仏壇は生きる力をくれる 利他の心で優しい社会を│アルテマイスター(株式会社保志)保志康徳氏インタビュー<後編>

前編に引き続き、老舗の仏壇メーカー「アルテマイスター 株式会社保志」の保志康徳(ほし・やすのり)社長にお話をうかがいました。
 

 

 

仏壇は生きる力をもらえる場所

 

 
――そもそも、仏壇はなぜ必要なのでしょうか?
 
保志康徳さん(以下、保志):もともとは寺檀制度があったために、各家庭に仏壇が置かれるようになったのだと思います。近代以降は、戦争や大災害等で大切な方が亡くなったとき、手を合わせる場を求めて仏壇が広まっていったのではないでしょうか。
 
経済が成長するにつれ、各家庭において、住宅の建築とセットで仏壇が置かれていきました。家と仏壇を持つことがステータスや出世の象徴でもありました。
 
いま、若い方になぜ仏壇が必要なんですか、と問われたら、ご先祖さまを大切にしたり、迷った時に念ずる場所があった方がよいですよ、と答えます。身近なところに拝める場所、生きる力をもらえる場所があった方がいいと勧めたいです。仏壇の前で手を合わせ、家族の幸せを願ったり、世界の平和を願う。当社は豊かな心を創ることをサポートする一つの手段としてお仏壇を提供させていただいています。
 

考案した仏壇のひとつ「白虹A型」

 
保志:現代は家族の形態や生活スタイルが大きく変化しているため、当社としても、伝統ある文化や習慣を重んじながらも、今を生きる人の暮らしと心に寄り添える仏壇のあり方を模索しています。たとえば、百貨店に当社のアンテナショップを設けています。お客さんは必ずしも仏壇購入を目的に来店されるわけではなく、ふらっと立ち寄られます。
 
そこでは、サイズの不満など、様々な改善点をご指摘いただけます。仏壇に興味がある方のうち、身近な方へ手を合わせたいという方が9割です。まれに、ご本尊を拝みたい、マインドフルネスを行うために欲しい、という方もいらっしゃいますが、最初から特定の信仰をお持ちの方はごく一部です。はじめは仏壇のかたちにはこだわらず、信仰への入り口は広い方が良いと私は考えています。
 
また、いまお持ちの仏壇にも工夫を施しています。昔から使ってきた仏壇のかたちや大きさが、これから使う人の生活や住まいに必ずしも合うとは限りません。「綺麗にして子どもに引き継ぎたい」「マンションへの引越しに合わせ、小さなものにしたい」など、大切な思いがこもった仏壇を次の世代へつなぐために、お使いの仏壇を活かし、生まれ変わらせる取り組みをしています。
 
さらに仏壇は、伝統的な様式を急に変えることは難しいため、まずは仏さまや経典等を安置する「厨子(ずし)」の改良にチャレンジしています。厨子は仏壇と比べるとデザインの自由度が高いため、デザイナーや工芸職人など、様々な分野で活躍する一流のクリエイターと協働し、新しいデザインを考案しました。
 

考案した厨子のひとつ「工房厨子 勝常」

 

かっこいい大人は他人のために手を合わせる

 
――仏壇とともに宗教のあり方も変わりつつあります。現代において、宗教の役割はなんでしょうか?
 
保志:いわゆるコロナ禍で不安が募り、先行きが見えない時代において、宗教は希望の光です。生きるうえで困った時の力となるものです。私は宗教のエッセンスを、日本の教育の中に根付かせていくべきだと考えています。日常生活において、見えないものの価値や気づきを教えてくれる機会が世の中に少ないように思うからです。
 
一方で、宗教に対して悪いイメージや不信感を持つ方もいます。ですから、宗教者もイメージをアップデートする必要があると思います。僧侶の方がご自宅に月参りの読経に行く習慣がある地域でも、断られるケースが増えてきたと聞いたことがあります。形だけではなく、関係を築いたうえで、心のよりどころとなるような時間が求められているのです。
 
従来通り教えを伝えることは大事ですが、悩んでいらっしゃる方に、安心していただくことも大事ではないでしょうか。正しさも大事ですが、幸せに向かっていけるように寄り添い、導くことが大切だと思います。
 
――今後の展望をお聞かせください。
 
保志:WHO(世界保健機関)は、2030年には、うつ病が『健康な生活に影響を及ぼす疾病』の第1位になると予測しています。
(リンク:https://www.igakuken.or.jp/project/to-tomin/to-pro16.html
病院で治療することはもちろんですが、ならないための予防が大事だと思います。心の健康の領域については、私どもの産業やお寺さんの出番だと思います。
 
これからの時代に必要な成長産業と言えますし、無くてはならないものだという使命感も感じています。未来がこわいから子育てもこわい、周りに迷惑をかけたくない、と萎縮している若い方が多いように感じます。気持ちよく元気に生きる社会を目指し、生きるってすばらしい、働くってすばらしい、と感じてほしい。
 
そして、かっこいい大人は他人のために手を合わせ、念ずるもの、というイメージを若い方に伝えていきたいです。悪いことをしても得をすればよい、というような考えの社会では良くないと思います。多くの人が元気になったり、自分の役割に気づいて利他の活動を始めるきっかけをもたらしてくれるのが、見えないものに感謝し、手を合わせる日本の精神文化だと思います。
 
自分の幸せを願うこと、そして自分以外の大切な人の幸せを願う利他の心が広まることで、昨日よりも少し優しい世の中になる。そんな未来に貢献することが私の夢であり、会社の夢です。
 
――本日は、ありがとうございました。
 

写真左:保志社長、写真右:頼れる社員、東海・九州エリア長の木元健太郎さん

 

<編集後記>

時代に応じた仏壇の形を模索し、チャレンジを続ける保志社長。老舗としての、ものづくりへの確かな自信とともに、物質を超えた精神文化を創りたいという強固な志を感じます。見えないものに手を合わせ、利他の振る舞いを心がけていくこと。そんな日本の豊かな精神文化を守り、育んでいくために、宗教界にもまだまだできることがありそうです。

 
記事作成:他力本願.net
掲載日: 2021.08.20