お寺はいろんな人が集まるコミュニティハブ│舟川智也さんインタビュー<後編>
両徳寺 舟川智也さん
法話グランプリ出場僧侶が語る、聴くことの大切さ│舟川智也さんインタビュー<前編>
共感をよぶ法話をめざして
――法話をされるときに大切にしていることを教えてください。
舟川智也さん(以下:舟川):やはり阿弥陀さまのお心を伝えることです。そのためには一方通行ではなく、「共感」が大事です。
浄土真宗の話はわかりにくいものです。世間の価値観と違うものを提示しているわけですから。そのことをわかった上で、あえて常識を壊していくのです。世間の価値観が全てだと、人生苦しくないですかね?という問題提起です。
たとえば、「努力は実る」という常識があります。浄土真宗では頑張ったものが報われるとは言わず、どんな人もひとしく救うと言います。なぜそういう結論になったのか、浄土真宗のここがわからない、という疑問点に丁寧に応えていくような話し方を心がけています。
あるご門徒のお宅に月参りにうかがったとき、「良いことをしたからお浄土に、悪いことをしたから地獄に行くよと話してくれた方が分かりやすいのに」、と言われたことがあります。たしかに悪いことをしたら牢屋、良いことをしたら表彰されるのが、世間のルールです。これをあべこべにしたら世の中、無茶苦茶になることでしょう。しかし注意しなければいけないのは、どの立場でものを言っているのか、という自覚の問題です。私はそれなりに良いことをやってきたから浄土行き。他人はそうでもないから地獄行き、というふうに思いあがってはいないでしょうか。自分のやったことで行き先が決まるのなら、むしろ私は地獄行きというのが自然な成り行きではないでしょうか。
ここを丁寧に話していったりしますが、このように月参りの中にお説教のヒントがあります。身近な出来事やご門徒さんのちょっとした疑問を切り口として話を広げていき、その先に共感があると思っています。
2022年6月に築地本願寺で開催した自主法話会の様子
――YouTubeチャンネル「みんなでおてらいふ」について教えてください。
舟川:2020年の6月に開設し、週2回ペース(現在は週1回ペース)で配信しています。
きっかけの一つはコロナ禍です。布教がキャンセルになるなど時間が空き、また一方ではお寺で集まることも難しくなりました。それでも何らかの形で仏教を届けたいと考えてYouTubeチャンネルを開設したのです。
もう一つのきっかけは、とあるご門徒さんです。お寺に来ませんか、とお誘いしたのですが、介護が忙しいので法座にお参りができないとのことでした。その方は後日、介護をしていたお母さまが亡くなられてからお寺の法座に来てくださいました。そこで、こんな話ならもっと早く聴きたかったと言ってくださいました。そのとき、みんながいつでもお寺参りできる状況ではないので、家に居ながら法話を聴けることは大事なことだと思ったことも、YouTubeを始めた動機のひとつです。