葬儀の過去・現在・そして未来│国立歴史民俗博物館 副館長 教授 山田慎也さんインタビュー<後編>

 

死者との濃密な時間

 
――寺院葬(本堂葬)についてどのように思われますか?
 
山田:ありですね。本堂で葬儀をすることも大切ですが、その際には遺体を安置して通夜できることが重要です。数日かけて寺院もご遺族とともに故人に寄り添えることが大事です。いま、東京などでは死者と一緒にいる場が少ないのです。自宅にご遺体が戻ることはほとんどなくなり、多くの場合、霊安室や保存庫に安置することになります。葬儀の数時間しか遺体とともにいないのが現状です。遺体を目の前にすることは強烈な体験で、死を厳格に受けとめる場になります。西日本の葬儀社は通夜室をつくって、ご遺族が泊まれる場を設けてきた傾向があります。お寺としても負担が大きいから難しいのかもしれませんが、ご遺体を安置できる場があることがのぞましいです。
 
文化人類学者の波平恵美子先生が、日本の葬儀はひたすら遺族が故人を確認してきたと指摘しています。遺体や顔を何度も見て、安らかであると確認し、この世から次の世界に旅立っていくことを見守ってきたといいます。そこには死者との濃密な時間があります。特に現代は普段離れて暮らしていて、いるのかいないのか、亡くなったのか亡くなっていないのか実感がもちづらいのではないでしょうか。
 
死と向き合うときに、遺体が一番わかりやすいのです。その意味で、葬儀社の納棺、僧侶の臨終勤行は、非常に重要な場だと思います。お寺にご遺体を安置することは、お寺復活のきっかけになるかもしれません。
 
――ご自身の死生観を教えてください。
 
山田:なんとなく、勝手な言いかたですが極楽往生できる気がしています。先に逝った会いたい人々、懐かしい人々に会える場所に行けるのではと思っています。一方で、妻は「私は輪廻するからもう会えないね」などと言いますが。
 
――今後の展望をお聞かせください。
 
山田:来年度から国立歴史民俗博物館で、基幹研究として「高齢多死社会における生前から死後の移行に関する統合的研究」というプロジェクトを立ち上げる予定です。生前から死後に至るまでの諸事象の統合的な研究を始めます。そのためには、社会福祉学、医学、医療人類学、社会学、民俗学、宗教学など、学際的に研究していかなければいけません。現状では死を境に研究分野が分かれていますが、相互が乗り入れていく必要があります。これまでにないチャレンジになると思います。
 
――この度はありがとうございました。
 
 

プロフィール

 

 

山田慎也  博士(社会学、慶應義塾大学、2000年)
1992年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、1994年慶應義塾大学大学院社会学研究科修士課程修了、1997年同大学院博士課程単位取得満期退学、1997年国立民族学博物館COE研究員、1998年国立歴史民俗博物館民俗研究部助手、2002年英国オックスフォード大学ニッサン日本研究所及びセントアントニーズコレッジ客員研究員、2007年国立歴史民俗博物館研究部准教授、2019年教授昇任、2020年より広報連携センター長、2022年より副館長。また総合研究大学院大学文化科学研究科日本歴史研究専攻教授併任。
 
専門は民俗学・文化人類学。とくに葬送儀礼の変容と死生観について興味を持ち研究を続けている。おもな業績に、単著『現代日本の死と葬儀─葬祭業の展開と死生観の変容』(東京大学出版会、2007年)、共編著『現代日本の「看取り文化」を構想する』(東京大学出版会、2022年)、共編著『無縁社会の葬儀と墓─死者との過去・現在・未来』(吉川弘文館、2022年)、『変容する死の文化─現代東アジアの葬送と墓制』(東京大学出版会、2014年)など。

 

   

Author

 

他力本願ネット

人生100年時代の仏教ウェブメディア

「他力本願ネット」は浄土真宗本願寺派(西本願寺)が運営するウェブメティアです。 私たちの生活の悩みや関心と仏教の知恵の接点となり、豊かな生き方のヒントが見つかる場所を目指しています。

≫もっと詳しく

≫トップページへ

≫公式Facebook

掲載日: 2023.03.23

アーカイブ