★PICK UP「チェコでお葬式をして、オランダで法事をしました」お寺の少ないヨーロッパで奮闘した僧侶の話│江田智昭さんインタビュー<前編>

「浄土真宗って何?」ドイツで仏教を伝える難しさ

 

ドイツ惠光寺の写真 (写真提供:江田智昭さん)

 

ドイツ惠光寺の報恩講の写真 (写真提供:江田智昭さん)

 
――ドイツでは、主にどういった活動をされていたのでしょうか?
 
江田:デュッセルドルフにある、ドイツ惠光寺(えこうじ)というお寺で僧侶をしていました。
正直、ドイツでは浄土真宗はマイナーです。またドイツだけでなくヨーロッパでは、一般的にチベット仏教の影響力が強く、仏教と言えば「ダライラマ、瞑想、坐禅」といったイメージがあるので、「浄土真宗って一体何なんだ?」っていう認識なんですよね。
 
でも、そうした中にもご興味を持ち、お念仏をよろこぶ方はいて、そういった方々に浄土真宗の教えを伝えるのも役割の一つでした。ちょうど私がいたころ、3人のドイツ人が京都の西山別院で得度をする機会があり、お経の練習や衣の着方、たたみ方の練習を何度も繰り返したことをよく覚えています。しかし非常に難しかったですね。
 
また、プレッシャーもありました。当たり前と言えば当たり前ですが、教えの面でもお経の音程や作法の面においても正確でなければいけません。仮に私が間違ったことを伝えてしまえば、それが「本当」のこととしてヨーロッパの人たちに伝わってしまいますから。
 
――デュッセルドルフの方にとっての教科書だったということでしょうか。確かにそれはものすごいプレッシャーですね。お寺には、他に僧侶はいらっしゃらなかったのですか?
 
江田:ドイツ惠光寺はドイツ日本文化センターという側面も持ち合わせていたので、そこの所長兼住職のような立場の方は当然いましたが、さまざまな法事などを私が担当することも多かったですね。
 
日本なら他にも僧侶仲間がたくさんいるので、困ったときには相談したり協力を仰いだりすることができますが、ヨーロッパではそれができません。お寺と門信徒という関係性もないので、いつも法座に来られていた人が最近来なくなったなと思ったら、他の団体の集会に行っていた、といったようなことも日常茶飯事でした。
 
ドイツでは、浄土真宗だけを信仰しておられる人は少なくて、座禅会にも参加しながら法座にも来るという感じの人が多いんです。その中で教えを伝えるのは本当に難しいと感じましたね。
 
――絶えず自身の実力が試されているという環境下。それもミスも許されない中活動されていたんですね。ドイツ以外の場所でも活動されることはありましたか?
 
江田:チェコのプラハ(*1)でお葬式をしたこともありますし、法事でオランダにも行きました。ヨーロッパにはお寺がほとんどないので、出張することはよくありましたよ。
 
――出張の中で、印象的な出来事はありましたか?
 
江田:プラハでお葬式をしたときのことです。
ある日、「母が亡くなったのでお葬式をお願いしたい」という連絡が入りました。その連絡はプラハ在住の男性からで、お母さんもプラハで同居されていたとのことでした。お母さんは、ご実家のある福岡県の小倉で懇意にされていたお寺があり、「亡くなったら浄土真宗のお葬式をしてほしい」と希望されていたそうです。そのこともあり、息子さんがお葬式をどうしようか考えられていたとき、ドイツに福岡県出身の浄土真宗の僧侶がいると知って連絡して来られたみたいです。
 
プラハにはお寺がなく、手を合わせるご本尊もありませんでした。ですから、私がデュッセルドルフからご本尊(*2)をお持ちし、プラハの葬儀場でお勤めをしたんです。ヨーロッパの葬儀場はほぼすべてキリスト教の形式になっていますので、大きなキリストの像の前に小さいご本尊をご安置して、お経をおとなえしました。ものすごく印象に残っていますよ。ご家族や、現地の日本人のご友人もすごく喜んでくださいました。
ヨーロッパでは仏教式のお葬式はなかなかできないので、大変喜ばれます。何より、お寺のない土地でもお念仏を大切にしている方がいる、ということに感動しましたね。すごく嬉しかったです。
 

*1 プラハ:チェコ共和国の首都
*2 本尊:崇敬の中心として安置される仏・菩薩などの影像や名号のこと。
浄土真宗では、阿弥陀如来の木像や映像、あるいは名号を礼拝の対象として安置する。(『浄土真宗辞典』より抜粋)

 
 
 

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掲載日: 2022.11.24

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