるお寺を目指している。山陰中央新報にて『教えの庭から』執筆中。趣味は音楽。