「読んだ人が伝道の当事者になる」みんなのいいね!が集まる「お寺の掲示板大賞」|江田智昭さんインタビュー<後編>
ビビっと来る言葉は人それぞれ違う
――「お寺の掲示板大賞」が与えた影響をどのような場面で感じられますか?
江田:掲示板に書く言葉を探しているお寺の方も非常に多かったみたいで、お寺の掲示板大賞に選ばれた標語を参考にしているというお話を聞くときでしょうか。そういった意味では、この企画が掲示板標語の提供になっていると同時に、高僧の言葉でも、芸能人の言葉でも多様な中から言葉を選ぶ中で寺院関係者の感性が磨かれ、掲示板大賞を通して全国のお寺の掲示板の文言が全体的に変化しているように思いますね。あと、最近お寺の中での布教使さんのお説教にも掲示板の言葉がかなり登場しているようです。掲示板の短い言葉を話題にすると、きっと話をしやすいのでしょう。
――なるほど。ちなみに大賞となる標語を選ばれるときの基準はあるのでしょうか?
江田:標語内容のありがたさ・ユニークさ・インパクトなど一応基準を定めていますが、決める側の感性も違うし優劣をつけるのは難しいので、賛同いただいている掲載メディアごとに賞を作ってもらって、それぞれで決めていただいています。
でも、意外と受賞作品が被らないんですよ。それだけ人々の価値観が多様なんだと感じます。最初見たときは何とも思わない掲示板が、後から良いなと思ったりすることもあります。沁みる言葉や注目する言葉って、その時その時でかなり変わるんですよ。
――投稿する人、選ぶ人、見る人。それぞれで注目する掲示板も、それを選んだ理由も違うのかもしれませんね。
江田:掲示板の標語に、これが正解というのはないんですよ。感想を見ていても、どの標語にどう思ったかは皆さんバラバラなんです。それが面白さだし、良さだと思うんですよね。
――お寺の掲示板に関わる中で、大変だったことはありますか?
江田:今はダイヤモンド・オンラインで、このお寺の掲示板の紹介記事を週に1回のペースで連載中ですが、以前1か月間ほど、毎日連載をやったことがあったんですよ。普通は連載するのに必要な原稿量がある程度揃ってやっと連載ができるそうですが、私の場合は連載が始まる5日前くらいから原稿を書き始めたので毎日が締め切りでした(笑)。本当に大変で、文献や資料を調べる時間も全くありませんでした。その1か月間は夢の中にも掲示板が出てくるような状態で、連載がよく止まらなかったと今でも思います。そんな状況で書かれたものをまとめたのが、書籍「お寺の掲示板」です。
お寺の掲示板大賞より
江田:連載を書いているときは締め切りを守るのに精一杯でまさか本になるとは思ってもいませんでした。それが新潮社から本になり、おかげさまで出版から2年以上経った現在も売れ続けています。そして、今年の9月には続編の『お寺の掲示板 諸法無我』が発売されました。
準備する時間があればもっと良いものができたかもしれませんが、皆さんに注目されるかと言えばそうでもないし、計算すると逆に見てもらえなかったりします。「本を作る作業」と「掲示板の言葉を考える作業」は「狙いすぎると当たらない」という点で共通していると言えるかもしれません。
――そうですね。ふとこぼれ出た言葉のほうが、人を揺さぶることもあるのかもしれません。「お寺の掲示板大賞」は、そうした直感的に自分が良いと思えたものを発信して共有しやすい仕組みができているように感じました。